見えざる帝国の日常(シリーズ)
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「ボクと遊ばなぁい?」
ぺぺの問いかけに、その場にいたバンビーズは「プハハハハ!」と爆笑した。
「誰に言ってんだ?」
「バンビちゃんじゃないの!?」
「はぁっ?冗談はやめて。こんなキモイおっさんに喋りかけられる程、下衆じゃないんだけど!?」
「下衆かどうかと聞かれたら、お前は下衆だろうが。」
「私もそう思いますぅ~。」
バンビーズの5人はぺぺに視線を寄こすことなく通り過ぎた。
「ミーを馬鹿にして、も~~~怒ったもんネ!」
銀架城 内は戦闘が禁止されているが、唯一戦闘を許可された場所があった。そこは修練場だ。修練場では毎日誰かが必ず鍛錬している。大抵キルゲの門下生達だが、憂さ晴らしに役立ってくれるだろう。
良からぬことを考えているぺぺが修練場に足を踏み込むと、やはり鍛錬をしている滅却師達がいた。
「さぁ、まだまだ行き〼よぉ~!ハイ、ハイ、ハァ~~~イ!」
普段は冷静沈着なキルゲだが、教育者として指導している時はテンションが上がり別人のように変貌する。
「休憩している暇はないぞ、ナックルヴァール。」
汗を流し、息を整える為に横になっていたナックルヴァールに声を掛けたのは蒼都 だった。
「シ~!キルゲにバレるでしょーが。」
ナックルヴァールは声を潜め、蒼都を牽制した。
「怠け者のお前がトレーニングに参加するようになるなんてな…。」
「モテる為…じゃなくて体引き締めないとだし、男は強くなきゃ駄目でしょ~?」
「目的が露骨すぎる…。」
ナックルヴァールは蒼都より年上だったが、この男みたいにはなりたくないと蒼都は思った。彼がトレーニングに参加する理由はただ一つ。ナックルヴァールの視線の先にいる苗字名前を見つめた。今日の彼女はメイド服姿ではなく、男性騎士と同じスラックスだ。
「パンツスタイルも似合ってるよォ~!」と直接本人に伝えるナックルヴァールの神経の図太さに、蒼都はとても真似できないと思った。
キルゲの隣で彼の補助をする名前も時折、騎士達の相手を行っていた。ナックルヴァールはその機会を伺っているのだが、どうやらキルゲはそれを阻止しているようだと蒼都の目には映っていた。
(これだけ露骨なのだから、キルゲさんだって警戒するのが分からないのか?)
ナックルヴァールは頭が良い方だと思っていたが、女の事になると思考力が鈍るのか言動が露骨すぎる。特にキルゲの娘である名前を追い掛け回すようになってからはそれが顕著だ。もしかしたら、これは彼の作戦なのだろうか?
(分からない…。)
「そこ!休憩は出来ましたか?行き〼よ~!」
キルゲがナックルヴァールと蒼都に気付き、サーベルを構えた。神聖滅矢 が飛んでくる。
「やべっ、バレた!蒼都、行くぞ!!!」
「俺はハナからサボっていない。」
物陰から様子を伺っていたペペはキルゲのトレーニングを受けるなんてまっぴらごめんだと思っていた。
「キルゲは相変わらずだネェ~。」
誰を操ろうか物色していると、キルゲの横にいる名前が目に入った。今は他の隊員を相手に戦闘している。
「ゲッゲッゲ…彼女に決めた…。」
ペペはキルゲの娘で星十字騎士団 一の美人と呼ばれている名前に目を付けた。男達の誰もが羨む彼女の心を鷲掴みに出来れば、先程馬鹿にしてきたバンビーズの屈辱なんてどうだっていい。
「ミーの愛を受け止めてよネッ!」
ぺぺは手でハートを作り、狙いを定めた。
「今ダ!LOVE,LOVE,ラ~~~ヴ♥」
ペペが放った光線は名前の背中に直撃し、彼女は動きを止めた。
「ぺぺだっ!!!」
