見えざる帝国の日常
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6月30日。
今日は陛下でさえその能力を危惧しているグレミィ君の誕生日…。
陛下の手に負えないのに、この俺が彼に近付けるワケないでしょ?
どうやって紹介したらいいんだか…。
彼は想像した事を何でも実体化してしまう、とんでもない子だ。
過去に彼が想像して実体化させた攻撃に巻き込まれて、何人もの聖兵が死んじまった事から、星十字騎士団の皆とは隔絶されている。
俺を含めた聖章騎士の殆どが彼を恐れて近付かない。
そもそも、グレミィ君は陛下が作られた特別な檻に入れられていて近付けないのだ。
所が驚く事に、彼が想像で生み出した二人の部下が銀架城内を自由に歩き回っている事から、全く接点が無いという訳ではなかった。
…って言うか、普通に考えてヤバくない?
だって想像上で出来たその二人の部下は、それぞれが自我を持って行動してるんだぜ?
意思も個性もある…操り人形とは次元が違うんだ。
その内の一人、シャズ・ドミノ君とは時折バーで一緒になるが、しっかり肉体も霊圧も実際に感じられる事から、想像上の物だとは到底思えない。
ちゃんと飲食もするし、お洒落だって好みやこだわりがある。
一人の滅却師として認識している俺自身ですら怖いぜ…。
彼を目の前にしている時はあまり感じないけど、別れた後に考えると、ゾッと恐ろしく感じるよ。
そんな話はさておき、彼らの主であるグレミィ君の誕生日なんだ…二人の部下はどう動く?
講堂では二人が顔を見合わせて話し合いをしている。俺は柱の裏に寄りかかり、二人の会話に聞き耳を立てた。
「今日はあの人の誕生日だ…どうする?」
「あの方は何だって想像し、現実にしてしまう…わしらには何もしてやれる事はないのだよ。」
「そうだよなァ…しかし、誕生日を知っているのに何もしない訳にはいかないだろ…あぁ見えても子供の様に純粋だし、拗ねちゃうからなぁ…。」
「ふ~む…どうしたものかのぉ…。」
案の定困っているな…そりゃ、そうだ。
何でも想像で作り出しちまう人に、一体何がしてあげられると言うのだろうか?
「そうだ!此処は敢えてバースデーケーキをプレゼントすると言うのはどうかの?」
「は?そんなのありきたりすぎて、蔑まれるだけだぞ。」
「君はケーキと聞いて、あの甘くておいしい味を想像するだろう?しかし、見た目とは全く違う味にするのだよ。名付けて"予想外、想定外、奇想天外!サプライズケーキ"だ!」
「あ~そっくりスイーツの逆バージョンって事か?見た目はケーキだが、違う料理で作られてるって事だろ?」
(何そのネーミングセンス!!!そしてシャズ君、飲み込み早っ!)
ナックルヴァールはツッコミを入れながら、彼らが話しているケーキを脳裏に浮かべた。
そっくりスイーツと言うのは、城下街で流行っているケーキ生地で出来たアートの事だ。
料理は勿論、食べ物以外の物もケーキ生地で精巧に再現する。
グエナエルが言っているのはその逆で、違う料理でケーキを再現すると言う物だった。
まぁ、確かにグレミィの想像以上をいくアイディアで面白そうではあるなと俺は思った。
「そりゃあ面白そうだが、そんなケーキどうやって作るんだ?」
「う~む…取り敢えず調理場に行って作ってみるかの。」
「そうだな、やってみるか。」
なんか面白そうな展開になってきたじゃないの。
ナックルヴァールは食堂に向かった二人の後を追う事にした。
*
グエナエルとシャズはエプロンを身に着け、食堂の厨房に立った。
「取り敢えず表面のクリームは、チーズクリームでコーティングする事にしよう。中身はどうする?サラダにするか?」
「あの方は野菜が大の苦手だっただろう…忘れたのか?」
「そういやそうだったな…。」
う~んと頭を悩ませる二人を横に、裏口から厨房に入って来る人物がいた。
「ん?キルゲの娘ではないか!」
「グエナエル様、シャズ様…ごきげんよう。」
