見えざる帝国の日常(シリーズ)
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「何で聖章騎士 じゃないアンタと組まなきゃいけないのよ!?」
「本日キルゲ様は陛下と狩猟で外出されている為、わたくしが代理で参加させて頂いております。バンビエッタ様お一人でおられますので、わたくしと組んで頂けないでしょうか?」
星十字騎士団 の意欲向上と親睦会を兼ねて開催される徒競走…陛下、ハッシュバルト、神赦親衛隊 とグレミィを除いた聖章騎士がペアを組んで挑戦するのだが、バンビエッタは納得していなかった。…と言うのも、バンビのペアになったのが聖章騎士でもないキルゲの侍女、苗字名前だからだ。
「大体何でいっつも私がハバにされる訳っ!?」
バンビは四人のバンビーズに視線を向ける。暢気に「バンビちゃん頑張って~」と手を振っている。四人は「バンビに振り回されるからペアなんかやってられっか」と共通の認識を得ているようだ。
「決まったみたいだな。では始めるとしよう。」
ペアを組み終えた聖章騎士を見て進行役のハッシュバルトが合図を出そうとした瞬間、爆発音が聞こえてきた。
ドカーン!!!!!
全員が爆発した方向に視線を向ける。
「なんでアンタとペアを組まなきゃいけないの!?下っ端のくせに私に口出ししないで貰える?」
「バンビエッタ様、落ち着いて下さい。どうか今日一日だけ、お付き合い頂けないでしょうか?」
二人のやり取りにバンビーズは「始まったよ…」と白い目を向けた。競技が始まらないからサッサと進めてくれよ、とハッシュバルトに視線を向ける。
「おい、二人共落ち着け…。」
仲裁に入ろうとしたハッシュバルトの肩に手を置いたのは、ナックルヴァールだった。
「ハッシュバルト、もう少し二人の様子を見ていようぜ?星十字騎士団一の美女と美人のやり取り、気になるじゃねぇか!」
「競技が始まらないだろう。」
「手が付けられなくなったら、俺が仲裁するからさ!」
ハッシュバルトはナックルヴァールを一睨みし、バンビエッタと名前に視線を向けた。バンビエッタの短気っぷりは聖章騎士全員周知しているが、キルゲの部下である名前は性格実力共にその全貌を知らない。
名前はどうにかバンビをなだめようと説得しているが、彼女はまるで耳を貸さない。霊子を打ち込んで攻撃するが名前は神聖弓 で正確に矢を放ち手前で爆発させる。名前は駄々をこねる子供を相手する時と同様の態度で首を傾げた。
(これでは競技が始まりませんし、困りましたね…。)
「前から思ってたけどアンタ、ムカつくのよ!自分が綺麗だと思ってる訳?調子に乗らないでよ、アバズレ!」
バンビは再び名前に霊子を打ち込んだ。すると名前は神聖滅矢 を打って相殺させる事無く、体に直撃させた。この様子に他のリッター達は目を見開いた。避けられなかったのではなく、彼女は避けなかったのだ。
爆発と黒い煙が上がり、攻撃した本人すら「何なのよ!?」と驚きの目で見つめる。煙が拡散し、現れた名前は穏やかな表情のまま言った。
「これでバンビエッタ様の方が綺麗です。ご満足頂けましたか?」
名前が着ていたメイド服はボロボロに焼け落ち、下に着用していた袖がレース状の白ブラウスとスリッドの入った白いタイトスカートが現れる。
これにナックルヴァールは「うおっ!セクシーでお洒落ェ~」と喜んだ。
「ナックルヴァール、お前と言う奴は…。」
ハッシュバルトはナックルヴァールに白い視線を向ける。バンビエッタは怪訝な表情で名前を見つめた。
「アンタ、なんか気持ち悪いわよ…。なんで表情一つ変えずにいられるのよ?それで勝ったつもり!?」
苛々するバンビに対し、名前は極めて冷静に彼女を諭す。
「皆様お待ちです。どうか気を鎮めて頂けませんか?」
