第五話 不思議な夢の花

 その日、店に一人の猿族の紳士が銃の修理にやってきた。
「この店に腕のいい修理工がいると聞いてやってきたのだが、いるかな?」
 ジェイクはアントンを褒められて、得意になってアントンを紹介しようとした。
「ええ、いますよ。ちょっと変わったやつなんですが、日数をいただければ素晴らしいカスタムもいたします。連れて来ましょうか?」
「是非。噂に名高い修理工さんに一度お目にかかってみたいと思っていたんですよ」
「アントン!お客さんにご挨拶しな!」
 ジェイクがアントンを呼びに行くと、アントンはその顔を客の前に出すのをためらったが、しぶしぶ店に出て行って挨拶した。
「修理工のアントン・ニコルソンです。よろしく」
 すると紳士は差し出されたアントンの手と、毛むくじゃらの犬の様な顔を見比べて、握手の手を引っ込めた。
「あ、貴方何です?犬族?猿族?犬族なのに修理なんかできるのか?」
 ジェイクはアントンを庇って説明する。
「ああ、彼は猿族なんですが、ちょっと髭が濃くてですね……」
「猿族?!その顔で猿族だって?!気持ち悪い!こんな不潔な男に私の銃は預けられないな!汚らわしい!髭ぐらい剃ったらどうだ!」
 紳士の素直な反応に、アントンは「またか……だから出て来たくなかったんだよな……」と、案の定とは思いつつも傷ついてしまう。アントンは慣れっこだが、ジェイクにとっては信じられない反応だ。我が事のような無礼に、怒髪天を突いた。
「何てこと言うんだあんた?!不潔だって?!ちょっと髭が濃いだけだろうが!毎日シャワーさせてやってるぞこっちは!ちょっとあんまりじゃないのかその言い草は?!」
「何だと?奇形の猿に任せる銃は無いといって何が悪い?」
「ジェイク、いいのです」
「よくねーよ!見た目でこいつの何が解るっていうんだ?!俺はこいつの腕に惚れ込んでこいつを雇ってんだ!こいつを尊敬している!うちの自慢の修理工の悪口言う奴はうちの客じゃねえや!帰りやがれ!」
 ジェイクはまくしたて、紳士の胸ぐらをつかんで玄関に追いやった。
「な、何て失敬な店主だ!私は客だぞ!代わりの修理工を出せと言っているんだ!」
「うちの修理工はこいつ一人だけだよ!失敬はどっちだ!おら、帰れ!」
 ジェイクは胸ぐらを掴んだままドアを開け、客を蹴り出して玄関のドアを閉め、施錠した。客はやんやと罵声を浴びせていたが、やがて諦めて帰って行った。
「アントン、悪かったな、お前を店に出しちまって。気にすんなよ、あんな奴は。俺はお前を尊敬しているぜ」
 アントンは唖然と一連の流れを見守っていたが、心の奥で何かがスパークした。未だかつて、こんなに必死に自分を庇ってくれた人はいなかった。そのうえ尊敬しているだなんて。
(ああ、この人に、地獄までついていこう)
 アントンには、ジェイクの笑顔が菩薩のように思えた。
「ジェイク……。ありがとう、ございます……!」
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