第二十五話 TP工房の思惑

 ジェイクはそれを聞いて顔を曇らせた。アントンを見せびらかしたらまた彼を悪し様に言われるかもしれない。アントンは繊細な性格だ。それに、ジェイクもアントンの悪口を言われるのは二度とごめんだった。ジェイクにとって、アントンは誇りだからだ。
「あ……うちの職人は出不精で人間嫌いだから、人前に出すのはちょっと。へそ曲げてまた仕事ボイコットされても困るんで。すみませんね」
 適当にもっともらしい建前を並べると、男は(職人だから気難しい人なのかもしれない)と納得して、「それは失礼しました」と引き下がった。
「せめてお名前だけでも教えていただけませんか?その、職人さんの。私もこの銃を知り合いに自慢したいので」
「アントンです。アントン・ニコルソン」
「アントン・ニコルソン……ありがとうございます。郷里に帰って自慢します」
 ジェイクは機嫌を良くして会計を済ませ、客を見送った。
 客の姿が見えなくなると、ジェイクは隣の工房に顔を出し、アントンを褒め讃えた。
「アントン!またカスタム銃が売れたぜ!客はお前のこと郷里に帰って自慢するってよ!アントン様様だぜ!お前が銃のカスタムするようになってから銃が飛ぶように売れるよ!お前はうちの誇りだ!」
 得意気なジェイクの上機嫌な様子に、アントンは笑顔を向けた。
「ジェイクのお役に立てて光栄です」

 さて、所変わって数日後のTP工房会議室。そこには先日ジェイクの店に顔を出した男が、TP工房の幹部の前で購入した銃をお披露目していた。
「モハメット社の廉価版の銃ですが、まずはこれをご覧ください」
 男は試し撃ち用の弾を込めて素早く六発連射した。
「このように、この銃はハンマーを起こす動作をカットし、トリガーを引くだけで弾が連射できるようカスタムされています。どんなギミックが施されているかまだ未確認のため、この場の方々に精査していただき、今後の商品開発にお役立ていただけますようお願いいたします」
「なるほど……」
 幹部の中で最も銃の仕組みに詳しい職人が、丁寧にパーツを分解してゆく。
「ほう。そうか、ここがこう連絡してこう動くんですな。これは思い切ったカスタムだ。粗削りだが、この型を取れば複製は可能ですな」
「一丁一丁こんな手をかけてカスタムしているのか。この機構をよく考えだしたものだ。是非ともこの職人が欲しいな。詳しい話を聞いて、量産体制を確立したい」
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