「あーもう!ほんっとムカつく!何なのアンタ?キルゲもこんな気持ち悪い使用人使って、頭イカれてるんじゃないの?」
「……。」
名前は体に纏わり付いている焼けたメイド服を薙ぎ払った。
「バンビエッタ様、それ以上はおやめ下さい。」
名前の声が低くなる。それを聞いて周りのリッターは危険を察知した。
「バンビちゃん、それ以上言わない方がいいよー…。」
ジゼルが助言するも、バンビは一蹴した。
「五月蠅いわね!この際だから言っておくけど、キルゲだって性悪なんだからね!皆んな口に出して言わないだけで、相当捻くれてんだから…噂によれば、男を物色して…。」
名前は目にも止まらぬ速さで移動し、バンビエッタの背後に回り、腕を後ろに取り拘束した。
「なっ…!」
「少々おいたが過ぎ〼よ、バンビエッタ様。」
バンビから名前の表情は見えないが、とんでもない力で拘束している。かなり怒っているようだ。
「私の悪口は幾ら言って頂いても構いません。私は決して怒りませんし、反発も致しません。ですが、キルゲ様の悪口を仰るなら、容赦致しませんよ!」
名前は寝転び、バンビエッタに絞め技 弓矢固めを決めた。
「きゃああぁあっ!何すんのよ!!!」
名前は腕に力を入れてバンビの首を絞める。更に体を翻し、十字固めでバンビの腕を締め上げる。
「いたいいたいいたいー!!!アンタ、こんな事してただじゃおかないわよ!」
何たる力技だろうか。男達は苦笑しつつもその光景を眺め、バンビーズの四人は既に大爆笑していた。
「誰かこの女を止めなさいよ~!!!」
バンビの訴えに、周りの聖章騎士は「100%バンビエッタが悪い」と仲裁する者はいなかった。名前は地面に正座し、膝の上でバンビエッタをうつ伏せにしてお尻を叩いた。
「悪い事をしたら言う言葉があり〼よね?何かお分かりですか、バンビエッタ様。」
「嫌よ、絶対に謝らないんだからね!」
「分かりました。」
名前は容赦なくバンビエッタのお尻を叩く。それがなんだか親子みたいに微笑ましく、遂には男達も声を出して笑い始めた。
「ちょっと、笑わないでよ!」
「ざまーねぇな!アハハハハハハ!」
キャンディスはのたうち回る程に大爆笑している。多くの聖章騎士に笑い者にされ、バンビは涙を浮かべた。
「分かったわよ!私が悪かったわ!だからもうやめて~~~!!!」
「バンビエッタ様、何か仰る事はございますか?」
「ごめん…。」
「聞こえません。」
「キルゲの事、悪く言ってごめんなさい~!」
大きく響いたバンビの声に名前は手を止めた。
「宜しいです。」
涙を浮かべるバンビエッタを起き上がらせ、名前は彼女の身体に付いた埃を払った。
(苗字の前でキルゲの悪口は絶対に言っちゃ駄目だ…。)
この現場を目撃していた聖章騎士全員がそう思った瞬間だった。
*
「私がフォローに回りますので、バンビエッタ様はゴールする事に集中して下さい。」
「当たり前でしょ!足引っ張ったら、タダじゃおかないんだからね!」
二人がゴールした段階でのタイムが記録になる。一人欠けていても意味がない。しかしバンビエッタは名前に合わせようとする気はサラサラなかった。
『3,2,1…START!』
ピストルが鳴り、聖章騎士達は走り出した。バンビエッタは後ろを振り返る事無く、突き進む。トップを走るバンビに他の騎士達が攻撃する。名前は弓で迎撃した。
「ちっ…キルゲの娘が相手か…一筋縄ではいかないな。」
名前は侍女とは言え、毎日欠かさず鍛錬を行っている。キルゲの鬼トレーニングにも付いて行く程の実力を兼ね備えており、聖章騎士と同じ土俵でも十分戦えた。
「恐怖デウズクマッテルト良イよ。」
低い声が聞こえたかと思うと、棘の神聖滅矢が聖章騎士を襲う。触れてしまった騎士は地面に這いつくばった。エス・ノトの攻撃だったが、彼は何故かナックルヴァールにおんぶされている。
