パパ好き記念日
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ある日の昼下がり。2歳になったばかりの愛娘、智華が突然“好き”と言えるようになった。
ついこの間までおぼつかない足取りで叫ぶように喃語ばかり発していたというのに、今ではスタスタと家中を歩き回っているのだから子どもの成長は本当に早い。
お気に入りのトラのぬいぐるみを両手で抱えてテテテと寄ってきた智華が、私の服の裾を引っ張って「ママ、しゅち!」と最初に発した時は感動のあまり本気で気が飛びそうになった。
そして一度言えるようになるとそこからはもうひたすらに“好き”を繰り返すので、折角だからとその姿を動画に撮って陣平くんにメールで送る事にした。
ちなみに外では無愛想な印象を持たれがちな陣平くんも、智華の前では表情筋緩みまくりの良きパパだ。彼の事だから顔には出さずともきっと喜んでくれるだろう。
「智華ちゃーんこっち向いてー?うわぁ可愛いねぇ!ピース!上手にパパ好きーって言えるかな〜?」
「まっまぁ!しゅち!」
「かわっ…!はぁぁありがと〜!智華ちゃん、パパは?パパは好き?」
「ぱ、ぱ!パッパァ!しゅち〜!」
ばっちり撮れた最高の動画を送信してから待つ事5分。軽快な着信音をあげて返信を寄越したのは、メールを受信した筈の陣平くん…ではなく、陣平くんの親友兼同僚でもある研二くんで。
まさか陣平くんに何かあったのでは!?と慌ててメールを開くと、まず目に入ってきたのは添付されていた一枚の写真だった。そこに写っているのは喫煙室らしき部屋で椅子に深く腰掛けながら、片手で目元を押さえて天を仰ぐ陣平くんの姿だ。
なるほど、愛娘の尊さに当てられた陣平くんは得意なメールすら打てなくなる程に再起不能な訳ね。分かる、分かるよその気持ち…!
…なんて、一人で激しく同意しながら写真と一緒に届いたメッセージに目を通す。最近久しくお会い出来ていないけれど、研二くんもお元気そうで何よりだ。
『さっきの動画俺も見たよ〜!もうね、智華ちゃんが可愛すぎて危うく昇天するところだった!ちなみに陣平ちゃんは今俺の隣で悶え苦しんでるよ!こっそり写真撮ったから送っとくね!多分今夜生のしゅち〜!を喰らったら陣平ちゃんほんとに昇天しちゃうかもしれないからしっかり捕まえといてやってね!
P.S.次に教える言葉は“研二くんしゅち〜!”でお願いします!』
その内容に目を通してから改めて開いた写真が妙にツボに入り、思わず声をあげて笑ってしまった。すると私の笑い声を聞きつけたらしい智華が小さな足音を立てながら駆け寄ってきて、横から携帯を覗き込むと知ってか知らずかキャハハ!と声をあげて笑ったのだった。
よーし、今夜は“パパ好き”記念日のお祝いにお赤飯でも炊こうかな!松田家は、今日も平和です。
(その夜仕事を終えて帰宅した陣平くんが玄関先で生“パパしゅち〜!”を喰らって膝から崩れ落ちた事はここだけの秘密。)
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