第五話 不思議な夢の花

 その夜、三人は奇妙な夢を見た。まるでそのシーンを体感しているようなリアルな夢で、五感が限界を超えて覚醒したような、現実より生々しい体験だった。
 ジェイクは胸をかきむしられるような焦燥感を感じながら、去り行くアントンの後姿に追いすがった。
「頼む、行くな!行かないでくれ!お前がいなくなったら俺は生きていけねえよ!」
 しかし、アントンは顔中を覆う毛の中から射貫くような冷たい目でジェイクを一瞥するのみだ。
「何をいまさら。この店に僕の居場所なんてないですよ」
「そんなことない!判ったんだ、俺、お前のことが好きだって!お前を尊敬している。この店にはお前がいないと、もう店をやっていけねえよ!頼む!何でもするから行かないでくれ!」
 締め付けられるような胸の痛みと、溢れて止まらない涙。そのままジェイクは自分のうめき声で目を覚ました。仮面の内側がひんやりと濡れて皮膚がつっぱるような感覚。ジェイクは仮面を外して涙をぬぐった。
「何つー夢だよ……」

 一方アントンはというと、夢の中でジェイクを襲っていた。ジェイクの下半身に顔をうずめ、裸のジェイクを押し倒している。
「やめろ、アントン!何するんだ!」
 アントンの心臓は極限まで興奮し、体の奥が燃えるように熱かった。
「あなたが好きです、ジェイク。あなたのためなら、僕は何だってします。どんなことだって喜んでします。あなたを愛している……!」
 その後、思いが果てるまで二人は体を重ね、……アントンは目を覚ました。
「え……?今のは、夢……?なんて夢だ。僕が、ジェイクを?」

 ロゼッタはというと、二人の我を疑うような夢とは大きく異なり、夢らしいファンタジックな夢だった。
「ロゼッタ、お前の超魔力を思う存分振るってきな!」
 ジェイクに背中を叩かれて送り出された先で、見知らぬ大人たちとともに大冒険に出たロゼッタは、巨大なモンスターを前に魔法銃を構えた。
「みんな、下がって!えーい!死んじゃえ!」
 ロゼッタが銃の引鉄を引くと銃口からは炎のドラゴンが生まれ、敵に向かって襲い掛かり、大爆発を起こす。
 それを見ていたジェイクは、「お前、すげえよ!こんな力があったんだな!これからも大活躍を期待してるぜ!」と、ロゼッタの頭をくしゃくしゃっと撫でまわした。
「エヘヘ、ジェイクのためならあたしなんだってするよ!任せて!」
 目を覚ましたロゼッタは、人生で味わったことがないほどの高揚感と優越感を感じていた。
「あたし……あたしに、あんな魔力が……?」
2/4ページ
スキ