「も~エス・ノト君体力無いから、いっつも俺が背負わなきゃいけないんだけど~!」
そうぼやくのはナックルヴァール。前方を走るバンビと名前の二人を視界に入れ、攻撃準備に入る。
「へへっ!美人さんに攻撃するのは、はばかれるがやっちゃって!」
「バンビエッタ様、お願いします!」
名前の指示でバンビは後方に霊子を打ち込んだ。エス・ノトは神聖滅矢を飛ばして爆発させる。
「バーナーフィンガー3!」
そこに追いついたバズビーとアキュトロンがエス・ノトとナックルヴァールを追攻撃した。
「悪く思うなよ!」
炎柱に焼かれた二人がいなくなり、バズビーとアキュトロンは女子二人を視界に捉える。
「バズビー!私、アンタの攻撃嫌いなの!」
「へっ!髪が焦げるからだろ?知るか!」
バズビーはバンビに向かって攻撃を仕掛けるが、名前が鞭でバズビーを拘束した。指が使えない為、バーナーフィンガーが使えない。
「私がいる事を忘れていませんか?」
名前の目の前に現れたロバート・アキュトロンの攻撃に反応が遅れた。アキュトロンは名前の喉元に銃を突きつけた。
「女性に手荒な真似をしたくはないですし、キルゲさんにも申し訳ありませんからね…少しの間、眠ってて貰いますよ。」
アキュトロンは薬液を名前に振りかけようとしたが、バンビエッタの霊子が飛んできて、瞬時に避けた。
「気絶されると困るの、感謝しなさいよね。」
「バンビエッタ様、ありがとうございます!」
アキュトロンはバズビーを開放し、女子二人に攻撃を始めた。
バン…バン!
発砲音が聞こえた瞬間、四人のマントに穴が空いた。狙撃元を確認すると、高台で神赦親衛隊のリーダー、リジェ・バロが銃口を向けていた。
「そう易々とゴール出来ると思うなよ?」
「ちっ、リジェさんが相手かよ!」
止まれば穴が空く。狙撃されないよう四人は走り出した。
「危ないっ!」
バンビに向けられた射撃に名前は反応した。名前がバンビエッタに飛び付き、二人は射程圏内から逃れた。バンビが名前を見ると彼女の銀髪の長い髪がハラハラと舞っていた。
「アンタ、髪が…。」
「直ぐに伸びるので大丈夫ですよ。」
怪我はしなかったものの、髪の一部がバッサリ切れた。名前はリジェに向かって弓を放つ。
「バンビエッタ様、今の内です!」
「分かってるわ!」
「アキュトロン、俺らも行くぜ!」
「了解 。」
四人はゴールに向かって走るが、途端に地面が隆起してゴールが遠のいていく。これはペルニダ・パルンカジャスの能力によるものだ。
「クソ、キリがねぇ!」
苦戦するバズビーとアキュトロンを横に、バンビはニマリと口元を引き上げた。
「これぐらいどうって事ないわ!」
バンビは自身の霊子を打ち込み、瓦礫を爆破させた。彼女が走る道が開けていく。
「美女が二人…悪くない。だが、我の前で奇跡は起こらぬ!」
またしても刺客が立ち塞がった。二メートルの巨体にも関わらず素早い動きでバンビエッタに飛び掛かったのは、同じく神赦親衛隊の一人、ジェラルド・ヴァルキリーだった。バンビはジェラルドに霊子を打ち込み盾を爆発させるが、彼の盾は無傷だった。
「ワハハハハ!そんな小さな爆弾では我を吹き飛ばす事など不可能!」
「爆弾じゃないんだけど!」
ヴァルキリーの斬撃を避けたのも束の間、大きく回した腕で殴られたバンビは体を吹き飛ばされた。
「いったあぁ~~~!!!」
「バンビエッタ様!」
追いついた名前がバンビに寄り添う。
「私の事はいいから、アイツを何とかして!」
やり取りしている間にもジェラルドは二人に向かって斬りかかって来る。
名前は鞭の形をした神聖弓を取り出し、ジェラルドに向かって放った。彼の剣に鞭を巻き付けて攻撃を止めるが、ジェラルドはニヤリと笑い鞭を掴んで名前を引っ張り寄せた。
「……っ!?」
