第十九話 かけがえのない存在

 一週間後、モモが店に出勤しているのを見止めたジェイクは、モモが帰宅する時間に再び店に顔を出し、モモを捕まえた。
「モモ、具合はどうだ?もう落ち着いたのか?」
 モモは今一番会いたくなかったジェイクに捕まり、一瞬苦い顔をしたが、かぶりを振って顔に笑顔を張り付けた。
「うん、もうすっかり元気だよ。この間はごめんね。介抱してもらったのに追い返しちゃって」
「それなんだがよ。……まあ、そこの公園で話そうや」
 ジェイクはモモを公園に誘い、ベンチに並んで座って、モモの真意を確かめようとした。
「モモ、俺、お前に何か嫌なことしたか?なんで俺とだけは絶対嫌だなんて言うんだよ?俺たち普通に友達だったよな?」
「う、うん……。友達だから、だよ」
「このまま恋人になってくれない理由は何だ?ミミは関係なかったって分かったよな?」
 モモは言い淀んでもごもごと唸り、俯いている。正直、モモにもジェイクと恋人になりたくない理由は判然としない。だが、最近になって、ちょうどいい理由が見つかった気がする。それをどう説明すればいいか、モモには難しい問題だった。ジェイクは結構荒っぽいところがある。逆上して襲われたりしないかどうか、それがどうしても怖い。
「ジェイク、今冷静?」
「え?冷静だけど」
「怒らないで聞いてくれる?」
 そう言われるとどんな腹立たしい理由が出てくるやら恐ろしくなって構えてしまう。
「ん……解った。怒らない」
 モモはすうっと深呼吸して、おずおずと話し始めた。
「ジェイクの誕生日にね、ロゼッタとアントンがボクのところにやってきて、誕生日プレゼント選んでくれって言ったの。二人とも、それはもう、どれほどジェイクのことが好きか熱心に語っていてね。ボクは、負けちゃうなって思ったんだ」
「そんなことねえよ!俺はあいつらのこと別に何とも思ってねえし!俺が好きなのはモモだけだよ!」
「でも!」
 モモは顔をあげてジェイクの瞳を見つめて言い放った。
「あの二人にはジェイクしかいないんだよ!」
 沈黙。
 そして、モモはジェイクにはつらい本音を語った。
「ボク、ボクは、ジェイクじゃなくても、誰と付き合っても平気なの。でも、あの二人にはジェイクしかいないんだよ。そんなの、ボクがジェイクを奪っていいわけないじゃん?ボク、ジェイクじゃなくてもボクを愛してくれる人だったら誰とでも付き合えるんだもん。誰でもいいの。ボク、モテるから。だからジェイクじゃなくていいの。だから、ボクはジェイクと付き合っちゃいけないと思って……」
「俺がハゲた猫だから俺だけは除外するってことか?」
「違うよそれは関係ない!ロゼッタとアントンを愛してあげてって言いたいの!」
「俺はモモがいい!」
「駄目だよ、ボクは君を奪えないよ!」
「なんでだよ!何でモモはそうやって周りに気遣ってばっかなんだよ!俺のことが好きになれない決定的な理由は何だ?!はっきり言ってくれよ」
 モモは正直に言おうと考えた。
「……ジェイクのことは、どうしても男性として見れない。友達でいたい」
 ジェイクは弾かれたように逃げ出した。
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