第十一話 「関兵八」の、包丁を研ぐ!!

 アントンと兵八は二階のキッチンへ上がって包丁研ぎ教室を開始した。ジェイクは店番から離れられないため店舗内からアントンを応援するにとどめた。
「さて、包丁研ぎに使う道具は、砥石二種類、砥石のメンテナンス用の砥石、滑り止めの布巾、水です」
「え、これだけなんですか?」
「ええ、簡単ですよ」
 まず布巾を水で濡らし、硬く絞ってテーブルに敷く。こうすると砥石がずり動かず固定されて安全に研ぐことができる。砥石はしばらく水に浸しておき、粗目の砥石から布巾の上にセットする。
「いいですか、包丁は45度に構えてしっかり握ってください。砥石に水をかけながら研ぎます。平らに寝かせず、10トット硬貨が二枚入るぐらい浮かせて研ぎます。そう、大体刃が平らにあたる角度が10トット二枚分の角度です。この角度は変えないでください」
「はい!」
「そうしたら上下に擦り付けて研ぎます。押すときに研げますので、押すときに力を込め、引くときは力を緩めてください。この力加減を逆にすると刃がボロボロになるので気を付けてください」
「はい!」
 アントンは慎重に包丁を研ぎ始めた。最初はゆっくり慎重に研いでいたが、次第に兵八が手を添えて包丁研ぎのリズムをアントンの身体に教え込むようになった。四本の手を添えられた包丁はみるみる鋭さを増していく。
「刃先がまだ研げていないじゃないですか。そこで、少しずつ刃先の方へ位置をずらして、刃先までこの動作を繰り返していきます」
 今度は裏返して反対側の刃も研ぐ。「カエリ」と呼ばれるバリを、円を描きながら研げば一旦は完成である。
「で、我々はプロの研ぎ師にならねばなりません。同じ工程を、細目の砥石で繰り返します。そうするとなめらかな仕上がりになるので、それが研ぎ終わったらお客様に出せますね。もう一回、細目の砥石で研ぎましょう」
「承知しました」
 アントンの学ぶ姿勢は謙虚でなかなか見どころがあるな、と兵八は感じた。たまに納品のたびに研修を繰り返せば、一流の研ぎ師になれるかもしれない。その夜、食卓を囲みながら兵八はアントンを絶賛し、アントンを褒められたジェイクはたいそう気を良くしたという。アントン本人に関しては言うまでもない。
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