第十九話 かけがえのない存在

 ジェイクは肌に触れた冷たい感触で目を覚ました。シーツが汚れているのを見て、さっきの出来事を思い出す。発情はすっかり落ち着いていた。
「アントンには悪いことしちまったな……。いくら発情してるからって、あんなことさせちまって……」
 ジェイクは汚れたシーツをはぎ取り、丸めて洗濯籠に運ぼうとしたところで、部屋を訪れたアントンと鉢合わせになった。
「あ、ジェイク、起きたんですね。具合はいかがですか?」
「あ、ああ、すっかり大丈夫だ」
 アントンの顔を見て、さっきの出来事を思い出し、ジェイクは気まずさを覚えた。謝るなら早い方がいいか……。
「アントン、さっきは悪かったな。あんなことさせちまって」
 ジェイクに謝られてアントンは動揺した。謝られるようなことではないと思っていた。
「とんでもないです!むしろ嬉しかったです!」
「え……?」
 正直に言ったのだがジェイクがドン引きしたので、アントンは慌てて言い繕った。
「あ、あの、お役に立てて嬉しかったです、はい」
「そうか……お前には、いつも面倒なことばかりやらせて、悪いな」
「気にしないでください!僕は本当に、ジェイクの役に立てるのが嬉しいので!」
 そこでアントンはジェイクが部屋を出ようとしたのを堰き止めてしまっていたことに気付き、ジェイクに道を開けた。
「失礼しました。お手洗いですか?」
「いんや、シーツ汚しちまったから、洗おうと思ってな」
「あ!じゃあ、僕シーツを新しいのと交換しておきます!」
「サンキュ」
 ジェイクが洗濯籠にシーツを放り込んで帰ってくると、アントンはジェイクの部屋で何やら深呼吸していた。
「すーーーーーーはーーーーーーーー」
「何してんだアントン?シーツ交換終わったのか?」
「あ、ジェイク。いえ、ジェイクの部屋の匂いが好きなので」
 ジェイクはそれを聞いて怖気が走った。
「気持ち悪いこと言うな?」
「シーツ交換は終わりましたよ。今日はもう夕方ですし、このままお休みください」
「何から何まで悪いなアントン。そうさせてもらうよ。軽く何かつまんで今日は寝るわ」
「おやすみなさいジェイク」
「おやすみアントン」
 そうは言ってもさっきまで眠っていたジェイクはなかなか眠れない。モモの様子、振られた理由、アントンの献身……。様々なことが胸を去来して、ジェイクは眠れぬ夜を過ごした。
「モモ、なんでそんなに俺のことを避けるんだよ。友達じゃなきゃいけない理由ってなんだよ……」
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