名前は他にも二人を連れて、食材を積んだコンテナを厨房に運び入れた。
彼女は狩猟部隊に所属しており、食材調達を行っている。コンテナには解体した肉や下処理した魚が乗っていた。
彼女達は食堂で使う食材を運び入れに来たのだ。
「丁度良かった!貴族に料理を振る舞っている君なら、いろんな料理を知っているんじゃ無いかね?」
「何か調理されているのですか?」
「そうなんだ、実は…。」
シャズはこれまでの経緯を説明した。
すると名前は「それなら丁度良い料理がありますよ」と先程運び入れた食材から、魚を乗せたバットを持ってきた。
「クリームチーズと相性の良いサーモンでテリーヌを作りましょう。トマトを苺に見立てれば本格的なケーキになりますよ。」
「分からんが、試しに作ってくれ!あと、普通に苺でいいぜ。あの人は野菜を全く食べないんだ。」
「かしこまりました。お任せください。」
名前は早速調理に取り掛かった。バジル、オリーブオイル、塩胡椒等の調味料を合わせてバジルソースを作り、サーモンを捌いていく。
試食用に一口大に切ったサーモンの切り身に刻みレモン、バジルソース、クリームチーズを乗せて二人に振る舞った。
「試食をどうぞ。」
「どれどれ…。」
グエナエルとシャズはクリームチーズサーモンをスプーンに乗せて口に入れ、目を見開いた。
「旨い…!これはイケるぞ!」
「こんなお洒落な食べ物は初めてだ!これならあの方を驚かせた上で、喜んで貰えるだろう!」
「これでケーキを作りましょう。」
「よし、やるぜ!」
盛り上がる厨房の様子を見ていたナックルヴァールは腹の虫が鳴った。
(俺も食いてぇ〜!)
*
出来上がったバースデーケーキを模した、チーズサーモンテリーヌを持ち、グエナエルとシャズの二人はグレミィのいる監獄へ向かった。
俺は見つからないように壁に張り付き、コッソリ様子を伺った。
グレミィは二人の気配に気付いていたが、表情一つ変えず椅子に座っている。
「二人揃って僕の所に来るなんて、珍しいね。」
二人は手に汗を握りながらグレミィを見つめた。
「今日は貴方を祝福に来たのですよ。」
グレミィは目を細めて笑った。二人に視線を向ける事無く、何処を見ているのか分からない。
「誕生日だから?去年はくだらない一発ギャグだったよね…それはもう見飽きたからやらなくていいよ。」
「そう仰ると思って、今回はバースデーケーキを持ってきましたよ!」
「バースデーケーキ…?」
グレミィは興味を持ったのか、初めて二人に視線を向けた。
シャズは手に盛ったクローシュ蓋を被せた銀の皿をグレミィに見せた。
「ケーキってあのケーキだろう?想像通りで面白くないね。」
「そうですね…どうぞ、お召し上がりください。」
どうやって渡すのだろうと思ったが、この檻はグレミィを外に出さないだけの檻のようで、彼の能力は柵越しにも効力が効くようだ。
なので彼が想像すればシャズが持っているケーキを受け取る事は可能の様だった。
「要らないよ。」
「えっ…?」
「要らない。ソレは食べなくても味を想像できる。だから要らない。」
「味見しましたが、とても美味しかったですよ!是非グレミィ様にお召し上がり頂きたいんです!」
シャズはどうにかグレミィにケーキを食べて貰おうと宥めるが、彼は興味を示そうとしない。
(え~勿体無いよグレミィ君!だってそれケーキの見た目してるけど、サーモンテリーヌだよ~?俺が食べたいぐらいだってのに!)
中の様子に気を取られ、ナックルヴァールは近付いてくる人物に気付くのが遅れた。
「ナックルヴァール、てめぇ何やってんだ。」
「うおっ…っ!?リルトットちゃん、どうしたの?」
「それはこっちの台詞だ。用があるんだったら、コソコソしてねぇで入れ。」
「じゃあ、君は用事があるって事なのかい?」
「……そうだな。」
俺は管理人さんに頼まれて仕方なく取材しているが、彼女はグレミィ君に用事があるという事だ…もしかして、誕生日のお祝いに来たの!?
