第四話 ジェイクの仮面

 鏡に映ったジェイクの顔に、仮面は無かった。驚いた顔をして顔を上げ、鏡越しに二人の目が合う。
 ジェイクの隠されていた顔の右側は、ペールオレンジの肌色の皮膚が露出していて、毛の一本も生えていない綺麗な顔だった。
 それを認識したと同時にジェイクは振り返り、アントンの胸ぐらをつかんで壁にたたきつけた。
 顔に息がかかるほどの距離まで顔を近づけ、ジェイクが鬼の形相で睨んでくる。耳がイカのように後ろに伏せている様子を見るに、かなり激昂しているようだ。
「てめえ……洗面所と風呂場には入ってくるなって言ったよな?!」
「す、すみません」
「俺の顔が見えるか」
「見えます」
「俺の顔には何がある」
「何もありません」
「俺の顔には醜い傷があった。そうだな?」
「え?」
「俺の顔には醜い傷があって隠していた。そうだな?!返事は?!」
「はい!あなたの顔には醜い傷があって隠しています!はい!」
「絶対に言うなよ?」
「誰にも言いません」
 しかし、間の悪いことにロゼッタがジェイクを探しに来て、ジェイクの顔はロゼッタにも曝け出されてしまったのである。
「ジェイク、あっ!」
「ロゼッタああああああ!!!」
「ごめんなさい!でも、お客さん来てるの!」
 ジェイクはいそいそと慣れた手つきで仮面を装着すると、客の相手をしに階下へ降りて行った。
「ロゼッタ、ありがとう。助かった」
「ジェイクの、何あれ?」
 アントンはずるずると脱力して床にへたりこんだ。
「ジェイクの顔、見たかい?」
「見た……。猿族みたいだった」
 ジェイクは顔の右側だけきれいに毛が生えていなかった。顔の左半分は猫そのものなのに対して、顔の右側は猫のような大きな目にツルツルの白い肌で、異様に見えた。ジェイクは、そのツルツルの肌を気にして隠している?たったそれだけの理由で、あんなにも激昂するほど隠さなければならない物だろうか?やがて接客が終わったジェイクが階段を上ってきて、「おら、てめえら。話がある」と、リビングテーブルに着席を促した。
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