第十五話 あなたの人生に祝福を
組織の人間は、売春している俺に「今よりも楽で、今よりもっと稼げる仕事があるぞ」と言ってきた。このクソみたいな生活に嫌悪感しかなかった俺は喜んで組織に入った。そこで面接受けて、やっと俺にまともな仕事が与えられた。それが薬物の売人だった。体を汚すことなくクリーンな仕事だと思ったよ。そこで寮に入れられて、ルームメイトだったのがエンリーケだ。エンリーケとはびっくりするぐらい気が合った。そこからは、この前説明したとおりだ。そこから、エンリーケとの付き合いは8年だ。俺にとっちゃ薬物の売人の仕事は結構誇りを持ってできる仕事だったんだ。どうだ、クソみたいな人生だろ?
ファティマは絶句した。そんな地獄のような闇が、この世界に存在していたことが信じられなかった。想像を絶するような劣悪な人生に、ファティマは憐憫の情を感じた。
「そう……。そんな辛い人生を送ってきたのね。納得したわ。色々と……。そんな人生を送ってきたら、ああなるのも解らなくもないわ」
そうは言ったが、憐れむだけではヴィクトールは本当の意味で「可哀想な人」になってしまう。それは彼の人間性も可哀想で惨めなものだと断じてしまうことになってしまいそうで、ファティマはこう続けた。
「でも、そんな人生のおかげであなたは優しい人に育ってくれたんだもの。あたしはあなたを優しい人に育ててくれたあなたの人生と、あなたの心の強さに感謝してるわ。今まで強く生きてきてくれて、ありがとう」
ヴィクトールはファティマの意外な言葉に、目頭が熱くなってサッと下を向いて耐えた。そうだ、ファティマはこういうことを言う女だ。初めて会った時の言葉をヴィクトールは忘れていない。ファティマはいつも凝り固まった心の殻に風穴をあけて、中に引きこもる魂を救済してくれる。彼女が天才だから、こんな言葉が生まれるのだろうか?いや、それ故に彼女は天才なのだ。
(ああ、だから、やっぱり俺、こいつのことが好きだ)
「そんなこと言ってくれるのお前しか……いねえよ」
途中で泣きそうになって言葉に詰まったが、何とかやり過ごしてヴィクトールは笑って見せた。顔を上げたらファティマも微笑んでいて、耐えきれずヴィクトールはファティマを抱きしめた。
「考えてみたら、お前も俺も、クソみたいな性体験しかないんだな。ほんとクソみたいだな。なんでこんなことを大人は平気で子供に要求するんだろうな。狂ってやがるよな。どいつもこいつも」
「そういえばそうね。あたしは恐怖症になってしまって、あなたは受け入れて依存してしまった。なんでこんなことになるのかしらね。あたしには考えられないわ」
「俺も考えらんねえ。ガキのどこがいいんだよ。キチガイどもめ」
ヴィクトールの広い胸に抱きしめられて、同じ心の傷を共有して、ファティマはこの人となら、あの忌まわしい穢れも浄化できるような気がした。
「ねえ、ヴィクター。あたしはあなたを愛しているわ。あなたもあたしを愛してくれてるなら、この醜い人生を綺麗なもので上書きしない?そして忘れてしまいましょうよ」
ヴィクトールは体を離し、ファティマに聞き返した、。
「ん?どういう意味だ?」
「鈍いわね。抱いてって言ってるのよ」
ファティマは絶句した。そんな地獄のような闇が、この世界に存在していたことが信じられなかった。想像を絶するような劣悪な人生に、ファティマは憐憫の情を感じた。
「そう……。そんな辛い人生を送ってきたのね。納得したわ。色々と……。そんな人生を送ってきたら、ああなるのも解らなくもないわ」
そうは言ったが、憐れむだけではヴィクトールは本当の意味で「可哀想な人」になってしまう。それは彼の人間性も可哀想で惨めなものだと断じてしまうことになってしまいそうで、ファティマはこう続けた。
「でも、そんな人生のおかげであなたは優しい人に育ってくれたんだもの。あたしはあなたを優しい人に育ててくれたあなたの人生と、あなたの心の強さに感謝してるわ。今まで強く生きてきてくれて、ありがとう」
ヴィクトールはファティマの意外な言葉に、目頭が熱くなってサッと下を向いて耐えた。そうだ、ファティマはこういうことを言う女だ。初めて会った時の言葉をヴィクトールは忘れていない。ファティマはいつも凝り固まった心の殻に風穴をあけて、中に引きこもる魂を救済してくれる。彼女が天才だから、こんな言葉が生まれるのだろうか?いや、それ故に彼女は天才なのだ。
(ああ、だから、やっぱり俺、こいつのことが好きだ)
「そんなこと言ってくれるのお前しか……いねえよ」
途中で泣きそうになって言葉に詰まったが、何とかやり過ごしてヴィクトールは笑って見せた。顔を上げたらファティマも微笑んでいて、耐えきれずヴィクトールはファティマを抱きしめた。
「考えてみたら、お前も俺も、クソみたいな性体験しかないんだな。ほんとクソみたいだな。なんでこんなことを大人は平気で子供に要求するんだろうな。狂ってやがるよな。どいつもこいつも」
「そういえばそうね。あたしは恐怖症になってしまって、あなたは受け入れて依存してしまった。なんでこんなことになるのかしらね。あたしには考えられないわ」
「俺も考えらんねえ。ガキのどこがいいんだよ。キチガイどもめ」
ヴィクトールの広い胸に抱きしめられて、同じ心の傷を共有して、ファティマはこの人となら、あの忌まわしい穢れも浄化できるような気がした。
「ねえ、ヴィクター。あたしはあなたを愛しているわ。あなたもあたしを愛してくれてるなら、この醜い人生を綺麗なもので上書きしない?そして忘れてしまいましょうよ」
ヴィクトールは体を離し、ファティマに聞き返した、。
「ん?どういう意味だ?」
「鈍いわね。抱いてって言ってるのよ」