「苗字さんにラヴ・キッスが直撃したぞ!」
騎士達の騒ぎを聞きつけたキルゲは手を止め、名前に視線を向けた。名前は苦悶の表情を浮かべ、「キルゲ様…」と呟いて顔を俯かせた。
「やったネ!これで彼女はミーの虜だ!」
その様子を黙って見過ごす事が出来ないナックルヴァールがペペに食らい掛かる。
「ペペ、不意打ちなんて汚ねぇぞ!つか、アンタトレーニングに参加してなかっただろ、名前ちゃんを元に戻せ!」
「嫌だヨ~~~ん!さぁ、こっちに来るんだ!」
名前はペペの言う通り、彼に向かって歩きはじめる。騎士達が最悪の展開を思い描く中、キルゲは沈黙を貫き通していた。
「キルゲ!いいのかよ?アンタの大事な娘さんがよりにもよって、あんな奴に操られてるってのに!止めてくれよ!」
慌てるナックルヴァールとは対照的にキルゲは冷静だった。
「ナックルヴァール君、落ち着きなさい。様子を伺いましょう。」
「そんな事言ってられる!?手遅れになっちまうぞ!」
「それはどうですかねぇ…。」
キルゲは口元を引き上げ、ほくそ笑んだ。
「ホントに綺麗な子だネェ…沢山愛したくなっちゃうヨォ~!」
「おぇっ」と誰かのえずく声が聞こえてきたが、最高の操り人形を手に入れたペペはそんな事など気にも留めない。
「じゃあ~先ずはキッスでもお願いしようかナ~~~?」
騎士達に衝撃が走り「やめろー!」「下衆!」「汚ブタ!」と次々とペペに対して罵詈雑言が飛び交う。女に興味の無い蒼都さえ、手に汗を握りながら状況を見守った。
名前は言われた通り、ペペに近付いていく。ペペは両手を広げて唇を突き出し、名前の口付けを待ち望んでいた。
ドガッ!!!
突然の事に、その場にいたキルゲを除く騎士達は開いた口が塞がらなかった。ぺぺは名前の拳によって吹き飛んでいたからだ。ペペ本人も何が起きたか分からないと言った表情で名前を見つめる。唇と鼻を強打し、鼻血が噴き出る。
「ミーの愛が通じないの!?もう一度!!!」
ペペは再びラヴ・キッスを放ち、名前に光線を直撃させる。名前はニコリと微笑み、ペペの元へと走り出して蹴りを入れる。
「ちょっと待って、待って~~~!!!」
名前は拳をぺぺに叩き込み、バキボコと鈍い音が響く。洗脳状態である筈なのに、何故主を攻撃するのだろうか?
「アレが彼女の本性だからですよ。」
「ええぇっ!!?」
キルゲの呟きにナックルヴァールは声を張り上げた。
「好きな子にちょっかいを掛けたくなる、あの現象と同じです。」
「いや…ちょっと度を越してないか…?」
引き気味なナックルヴァールとその他騎士達を差し置き、笑顔を浮かべながらペペを殴打する名前はこれでも愛情を表現している…らしい。もしこれが本当の彼女の姿であるならば、下手に彼女に惚れられたら最後…今のような状態が繰り広げられるという事だ。
「簡単に彼女を操る事が出来ると思わない方がいいですよ。躾けるのに、大分骨を折りましたからねェ…。」
「名前ちゃんって、そんなじゃじゃ馬な娘なの…?」
不敵に笑うキルゲの呟きにナックルヴァールは冷や汗を流した。この言葉だけで今まで彼が苦労してきた事が伝わってきた。名前ちゃんって一体何者なの…?
「これは…ヤバいな。」
「名前ちゃん好きだったけど…俺、付いてけないわ…。」
騎士達は名前に対して恐怖を抱いているようだった。
(ククク…予想外でしたが、いい牽制になったようですね。)
キルゲは目尻を上げた。彼女を狙っている輩は多い。ここで悪い虫を払ういい機会になった。
(あとは、この男ですかね…。)
キルゲはナックルヴァールに視線を向けた。彼は驚いてはいるものの決して恐れる表情は見せず、寧ろ好奇心に満ちた目で名前を見つめている。
ベチイィン!!!
