第十九話 かけがえのない存在

 ジェイクは武器屋に帰ってきて、店じまいと清掃をするアントンとロゼッタにうわあッと抱き着き、号泣した。
「ジェイク、どうしたんですか?また発情ですか?」
「どうしたのジェイク、泣かないで?」
 ジェイクは慟哭に喘ぎ、上手く回らない口で泣きながらわあわあと何事か叫んだ。
「ジェイク、落ち着いて。どうしたんです?」
「お前らのせいで、お前らのせいで……!」
「あたしたち何かした?」
 ジェイクはわああと慟哭し、「お前らのせいで俺は振られたじゃねえかよお~~~!!!」と叫んだ。
「モモさん、ですか?僕らのせいって…?」
 そこへモモが息を切らせてやってきた。ジェイクを追って走ってきたのだろう。
「ジェイク、誤解しないでほしいのは、アントンとロゼッタは、本当にジェイクのことが好きなんだってことだよ。ボクはきっと知らないどこかの誰かとでも上手くやっていける。でも、アントンとロゼッタにはジェイクしか頼る人がいないんだよ。二人とも本当にジェイクを愛してるんだなって思ったんだ。ボクはそれに負けて、二人に譲ろうと思ったんだ。二人のせいって、二人を責めないで?二人共を、愛してあげて?それだけは、キミに言いたい。ボクのことが嫌いになってもいい。でも、ジェイク、キミは、アントンとロゼッタを、どうか愛してあげて……!」
 「それだけは、言いたい」と、モモは泣く事すら忘れて傾聴していたジェイクに念を押した。
 ジェイクは説得しに来たモモから視線を外し、アントンとロゼッタの顔を交互に見つめた。二人とも、ジェイクを心配そうに見ている。その顔を見て、ジェイクの心の中で何かがブチッと切れた。おそらくそれは、モモへの未練。それと同時にジェイクの心に広がったのは、アントンとロゼッタへの、たまらない愛おしさ。
「お前ら……。お前らのせいで……俺……お前らしかいなくなっちまったじゃねえかよ……」
 そう力なくつぶやき、ジェイクはアントンとロゼッタをまとめて一緒に抱きしめた。
「ジェイク……」
「モモさん、良いの……?」
 戸惑いを見せるロゼッタに、モモはこくりと頷いた。

 この一件を機に、ジェイクはモモへ執着するのを一切、止めることにした。代わりにジェイクは、今までより一層二人に対して愛情深い様子を見せるようになった。
3/3ページ
スキ