(えっ…二人ってまさかそう言う関係!?これは激アツ展開来たよ~!!!)
中の様子を伺うこともなく入っていくリルトットに続いて、ナックルヴァールも部屋に足を踏み入れた。
「おい、来てやったぞ。」
グレミィは表情を緩め、リルトットに目を向けた。
「僕の誕生日、憶えててくれたんだね。」
(あれ、二人の部下には視線も寄こさなかったのに、彼女には全然態度が違うじゃないの。)
グレミィはナックルヴァールに視線を向けた。
「君もそうなの?ナックルヴァール。」
「あぁ、そうだ。お誕生日おめでとう、グレミィ君。」
俺は手を叩いて取り敢えずこの場の雰囲気を盛り上げようと試みた。
グエナエルとシャズの二人は泣きそうな表情になっている。
先程まで凍り付いていた空気をどうにか和ませたかった。
「こんなに一度に来客が来ると疲れるんだけど…リルトット、シャズが持ってるケーキ、食べてくれないかな?」
グレミィの言葉にグエナエルとシャズは驚いた。
「グレミィ君、一口ぐらい食べてあげたらどうだ?折角二人が一生懸命作ったってのに。まだケーキを見てすらいないじゃないか。」
「ナックルヴァール、ずっと俺達の事付けてたのか…?」
シャズが冷めた視線でナックルヴァールを見つめる。
「いや、勘違いすんなよ?俺は仕事してんの!上から頼まれてんだ。そんな事より、蓋取ってグレミィにケーキ見せてやりなよ。」
シャズは言われた通りクローシュ蓋を取り、グレミィにケーキを見せた。
ぱっと見、本物のケーキと全く変わらない。
「やっぱり、普通のケーキじゃないか。」
「食わねえってんなら、俺が食ってやるから遠慮するな。どんなに美味くても返してやらねーけどな。」
リルトットの煽りもあり、グレミィは渋々ケーキを手元に瞬間移動させた。ナイス、リルトットちゃん!
グレミィはケーキにフォークを突き刺した。
「何これ…サーモン?」
切り口から鮮やかなサーモンピンクが現れる。
グレミィは怪訝な表情を浮かべた。
「Happy Birthday To You~♪」
俺は歌を口ずさむ。すると他の三人も歌に乗ってきてくれた。
グレミィ君は少し頬を紅潮させ、恥ずかしがっている様に見えた。
「おめでとう、グレミィ君~。」
四人で拍手を送り、グレミィはサーモンテリーヌを口に入れた。
「……っ!?」
一瞬目を見開き、モグモグとじっくりと咀嚼する。
その様子をジッと俺達はジッと見つめる。
ごくりと飲み込んだ彼の一言目を待つ。
「初めて食べるバースデーケーキの味だ…想像以上だよ。」
『やった~~~!!!』
グエナエルとシャズは顔を見合わせ、喜んだ。
「でも僕、バジル苦手なんだ…あげるよ。」
グレミィはリルトットの手元にケーキを瞬間移動させた。
「じゃあ、遠慮なく。」
一口でぺろりと平らげたリルトットは「美味いじゃねぇか」と呟いた。
グレミィは水を飲みながら、照れくさそうに俺達に背を向けた。
「皆…お祝いしてくれてありがとう。」
*
どうにか無事にグレミィ君のお誕生日の取材を終える事が出来た。
ちょっとは俺の事も褒めて欲しいんだけど!
と言うか、俺もサーモンテリーヌ食べたかったなぁ…。
ひょっとして、まだ残ってたりしないかな?
食堂の前を通りかかった俺は厨房の様子を伺う。
厨房は綺麗に片付けられ、俺は溜め息を零す。
諦めて部屋に戻ろうとしたその時だった。
「ナックルヴァール様、どうかされましたか?」
裏口から入ってきた名前の姿を見て思わず嬉しくなった。
「名前ちゃん!あのさ、頼みがあるんだけど…!」
...end.