名前はジェラルドに引き寄せられるも、柔軟な体で彼の背後を取った。首に腕を回して絞め技を掛ける。
「キルゲの娘よ、そんな華奢な体で我を絞められると思うか?」
両腕を使いジェラルドの首を絞め上げるが圧倒的な筋肉量で絞められない。ジェラルドは名前の腕を掴み捻り上げた。
「それにしても美人だな、我が抱いてやってもいいぞ!今夜来るか?」
「……なっ!?」
頬を紅潮させた名前にジェラルドは口元を大きく歪ませた。其処にバンビエッタの霊子が撃ち込まれた。ジェラルドのマスクが爆発する。
「セクハラでしょ、気持ち悪い!」
「バンビエッタ様、ありがとうございます!」
ジェラルドが名前の腕を離し、抜け出した名前はバンビエッタに追いついた。
「今の内に行くわよ!」
「かしこまりました!」
リジェの万物貫通 が瓦礫を貫通するも、バンビと名前は足取り軽やかに笑顔でゴールテープを切ったのだった。
*
「トップはバンビエッタと苗字の二人だ。」
ハッシュバルトは金一封をバンビと名前に授与した。聖章騎士達は拍手を送る。競技が始まる前の争いが嘘のような結果だった。
「やったぁ~!」
「やりましたね、バンビエッタ様。」
はしゃぐバンビの横に佇む名前は心底嬉しそうに微笑んだ。
「俺達の攻撃をかいくぐるとは流石だ。」
リジェが賞賛の言葉を送ると、バンビが食い掛かった。
「リジェ、女の子の髪を傷つけるなんて狙撃手失格じゃない?最低よ!」
「何だと…っ!?」
リジェは切れて不格好になっている名前の銀髪を見て衝撃を受けた。
「リジェ様…気になさらないで下さい、私の実力不足ですので。」
「髪は女の命なのよ!ただの親交会なのに命を狙うなんて、アンタそれでもリーダーなの!?」
「っ…!?」
バンビの恐れしらずな言葉にガックリと肩を落とすリジェを見て「気の毒だ」と名前は思った。
「バンビエッタ様、少々言い過ぎなのでは…。」
「良いの!普段からでかい態度を取ってるから仕返しよ。あとアンタ!」
バンビは名前に向かって人差し指で指した。
「そろそろ鬱陶しいから"バンビエッタ様"じゃなくて、"バンビ様"にして頂戴!…アンタと組んで、悪くなかったわ。」
少し頬を紅潮させるバンビの姿を見て、名前は満面の笑みを零した。
「そう言って頂けて光栄です、バンビ様!」
名前は嬉しさのあまり、バンビに抱き付いた。
「やめて!放しなさいよ!!!」
名前の胸の中で暴れるバンビを見て、バンビーズの4人は「バンビの扱い方をマスターしてやがる…」と驚いた。
「百合…それも悪くないな。」
顎に手を当てて頷くナックルヴァールにエス・ノトは冷ややかな視線を送る。
「守備範囲ガ広スギて、気持チ悪イよ。」
*
「バンビ様、お待たせ致しました。参りましょうか。」
「わざわざ付き合ってあげるんだから、感謝しなさいよね!」
「バンビ様はお優しい方ですね。」
「キルゲに頼まれたから、仕方なく引き受けてるだけなんだから!」
怒りながらも名前に付き添うバンビはツンデレを炸裂させていた。騎士達はその光景を微笑ましく見守っていた。
星十字騎士団一の美女と美人、バンビと名前は男性騎士達の癒しの存在になったそうだ。
...end.
「本日キルゲ様は陛下と狩猟で外出されている為、わたくしが代理で参加させて頂いております。バンビエッタ様お一人でおられますので、わたくしと組んで頂けないでしょうか?」
「大体何でいっつも私がハバにされる訳っ!?」
バンビは四人のバンビーズに視線を向ける。暢気に「バンビちゃん頑張って~」と手を振っている。四人は「バンビに振り回されるからペアなんかやってられっか」と共通の認識を得ているようだ。
「決まったみたいだな。では始めるとしよう。」
ペアを組み終えた聖章騎士を見て進行役のハッシュバルトが合図を出そうとした瞬間、爆発音が聞こえてきた。
ドカーン!!!!!
