第七幕

村の酒場では今夜も魔王討伐の戦士たちがたむろしていました。皆丘の城で魔物たちにやられた怪我を癒し再び挑戦するため、村に宿をとり生活しているのです。
そこへ、淡い金色の髪を短く刈り上げた、薄い紫色の瞳をした美しいライラックという戦士が酒場の扉をくぐりました。ライラックもまた、先日魔王に勝負を挑み、全身に火傷を負って村の宿で療養していましたが、少し痛みが引いてきたので、体中に包帯を巻き、麻のチュニックを着て、リハビリがてら酒場に来たのです。
隣に座っていた戦士が声をかけてきました。
「よう、兄ちゃん、その怪我を見ると、兄ちゃんも駄目だったか」
ライラックは悔しそうにうつむきました。
「ああ……魔王の元まで進むことはできるんだ。だが、肝心の魔王の強さは別格だ」
戦士は激しく同意して、彼の肩を叩きました。
「そうなんだよ、運がよけりゃあ俺も魔王の元まで行けるんだ。だが、あれは駄目だ……」
すると酒場のマスターがうんざりした様子で戦士たちに言いました。
「あんたらなあ……飲みにきてくれるのは嬉しいがよ、毎日毎日駄目だ駄目だって愚痴ってねぇで、いい加減魔王をやっつけてくれよ」
戦士はカッとなって怒鳴りました。
「言うのは簡単だ!だがな、あんた魔王と戦ったことがあるのか?奴の化け物ぶりを見てから言えよ!」
マスターも怒鳴り返しました。
「じゃあ勝てないならせめてどっかに連れて行けよ!城の地下にでも繋いでこいよ!とにかくやつらの悪さをやめさせてもらえればどうだっていいんだよ!」
マスターの怒鳴り声に、酒場の村人たちも触発されました。
「そうだ!できないってんなら他にも方法があるだろう、戦士さんがたで束になってでもかかって行けよ!」
他の戦士も怒鳴り返しました。
「束になって行ったこともあらあ!それでも駄目だったんだよ!」
「元からこんな依頼無理があったんだよ!俺は知らねえ!おとなしく魔物に食われちまえよ!」
村人はこの一言に憤慨しました。そして奥に座っていた村長が声を上げました。
「なんだと?今すぐ違約金を納めてこの村から出て行きやがれ!」
戦士は、
「わかったよ!有り金全部置いてってやるよ!こんなところ二度と来るか!滅びちまえ!」
と、呪いの言葉を吐いて酒場から出て行きました。
村人の怒りの矛先はライラックたちにも向けられました。
「てめえらも違約金を払いやがれ!」
しかし、ライラックは必ず魔王を倒さなければならない理由がありました。
『私より弱いやつなんか尊敬できるかよ』
つんと澄まして彼の心を抉った、美しい少女の横顔が忘れられません。
「断る!俺にはできる!次こそ倒してみせる!」
「その言葉は聞き飽きたぜ!」
今にも取っ組み合いの喧嘩が始まろうかというとき、酒場の外から、耳をつんざくような悲鳴が聞こえてきました。
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