第二十四話 また三人で、ずっと一緒に

 出所後、ヴィクトールはエンリーケのスマートフォンに電話をかけた。電話番号が生きているか不安だったが、幸い電話が通じた。
 「よお、エンリーケ。俺だ、ヴィクトール。今どこにいる?」
 エンリーケは懐かしい声に、顔をほころばせた。
 「ポルトフのホテル。物件探してる。三人でまたこの街で暮らすんだろ?」
 ヴィクトールはエンリーケの約束に忠実な性格に安堵した。
 「あの約束忘れてないんだな。俺、今娑婆に出て来たばかりなんだよ。これからそっちに行くから、物件決めるのはもう少し待っててくれ」
 「解った。出来るだけリストアップしておく」
 一週間後、エンリーケとヴィクトールは合流し、物件を決めて再びルームシェアして暮らし始めた。あとはファティマが出所して、合流するのを待つだけ。二人は手ごろな仕事を見つけ、ファティマを待ち続けた。だが、三カ月待っても彼女は現れない。半年待っても現れない。季節は巡り、冬が来て、春が来て、夏が来ようとしていた。
 新しい生活にも慣れたヴィクトールのスマートフォンに、見知らぬ電話番号から電話がかかってきた。
 「もしもし?」
 「ヴィクトールさんですか?」
 「そうだけど」
 「あたしよ、ファティマ。電話解約されたから、これがあたしの新しい番号」
 「ファティマ?!ほんとに、あのファティマなのか?どうしたんだよ、ずっと待ってたんだぞ?」
 「待たせてごめんね。今どこにいる?」
 「あの街だ」
 「あの街ね。解った。一週間ほど待って。今出所したばかりなの」
 ファティマに会える。実に6年ぶりだ。彼女はどうなっただろう?あの幼さの残る小さくあどけなかったファティマは、年齢を経て綺麗になっているだろうか?
 海岸沿いを走る道路の片隅にイルカのモニュメントが置かれている開けた場所がある。この街の待ち合わせの定番となっている場所だ。ヴィクトールとエンリーケはタバコをふかしたりスマートフォンでゲームをしたりしてその時を待った。そこへ。
 「遅くなってごめーん!」
 聞き覚えのある懐かしい声が響いた。
 「おせーよ!!」
 「どんだけ待たせんだよ!」
 二人はゆるゆると土手に設置された階段に歩み寄った。カンカンとヒールサンダルのヒールの音を鳴らして、小柄な緑色の髪の女が駆け上がってくる。髪はすっかり長くなり、セミロングの髪をふわっとなびかせている。真っ白いロングのワンピースが、夏の風にあおられて裾を舞い上がらせた。少しだけ身長が伸びたような気がする。顔だちが大人びたような気がする。だが、紛れもない。彼女は。
 「ファティマ!」
 「ヴィクター!エンリーケ!会いたかった!!」
 彼女を出迎える二人の胸に、ファティマが飛び込んだ。
 「家はもう見つけたの?」
 「とっくに!」
 「じゃあすぐに一緒に暮らせるのね!今度こそ、誰にも邪魔されず、三人で、ずっと一緒に!」
 「ああ、これでやっと三人そろった。これからもずっと一緒だ!」
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