第四話 ジェイクの仮面

 そこまで目を伏せて静かに話して、ジェイクは恐る恐る目を開けてアントンとロゼッタの表情を覗ってみた。(同情されてるだろうな……)と期待したのだが、想定に反して、アントンもロゼッタも真顔だった。さらには「へー」と薄い声も漏れている。
「何だよ、お前ら。その薄い反応は」
「いや、なんか、思ったより普通の理由なんですね」
「何だ。そんなことなんだ。もっと重い理由かと思った」
 ジェイクは顔に血を上らせてイカ耳になって叫んだ。
「何だとは何だ?!お前らに俺の苦しみが解るか?!」
「解ります。僕、ジェイクと逆で毛が無い種族なのに多毛症ですから。ジェイクの気持ち、よーくわかりますよ」
「あたしもバカだって虐められてきたから虐められる気持ちわかるよ」
 ジェイクはそれを聞いてポカーンと口を開けて固まった。そういえば、アントンを雇った理由は何だったか。
(毛のない猫の武器屋に、毛むくじゃらの猿が雇ってくれってか?!こりゃあ傑作だ!おもしれ―奴!これは何かの運命かな!)
 そうだ、確か、ジェイクがアントンを雇おうと考えた理由の一つは、この正反対の容貌を持っていたからではないか。
「フ、フフフ、そうだな、フフフ……あはははは!そうだったな!そうだったそうだった!」
 ジェイクは不意におかしくなってきて笑い出した。つられてアントンもロゼッタも笑いだす。
「フフフフ……」
「うふふふふ」
 ひとしきり笑うと、ジェイクは真顔になり、
「でも、洗面所とシャワーは覗くなよ。約束だ」
 と、念を押した。それについてはアントンもロゼッタも謝罪する。
 三人は奇しくも同じトラウマを共有する仲間同士だった。ジェイクの素顔に関しては、「傷がある」という共通の嘘をつきとおすことにした。
 この一件以来、アントンのジェイクに対する苦手意識が薄れ、三人は固い絆で結ばれることとなった。
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