名前は手に神聖弓 である鞭を持ち、ペペの体を打ち付けていた。
「ペペ様、どうしてお逃げになられるのですか?私を愛して下さらないのですか?」
「こんな愛、知らないヨ~~~!!!助け"て"え"え"ぇぇ!!!!!」
「アハハハハ!ぺぺ様、お待ちになられて~!」
逃げ惑うペペと楽しそうに鞭を振り回して追い掛ける名前の異常なやり取りがツボに入り、ナックルヴァールは爆笑した。
「ハハハハ!面白れぇ!これはこれでアリだ!」
「本気で言っているのか、ナックルヴァール…。」
ナックルヴァールの発言に蒼都はドン引きしながら呟いた。
「美しい花には棘があるって言うだろう?正しく彼女に相応しい言葉だ。」
「……。」
蒼都は突っ込む気力すら失せていた。
「こんな歪んだのは愛じゃないヨ~~~!!!やめやめ~~~!」
ペペの言葉に騎士達は「どの口が言ってんだ」と思いながら、一目散に逃げる彼の後ろ姿を見送った。
洗脳が解けた名前はピタリと足を止め、キルゲを見つめた。
「……っ!!!」
みるみるうちに顔が赤くなっていく名前は俊足でキルゲの足元に膝まづいた。
「キルゲ様…っ!!!御見苦しい姿を見せて申し訳ございませんでした!!!」
ぺぺのラヴ・キッスは術が解けても洗脳時の記憶が残っているので、タチが悪い。案の定名前も顔から火を噴き出しそうな程に羞恥している。キルゲは微笑み、屈んで名前の手を取った。
「貴女の美しさは変わりませんでしたよ…流石、私の娘です。」
「キルゲ様ぁ…。」
名前は涙を浮かべ、微笑むキルゲの表情を恍惚と眺めていた。
(ちっ、結局こうなるのね。キルゲには敵わねぇわ…。)
ナックルヴァールは二人の様子を見ながら息を吐いた。彼女の心を落とすにはまず先にキルゲの洗脳を解かなければならない。
(これが一番厄介なんだよな。どうしたらいいんだか…。)
ナックルヴァールは腕を組みながら、脳内で幾つもの戦法で攻略するイメージを巡らせた。
キルゲは名前と立ち上がり、声を張り上げた。
「さぁ、休憩したらトレーニングを再開し〼よぉ!15分後、集合してくださあーい!」
騎士達は水分補給や手洗いに向かった。名前は幸せそうな表情を浮かべ、キルゲの後ろを付いて歩いた。
*
『キルゲの娘に惚れられると、大変な事になる』
思わぬ名前の一面を見た騎士達により噂が広まり、迂闊に近づく男達を寄せ付けなくなったのだった…。
「敵が減って良かったな…ナックルヴァール。」
「何言ってんだ、ハナから他の男共なんて俺の敵じゃねぇよ。最大の敵はキルゲなんだ。」
蒼都の発言にナックルヴァールはちっとも喜ばなかった。
「確かに…それもそうだな。」
「蒼都君、俺の事応援してくれるの?」
「それはない…。」
「お、名前ちゃんだ。」
ナックルヴァールの視線の先には名前がいる。声を掛けようとしたのも束の間、彼女は誰かに声を掛けて小走りになった。
「誰を追いかけているんだ?」と彼女の視線の先を見ると、今回の噂の元凶となった人物、ぺぺだった。
「お待ちになられて下さい。」
「はわわわわ、勘弁してヨネ~!!!」
状況はよく分からないが名前の方に用事があるようで、ペペは先日のトラウマからなのか逃げ回っている。
「ぺぺの野郎、ざまぁねぇな。」
「止めなくていいのか、ナックルヴァール。」
「いいんじゃない?ペペの奴も反省するでしょ。ククク…にしても面白いな。」
聖章騎士が聖兵から逃げ惑う姿は見ていて滑稽な物だった。
「自業自得だ」とナックルヴァールは思った。
「手荒な真似はしたくないのですが、致し方ありません。」
名前は鞭を取り出し、拘束しようと鞭を叩き付けた。
「ひええぇぇ~!」
「お待ちになられて下さい。」
その様子を目撃した他の星十字騎士も、二人を見て苦笑した。
ペペは二度とキルゲの娘に近付こうと思う事は無くなったのでした笑
...end.