今日は陛下でさえその能力を危惧しているグレミィ君の誕生日…。
陛下の手に負えないのに、この俺が彼に近付けるワケないでしょ?
どうやって紹介したらいいんだか…。
彼は想像した事を何でも実体化してしまう、とんでもない子だ。
過去に彼が想像して実体化させた攻撃に巻き込まれて、何人もの聖兵が死んじまった事から、星十字騎士団の皆とは隔絶されている。
俺を含めた聖章騎士の殆どが彼を恐れて近付かない。
そもそも、グレミィ君は陛下が作られた特別な檻に入れられていて近付けないのだ。
所が驚く事に、彼が想像で生み出した二人の部下が銀架城内を自由に歩き回っている事から、全く接点が無いという訳ではなかった。
…って言うか、普通に考えてヤバくない?
だって想像上で出来たその二人の部下は、それぞれが自我を持って行動してるんだぜ?
意思も個性もある…操り人形とは次元が違うんだ。
その内の一人、シャズ・ドミノ君とは時折バーで一緒になるが、しっかり肉体も霊圧も実際に感じられる事から、想像上の物だとは到底思えない。
ちゃんと飲食もするし、お洒落だって好みやこだわりがある。
一人の滅却師として認識している俺自身ですら怖いぜ…。
彼を目の前にしている時はあまり感じないけど、別れた後に考えると、ゾッと恐ろしく感じるよ。
そんな話はさておき、彼らの主であるグレミィ君の誕生日なんだ…二人の部下はどう動く?
講堂では二人が顔を見合わせて話し合いをしている。俺は柱の裏に寄りかかり、二人の会話に聞き耳を立てた。
「今日はあの人の誕生日だ…どうする?」
「あの方は何だって想像し、現実にしてしまう…わしらには何もしてやれる事はないのだよ。」
「そうだよなァ…しかし、誕生日を知っているのに何もしない訳にはいかないだろ…あぁ見えても子供の様に純粋だし、拗ねちゃうからなぁ…。」
「ふ~む…どうしたものかのぉ…。」
案の定困っているな…そりゃ、そうだ。
何でも想像で作り出しちまう人に、一体何がしてあげられると言うのだろうか?
「そうだ!此処は敢えてバースデーケーキをプレゼントすると言うのはどうかの?」
「は?そんなのありきたりすぎて、蔑まれるだけだぞ。」
「君はケーキと聞いて、あの甘くておいしい味を想像するだろう?しかし、見た目とは全く違う味にするのだよ。名付けて"予想外、想定外、奇想天外!サプライズケーキ"だ!」
「あ~そっくりスイーツの逆バージョンって事か?見た目はケーキだが、違う料理で作られてるって事だろ?」
(何そのネーミングセンス!!!そしてシャズ君、飲み込み早っ!)
ナックルヴァールはツッコミを入れながら、彼らが話しているケーキを脳裏に浮かべた。
そっくりスイーツと言うのは、城下街で流行っているケーキ生地で出来たアートの事だ。
料理は勿論、食べ物以外の物もケーキ生地で精巧に再現する。
グエナエルが言っているのはその逆で、違う料理でケーキを再現すると言う物だった。
まぁ、確かにグレミィの想像以上をいくアイディアで面白そうではあるなと俺は思った。
「そりゃあ面白そうだが、そんなケーキどうやって作るんだ?」
「う~む…取り敢えず調理場に行って作ってみるかの。」
「そうだな、やってみるか。」
なんか面白そうな展開になってきたじゃないの。
ナックルヴァールは食堂に向かった二人の後を追う事にした。
*
グエナエルとシャズはエプロンを身に着け、食堂の厨房に立った。
「取り敢えず表面のクリームは、チーズクリームでコーティングする事にしよう。中身はどうする?サラダにするか?」
「あの方は野菜が大の苦手だっただろう…忘れたのか?」
「そういやそうだったな…。」
う~んと頭を悩ませる二人を横に、裏口から厨房に入って来る人物がいた。
「ん?キルゲの娘ではないか!」
「グエナエル様、シャズ様…ごきげんよう。」
名前は他にも二人を連れて、食材を積んだコンテナを厨房に運び入れた。