全員が爆発した方向に視線を向ける。
「なんでアンタとペアを組まなきゃいけないの!?下っ端のくせに私に口出ししないで貰える?」
「バンビエッタ様、落ち着いて下さい。どうか今日一日だけ、お付き合い頂けないでしょうか?」
二人のやり取りにバンビーズは「始まったよ…」と白い目を向けた。競技が始まらないからサッサと進めてくれよ、とハッシュバルトに視線を向ける。
「おい、二人共落ち着け…。」
仲裁に入ろうとしたハッシュバルトの肩に手を置いたのは、ナックルヴァールだった。
「ハッシュバルト、もう少し二人の様子を見ていようぜ?星十字騎士団一の美女と美人のやり取り、気になるじゃねぇか!」
「競技が始まらないだろう。」
「手が付けられなくなったら、俺が仲裁するからさ!」
ハッシュバルトはナックルヴァールを一睨みし、バンビエッタと名前に視線を向けた。バンビエッタの短気っぷりは聖章騎士全員周知しているが、キルゲの部下である名前は性格実力共にその全貌を知らない。
名前はどうにかバンビをなだめようと説得しているが、彼女はまるで耳を貸さない。霊子を打ち込んで攻撃するが名前は
(これでは競技が始まりませんし、困りましたね…。)
「前から思ってたけどアンタ、ムカつくのよ!自分が綺麗だと思ってる訳?調子に乗らないでよ、アバズレ!」
バンビは再び名前に霊子を打ち込んだ。すると名前は
爆発と黒い煙が上がり、攻撃した本人すら「何なのよ!?」と驚きの目で見つめる。煙が拡散し、現れた名前は穏やかな表情のまま言った。
「これでバンビエッタ様の方が綺麗です。ご満足頂けましたか?」
名前が着ていたメイド服はボロボロに焼け落ち、下に着用していた袖がレース状の白ブラウスとスリッドの入った白いタイトスカートが現れる。
これにナックルヴァールは「うおっ!セクシーでお洒落ェ~」と喜んだ。
「ナックルヴァール、お前と言う奴は…。」
ハッシュバルトはナックルヴァールに白い視線を向ける。バンビエッタは怪訝な表情で名前を見つめた。
「アンタ、なんか気持ち悪いわよ…。なんで表情一つ変えずにいられるのよ?それで勝ったつもり!?」
苛々するバンビに対し、名前は極めて冷静に彼女を諭す。
「皆様お待ちです。どうか気を鎮めて頂けませんか?」
「あーもう!ほんっとムカつく!何なのアンタ?キルゲもこんな気持ち悪い使用人使って、頭イカれてるんじゃないの?」
「……。」
名前は体に纏わり付いている焼けたメイド服を薙ぎ払った。
「バンビエッタ様、それ以上はおやめ下さい。」
名前の声が低くなる。それを聞いて周りのリッターは危険を察知した。
「バンビちゃん、それ以上言わない方がいいよー…。」
ジゼルが助言するも、バンビは一蹴した。
「五月蠅いわね!この際だから言っておくけど、キルゲだって性悪なんだからね!皆んな口に出して言わないだけで、相当捻くれてんだから…噂によれば、男を物色して…。」
名前は目にも止まらぬ速さで移動し、バンビエッタの背後に回り、腕を後ろに取り拘束した。
「なっ…!」
「少々おいたが過ぎ〼よ、バンビエッタ様。」
バンビから名前の表情は見えないが、とんでもない力で拘束している。かなり怒っているようだ。
「私の悪口は幾ら言って頂いても構いません。私は決して怒りませんし、反発も致しません。ですが、キルゲ様の悪口を仰るなら、容赦致しませんよ!」
名前は寝転び、バンビエッタに絞め技 弓矢固めを決めた。
「きゃああぁあっ!何すんのよ!!!」
名前は腕に力を入れてバンビの首を絞める。更に体を翻し、十字固めでバンビの腕を締め上げる。
「いたいいたいいたいー!!!アンタ、こんな事してただじゃおかないわよ!」
何たる力技だろうか。男達は苦笑しつつもその光景を眺め、バンビーズの四人は既に大爆笑していた。
「誰かこの女を止めなさいよ~!!!」
バンビの訴えに、周りの聖章騎士は「100%バンビエッタが悪い」と仲裁する者はいなかった。名前は地面に正座し、膝の上でバンビエッタをうつ伏せにしてお尻を叩いた。