ぺぺの問いかけに、その場にいたバンビーズは「プハハハハ!」と爆笑した。
「誰に言ってんだ?」
「バンビちゃんじゃないの!?」
「はぁっ?冗談はやめて。こんなキモイおっさんに喋りかけられる程、下衆じゃないんだけど!?」
「下衆かどうかと聞かれたら、お前は下衆だろうが。」
「私もそう思いますぅ~。」
バンビーズの5人はぺぺに視線を寄こすことなく通り過ぎた。
「ミーを馬鹿にして、も~~~怒ったもんネ!」
良からぬことを考えているぺぺが修練場に足を踏み込むと、やはり鍛錬をしている滅却師達がいた。
「さぁ、まだまだ行き〼よぉ~!ハイ、ハイ、ハァ~~~イ!」
普段は冷静沈着なキルゲだが、教育者として指導している時はテンションが上がり別人のように変貌する。
「休憩している暇はないぞ、ナックルヴァール。」
汗を流し、息を整える為に横になっていたナックルヴァールに声を掛けたのは
「シ~!キルゲにバレるでしょーが。」
ナックルヴァールは声を潜め、蒼都を牽制した。
「怠け者のお前がトレーニングに参加するようになるなんてな…。」
「モテる為…じゃなくて体引き締めないとだし、男は強くなきゃ駄目でしょ~?」
「目的が露骨すぎる…。」
ナックルヴァールは蒼都より年上だったが、この男みたいにはなりたくないと蒼都は思った。彼がトレーニングに参加する理由はただ一つ。ナックルヴァールの視線の先にいる苗字名前を見つめた。今日の彼女はメイド服姿ではなく、男性騎士と同じスラックスだ。
「パンツスタイルも似合ってるよォ~!」と直接本人に伝えるナックルヴァールの神経の図太さに、蒼都はとても真似できないと思った。
キルゲの隣で彼の補助をする名前も時折、騎士達の相手を行っていた。ナックルヴァールはその機会を伺っているのだが、どうやらキルゲはそれを阻止しているようだと蒼都の目には映っていた。
(これだけ露骨なのだから、キルゲさんだって警戒するのが分からないのか?)
ナックルヴァールは頭が良い方だと思っていたが、女の事になると思考力が鈍るのか言動が露骨すぎる。特にキルゲの娘である名前を追い掛け回すようになってからはそれが顕著だ。もしかしたら、これは彼の作戦なのだろうか?
(分からない…。)
「そこ!休憩は出来ましたか?行き〼よ~!」
キルゲがナックルヴァールと蒼都に気付き、サーベルを構えた。
「やべっ、バレた!蒼都、行くぞ!!!」
「俺はハナからサボっていない。」
物陰から様子を伺っていたペペはキルゲのトレーニングを受けるなんてまっぴらごめんだと思っていた。
「キルゲは相変わらずだネェ~。」
誰を操ろうか物色していると、キルゲの横にいる名前が目に入った。今は他の隊員を相手に戦闘している。
「ゲッゲッゲ…彼女に決めた…。」
ペペはキルゲの娘で
「ミーの愛を受け止めてよネッ!」
ぺぺは手でハートを作り、狙いを定めた。
「今ダ!LOVE,LOVE,ラ~~~ヴ♥」
ペペが放った光線は名前の背中に直撃し、彼女は動きを止めた。
「ぺぺだっ!!!」
「苗字さんにラヴ・キッスが直撃したぞ!」
騎士達の騒ぎを聞きつけたキルゲは手を止め、名前に視線を向けた。名前は苦悶の表情を浮かべ、「キルゲ様…」と呟いて顔を俯かせた。
「やったネ!これで彼女はミーの虜だ!」
その様子を黙って見過ごす事が出来ないナックルヴァールがペペに食らい掛かる。