彼女は狩猟部隊に所属しており、食材調達を行っている。コンテナには解体した肉や下処理した魚が乗っていた。
彼女達は食堂で使う食材を運び入れに来たのだ。
「丁度良かった!貴族に料理を振る舞っている君なら、いろんな料理を知っているんじゃ無いかね?」
「何か調理されているのですか?」
「そうなんだ、実は…。」
シャズはこれまでの経緯を説明した。
すると名前は「それなら丁度良い料理がありますよ」と先程運び入れた食材から、魚を乗せたバットを持ってきた。
「クリームチーズと相性の良いサーモンでテリーヌを作りましょう。トマトを苺に見立てれば本格的なケーキになりますよ。」
「分からんが、試しに作ってくれ!あと、普通に苺でいいぜ。あの人は野菜を全く食べないんだ。」
「かしこまりました。お任せください。」
名前は早速調理に取り掛かった。バジル、オリーブオイル、塩胡椒等の調味料を合わせてバジルソースを作り、サーモンを捌いていく。
試食用に一口大に切ったサーモンの切り身に刻みレモン、バジルソース、クリームチーズを乗せて二人に振る舞った。
「試食をどうぞ。」
「どれどれ…。」
グエナエルとシャズはクリームチーズサーモンをスプーンに乗せて口に入れ、目を見開いた。
「旨い…!これはイケるぞ!」
「こんなお洒落な食べ物は初めてだ!これならあの方を驚かせた上で、喜んで貰えるだろう!」
「これでケーキを作りましょう。」
「よし、やるぜ!」
盛り上がる厨房の様子を見ていたナックルヴァールは腹の虫が鳴った。
(俺も食いてぇ〜!)
*
出来上がったバースデーケーキを模した、チーズサーモンテリーヌを持ち、グエナエルとシャズの二人はグレミィのいる監獄へ向かった。
俺は見つからないように壁に張り付き、コッソリ様子を伺った。
グレミィは二人の気配に気付いていたが、表情一つ変えず椅子に座っている。
「二人揃って僕の所に来るなんて、珍しいね。」
二人は手に汗を握りながらグレミィを見つめた。
「今日は貴方を祝福に来たのですよ。」
グレミィは目を細めて笑った。二人に視線を向ける事無く、何処を見ているのか分からない。
「誕生日だから?去年はくだらない一発ギャグだったよね…それはもう見飽きたからやらなくていいよ。」
「そう仰ると思って、今回はバースデーケーキを持ってきましたよ!」
「バースデーケーキ…?」
グレミィは興味を持ったのか、初めて二人に視線を向けた。
シャズは手に盛ったクローシュ蓋を被せた銀の皿をグレミィに見せた。
「ケーキってあのケーキだろう?想像通りで面白くないね。」
「そうですね…どうぞ、お召し上がりください。」
どうやって渡すのだろうと思ったが、この檻はグレミィを外に出さないだけの檻のようで、彼の能力は柵越しにも効力が効くようだ。
なので彼が想像すればシャズが持っているケーキを受け取る事は可能の様だった。
「要らないよ。」
「えっ…?」
「要らない。ソレは食べなくても味を想像できる。だから要らない。」
「味見しましたが、とても美味しかったですよ!是非グレミィ様にお召し上がり頂きたいんです!」
シャズはどうにかグレミィにケーキを食べて貰おうと宥めるが、彼は興味を示そうとしない。
(え~勿体無いよグレミィ君!だってそれケーキの見た目してるけど、サーモンテリーヌだよ~?俺が食べたいぐらいだってのに!)
中の様子に気を取られ、ナックルヴァールは近付いてくる人物に気付くのが遅れた。
「ナックルヴァール、てめぇ何やってんだ。」
「うおっ…っ!?リルトットちゃん、どうしたの?」
「それはこっちの台詞だ。用があるんだったら、コソコソしてねぇで入れ。」
「じゃあ、君は用事があるって事なのかい?」
「……そうだな。」
俺は管理人さんに頼まれて仕方なく取材しているが、彼女はグレミィ君に用事があるという事だ…もしかして、誕生日のお祝いに来たの!?
