第九幕

激しい戦いの騒ぎを聞き、村人たちが酒場の周りに集まっていました。彼らは魔物ではありません。何も知らずに魔物の脅威に震えていた人間たちです。
戦いに決着がついたと見えて、村人の一人が戦士に尋ねました。
「あの、この騒ぎは一体……?」
ジギタリスが説明しました。
「お騒がせしてすみません。この魔物たちは失踪事件の真犯人たちです。我々は真犯人をあぶり出して、退治しにやってきました」
スミレも言いにくそうに説明しました。
「そしてな……残念だが、その真犯人は、村長以下、十数人の村人だったんだ……」
村人たちは驚愕しました。彼らは村長たちを幾分も疑っていませんでした。そして、その裏切りに怒り震え、嘆き悲しみました。あまりの出来事に、村を救ってくれた戦士たちへの感謝の情も湧きませんでした。
「そんな…これから我々はどうしたらいいんだ……」
村人の一人が言いました。
「勇者樣方、ともかく今夜はこの村でお休みください。明日になったら村の今後について協議したいと思います」

次の日の朝、魔王たちと数人の戦士たちが、村人たちの会議に参加しました。一晩経って、村人たちも冷静さを取り戻していました。
「ともかく、勇者樣方には村人を代表して感謝申し上げます」
魔王は面白くなさそうに「感謝の言葉が遅すぎる」と不平を言いました。
村人は詫びましたが、魔王の額の角を不審に思いました。
「あの……そちらの方は……?額に、何か角のようなものが…」
魔王はふんぞり返って名乗りました。
「私か?私は丘の城に棲む魔王、グラジオラスだ」
それを聞いて村人たちは恐れおののきました。スミレは慌てて弁解しました。
「あ、魔王と言ってもな、悪さはしないぞ。こいつは魔界のことで手一杯で、人間を襲うようなことはしないんだ」
「全くその通りだ。私は忙しいのだ。それを勝手に濡れ衣を着せられて、迷惑しておった」
村人たちは再び詫びました。怒らせたら食べられてしまいそうで恐ろしかったのです。
戦士の一人が言いにくそうに切り出しました。
「あの……それで……謝礼のほうは……?」
村人は痛いところを突かれてうなだれました。
「それです。実はこの村は元々五百金が精一杯です。それも、犯人が魔王ではなく村長とあれば、我々には今すぐどうとお答えしかねます」
「うーん…それに、皆でやっつけてしまったからなあ……。山分けということになるか」
謝礼の為に戦ってきた戦士は抗議しました。
「そんな!せめて百金ぐらいはいただかなければ割にあわんぞ!」
村人は小さくなるばかりです。
「村長の蓄えを切り崩せばいくらかはお出し出来るかもしれませんが、肝心の村長がいない今、なんとも……」
そこで別の村人が重要なことに気づきました。
「そうだ、村長がいなくなっては重要な案件を決定することもできないだろう。新しい村長が必要だ!」
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