「ペペ、不意打ちなんて汚ねぇぞ!つか、アンタトレーニングに参加してなかっただろ、名前ちゃんを元に戻せ!」
「嫌だヨ~~~ん!さぁ、こっちに来るんだ!」
名前はペペの言う通り、彼に向かって歩きはじめる。騎士達が最悪の展開を思い描く中、キルゲは沈黙を貫き通していた。
「キルゲ!いいのかよ?アンタの大事な娘さんがよりにもよって、あんな奴に操られてるってのに!止めてくれよ!」
慌てるナックルヴァールとは対照的にキルゲは冷静だった。
「ナックルヴァール君、落ち着きなさい。様子を伺いましょう。」
「そんな事言ってられる!?手遅れになっちまうぞ!」
「それはどうですかねぇ…。」
キルゲは口元を引き上げ、ほくそ笑んだ。
「ホントに綺麗な子だネェ…沢山愛したくなっちゃうヨォ~!」
「おぇっ」と誰かのえずく声が聞こえてきたが、最高の操り人形を手に入れたペペはそんな事など気にも留めない。
「じゃあ~先ずはキッスでもお願いしようかナ~~~?」
騎士達に衝撃が走り「やめろー!」「下衆!」「汚ブタ!」と次々とペペに対して罵詈雑言が飛び交う。女に興味の無い蒼都さえ、手に汗を握りながら状況を見守った。
名前は言われた通り、ペペに近付いていく。ペペは両手を広げて唇を突き出し、名前の口付けを待ち望んでいた。
ドガッ!!!
突然の事に、その場にいたキルゲを除く騎士達は開いた口が塞がらなかった。ぺぺは名前の拳によって吹き飛んでいたからだ。ペペ本人も何が起きたか分からないと言った表情で名前を見つめる。唇と鼻を強打し、鼻血が噴き出る。
「ミーの愛が通じないの!?もう一度!!!」
ペペは再びラヴ・キッスを放ち、名前に光線を直撃させる。名前はニコリと微笑み、ペペの元へと走り出して蹴りを入れる。
「ちょっと待って、待って~~~!!!」
名前は拳をぺぺに叩き込み、バキボコと鈍い音が響く。洗脳状態である筈なのに、何故主を攻撃するのだろうか?
「アレが彼女の本性だからですよ。」
「ええぇっ!!?」
キルゲの呟きにナックルヴァールは声を張り上げた。
「好きな子にちょっかいを掛けたくなる、あの現象と同じです。」
「いや…ちょっと度を越してないか…?」
引き気味なナックルヴァールとその他騎士達を差し置き、笑顔を浮かべながらペペを殴打する名前はこれでも愛情を表現している…らしい。もしこれが本当の彼女の姿であるならば、下手に彼女に惚れられたら最後…今のような状態が繰り広げられるという事だ。
「簡単に彼女を操る事が出来ると思わない方がいいですよ。躾けるのに、大分骨を折りましたからねェ…。」
「名前ちゃんって、そんなじゃじゃ馬な娘なの…?」
不敵に笑うキルゲの呟きにナックルヴァールは冷や汗を流した。この言葉だけで今まで彼が苦労してきた事が伝わってきた。名前ちゃんって一体何者なの…?
「これは…ヤバいな。」
「名前ちゃん好きだったけど…俺、付いてけないわ…。」
騎士達は名前に対して恐怖を抱いているようだった。
(ククク…予想外でしたが、いい牽制になったようですね。)
キルゲは目尻を上げた。彼女を狙っている輩は多い。ここで悪い虫を払ういい機会になった。
(あとは、この男ですかね…。)
キルゲはナックルヴァールに視線を向けた。彼は驚いてはいるものの決して恐れる表情は見せず、寧ろ好奇心に満ちた目で名前を見つめている。
ベチイィン!!!