(えっ…二人ってまさかそう言う関係!?これは激アツ展開来たよ~!!!)
中の様子を伺うこともなく入っていくリルトットに続いて、ナックルヴァールも部屋に足を踏み入れた。
「おい、来てやったぞ。」
グレミィは表情を緩め、リルトットに目を向けた。
「僕の誕生日、憶えててくれたんだね。」
(あれ、二人の部下には視線も寄こさなかったのに、彼女には全然態度が違うじゃないの。)
グレミィはナックルヴァールに視線を向けた。
「君もそうなの?ナックルヴァール。」
「あぁ、そうだ。お誕生日おめでとう、グレミィ君。」
俺は手を叩いて取り敢えずこの場の雰囲気を盛り上げようと試みた。
グエナエルとシャズの二人は泣きそうな表情になっている。
先程まで凍り付いていた空気をどうにか和ませたかった。
「こんなに一度に来客が来ると疲れるんだけど…リルトット、シャズが持ってるケーキ、食べてくれないかな?」
グレミィの言葉にグエナエルとシャズは驚いた。
「グレミィ君、一口ぐらい食べてあげたらどうだ?折角二人が一生懸命作ったってのに。まだケーキを見てすらいないじゃないか。」
「ナックルヴァール、ずっと俺達の事付けてたのか…?」
シャズが冷めた視線でナックルヴァールを見つめる。
「いや、勘違いすんなよ?俺は仕事してんの!上から頼まれてんだ。そんな事より、蓋取ってグレミィにケーキ見せてやりなよ。」
シャズは言われた通りクローシュ蓋を取り、グレミィにケーキを見せた。
ぱっと見、本物のケーキと全く変わらない。
「やっぱり、普通のケーキじゃないか。」
「食わねえってんなら、俺が食ってやるから遠慮するな。どんなに美味くても返してやらねーけどな。」
リルトットの煽りもあり、グレミィは渋々ケーキを手元に瞬間移動させた。ナイス、リルトットちゃん!
グレミィはケーキにフォークを突き刺した。
「何これ…サーモン?」
切り口から鮮やかなサーモンピンクが現れる。
グレミィは怪訝な表情を浮かべた。
「Happy Birthday To You~♪」
俺は歌を口ずさむ。すると他の三人も歌に乗ってきてくれた。
グレミィ君は少し頬を紅潮させ、恥ずかしがっている様に見えた。
「おめでとう、グレミィ君~。」
四人で拍手を送り、グレミィはサーモンテリーヌを口に入れた。
「……っ!?」
一瞬目を見開き、モグモグとじっくりと咀嚼する。
その様子をジッと俺達はジッと見つめる。
ごくりと飲み込んだ彼の一言目を待つ。
「初めて食べるバースデーケーキの味だ…想像以上だよ。」
『やった~~~!!!』
グエナエルとシャズは顔を見合わせ、喜んだ。
「でも僕、バジル苦手なんだ…あげるよ。」
グレミィはリルトットの手元にケーキを瞬間移動させた。
「じゃあ、遠慮なく。」
一口でぺろりと平らげたリルトットは「美味いじゃねぇか」と呟いた。
グレミィは水を飲みながら、照れくさそうに俺達に背を向けた。
「皆…お祝いしてくれてありがとう。」
*
どうにか無事にグレミィ君のお誕生日の取材を終える事が出来た。
ちょっとは俺の事も褒めて欲しいんだけど!
と言うか、俺もサーモンテリーヌ食べたかったなぁ…。
ひょっとして、まだ残ってたりしないかな?
食堂の前を通りかかった俺は厨房の様子を伺う。
厨房は綺麗に片付けられ、俺は溜め息を零す。
諦めて部屋に戻ろうとしたその時だった。
「ナックルヴァール様、どうかされましたか?」
裏口から入ってきた名前の姿を見て思わず嬉しくなった。
「名前ちゃん!あのさ、頼みがあるんだけど…!」
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