第五話 不思議な夢の花

 翌朝、気まずい思いをしながらジェイクとアントンがリビングに降りていくと、ロゼッタが賑やかに足音を立てて降りてきて、ビッグニュースを喧伝した。
「聞いて!夕べね、面白い夢見たの!すっごかったんだよ!めちゃくちゃリアルなの!」
「あ、ああ、そうか」
「へ、へえ、どんな夢だい?」
 ロゼッタは胸を張って夢の内容をまくしたてる。
「あたしに秘密のパワーがあってね、魔法銃を撃ったらどぉーん!って、ドラゴンが出てくるの!それ見てジェイクがね、『お前凄いなー!』ってめっちゃ褒めてくれたの!すごかったんだよ!ガオーン!ってでっかいドラゴンが出てきてさあ!冒険者の人たちビックリしてたの。あたし大活躍だったの!」
「ほう、お前に隠された力ねえ……」
「ああ、この夢本当にならないかな。ジェイクの役に立ちたい」
 まさに夢見心地のロゼッタを横目に、ジェイクはアントンにそれとなく聞いてみる。
「お前、なんか夢見た?」
「ええ?!い、いえ、特に何も……」
 急に話を振られたアントンは夢の内容を思い出してドキリとしてしまう。咄嗟に嘘をついたが、言えるわけがない。ジェイクをレイプをした夢だなどとは。アントンは自然な流れを装ってジェイクにも聞き返してみる。
「ジェイクは何か夢見ましたか?」
「ぅ俺ぇ?!俺は、別に夢らしい夢は……覚えてねえよ」
 思わず動揺してしまったが、不自然ではなかっただろうか。話を振られても困ってしまう。アントンに想いを告げて追いすがる夢だなどとは。
 この日はただの夢で済んだのだが、その夜は前夜の夢の続きともいえるような、同じ内容の後日談の夢だった。ジェイクは孤独に泣き、ロゼッタにそれは恋ではないかとアドバイスされる夢。アントンはジェイクに何度も体を求められる夢。ロゼッタだけが健康的に、大魔法使いになる大冒険の夢である。
 その次の朝の空気と言ったら目も当てられない。ロゼッタはますます有頂天に夢の話をするし、ジェイクとアントンはお互いが目を合わすのも気まずい。ジェイクは何となく恋しい気持ちを引きずってそわそわしてしまうし、アントンは心臓だけが興奮から冷めやらず顕在意識との壮大な解釈違いに混乱してしまう。
(この夢は墓場まで秘密にする……)
(僕が、ジェイクと……?やめてくれ。うう、心臓が辛い)
 しかし、その夢は早々に現実になることになる。
3/4ページ
スキ