名前は手に
「ペペ様、どうしてお逃げになられるのですか?私を愛して下さらないのですか?」
「こんな愛、知らないヨ~~~!!!助け"て"え"え"ぇぇ!!!!!」
「アハハハハ!ぺぺ様、お待ちになられて~!」
逃げ惑うペペと楽しそうに鞭を振り回して追い掛ける名前の異常なやり取りがツボに入り、ナックルヴァールは爆笑した。
「ハハハハ!面白れぇ!これはこれでアリだ!」
「本気で言っているのか、ナックルヴァール…。」
ナックルヴァールの発言に蒼都はドン引きしながら呟いた。
「美しい花には棘があるって言うだろう?正しく彼女に相応しい言葉だ。」
「……。」
蒼都は突っ込む気力すら失せていた。
「こんな歪んだのは愛じゃないヨ~~~!!!やめやめ~~~!」
ペペの言葉に騎士達は「どの口が言ってんだ」と思いながら、一目散に逃げる彼の後ろ姿を見送った。
洗脳が解けた名前はピタリと足を止め、キルゲを見つめた。
「……っ!!!」
みるみるうちに顔が赤くなっていく名前は俊足でキルゲの足元に膝まづいた。
「キルゲ様…っ!!!御見苦しい姿を見せて申し訳ございませんでした!!!」
ぺぺのラヴ・キッスは術が解けても洗脳時の記憶が残っているので、タチが悪い。案の定名前も顔から火を噴き出しそうな程に羞恥している。キルゲは微笑み、屈んで名前の手を取った。
「貴女の美しさは変わりませんでしたよ…流石、私の娘です。」
「キルゲ様ぁ…。」
名前は涙を浮かべ、微笑むキルゲの表情を恍惚と眺めていた。
(ちっ、結局こうなるのね。キルゲには敵わねぇわ…。)
ナックルヴァールは二人の様子を見ながら息を吐いた。彼女の心を落とすにはまず先にキルゲの洗脳を解かなければならない。
(これが一番厄介なんだよな。どうしたらいいんだか…。)
ナックルヴァールは腕を組みながら、脳内で幾つもの戦法で攻略するイメージを巡らせた。
キルゲは名前と立ち上がり、声を張り上げた。
「さぁ、休憩したらトレーニングを再開し〼よぉ!15分後、集合してくださあーい!」
騎士達は水分補給や手洗いに向かった。名前は幸せそうな表情を浮かべ、キルゲの後ろを付いて歩いた。
*
『キルゲの娘に惚れられると、大変な事になる』
思わぬ名前の一面を見た騎士達により噂が広まり、迂闊に近づく男達を寄せ付けなくなったのだった…。
「敵が減って良かったな…ナックルヴァール。」
「何言ってんだ、ハナから他の男共なんて俺の敵じゃねぇよ。最大の敵はキルゲなんだ。」
蒼都の発言にナックルヴァールはちっとも喜ばなかった。
「確かに…それもそうだな。」
「蒼都君、俺の事応援してくれるの?」
「それはない…。」
「お、名前ちゃんだ。」
ナックルヴァールの視線の先には名前がいる。声を掛けようとしたのも束の間、彼女は誰かに声を掛けて小走りになった。
「誰を追いかけているんだ?」と彼女の視線の先を見ると、今回の噂の元凶となった人物、ぺぺだった。
「お待ちになられて下さい。」
「はわわわわ、勘弁してヨネ~!!!」
状況はよく分からないが名前の方に用事があるようで、ペペは先日のトラウマからなのか逃げ回っている。
「ぺぺの野郎、ざまぁねぇな。」
「止めなくていいのか、ナックルヴァール。」
「いいんじゃない?ペペの奴も反省するでしょ。ククク…にしても面白いな。」
聖章騎士が聖兵から逃げ惑う姿は見ていて滑稽な物だった。
「自業自得だ」とナックルヴァールは思った。
「手荒な真似はしたくないのですが、致し方ありません。」
名前は鞭を取り出し、拘束しようと鞭を叩き付けた。
「ひええぇぇ~!」
「お待ちになられて下さい。」
その様子を目撃した他の星十字騎士も、二人を見て苦笑した。
ペペは二度とキルゲの娘に近付こうと思う事は無くなったのでした笑
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