「悪い事をしたら言う言葉があり〼よね?何かお分かりですか、バンビエッタ様。」
「嫌よ、絶対に謝らないんだからね!」
「分かりました。」
名前は容赦なくバンビエッタのお尻を叩く。それがなんだか親子みたいに微笑ましく、遂には男達も声を出して笑い始めた。
「ちょっと、笑わないでよ!」
「ざまーねぇな!アハハハハハハ!」
キャンディスはのたうち回る程に大爆笑している。多くの聖章騎士に笑い者にされ、バンビは涙を浮かべた。
「分かったわよ!私が悪かったわ!だからもうやめて~~~!!!」
「バンビエッタ様、何か仰る事はございますか?」
「ごめん…。」
「聞こえません。」
「キルゲの事、悪く言ってごめんなさい~!」
大きく響いたバンビの声に名前は手を止めた。
「宜しいです。」
涙を浮かべるバンビエッタを起き上がらせ、名前は彼女の身体に付いた埃を払った。
(苗字の前でキルゲの悪口は絶対に言っちゃ駄目だ…。)
この現場を目撃していた聖章騎士全員がそう思った瞬間だった。
*
「私がフォローに回りますので、バンビエッタ様はゴールする事に集中して下さい。」
「当たり前でしょ!足引っ張ったら、タダじゃおかないんだからね!」
二人がゴールした段階でのタイムが記録になる。一人欠けていても意味がない。しかしバンビエッタは名前に合わせようとする気はサラサラなかった。
『3,2,1…START!』
ピストルが鳴り、聖章騎士達は走り出した。バンビエッタは後ろを振り返る事無く、突き進む。トップを走るバンビに他の騎士達が攻撃する。名前は弓で迎撃した。
「ちっ…キルゲの娘が相手か…一筋縄ではいかないな。」
名前は侍女とは言え、毎日欠かさず鍛錬を行っている。キルゲの鬼トレーニングにも付いて行く程の実力を兼ね備えており、聖章騎士と同じ土俵でも十分戦えた。
「恐怖デウズクマッテルト良イよ。」
低い声が聞こえたかと思うと、棘の神聖滅矢が聖章騎士を襲う。触れてしまった騎士は地面に這いつくばった。エス・ノトの攻撃だったが、彼は何故かナックルヴァールにおんぶされている。
「も~エス・ノト君体力無いから、いっつも俺が背負わなきゃいけないんだけど~!」
そうぼやくのはナックルヴァール。前方を走るバンビと名前の二人を視界に入れ、攻撃準備に入る。
「へへっ!美人さんに攻撃するのは、はばかれるがやっちゃって!」
「バンビエッタ様、お願いします!」
名前の指示でバンビは後方に霊子を打ち込んだ。エス・ノトは神聖滅矢を飛ばして爆発させる。
「バーナーフィンガー3!」
そこに追いついたバズビーとアキュトロンがエス・ノトとナックルヴァールを追攻撃した。
「悪く思うなよ!」
炎柱に焼かれた二人がいなくなり、バズビーとアキュトロンは女子二人を視界に捉える。
「バズビー!私、アンタの攻撃嫌いなの!」
「へっ!髪が焦げるからだろ?知るか!」
バズビーはバンビに向かって攻撃を仕掛けるが、名前が鞭でバズビーを拘束した。指が使えない為、バーナーフィンガーが使えない。
「私がいる事を忘れていませんか?」
名前の目の前に現れたロバート・アキュトロンの攻撃に反応が遅れた。アキュトロンは名前の喉元に銃を突きつけた。
「女性に手荒な真似をしたくはないですし、キルゲさんにも申し訳ありませんからね…少しの間、眠ってて貰いますよ。」
アキュトロンは薬液を名前に振りかけようとしたが、バンビエッタの霊子が飛んできて、瞬時に避けた。
「気絶されると困るの、感謝しなさいよね。」
「バンビエッタ様、ありがとうございます!」
アキュトロンはバズビーを開放し、女子二人に攻撃を始めた。
バン…バン!
発砲音が聞こえた瞬間、四人のマントに穴が空いた。狙撃元を確認すると、高台で神赦親衛隊のリーダー、リジェ・バロが銃口を向けていた。
「そう易々とゴール出来ると思うなよ?」
「ちっ、リジェさんが相手かよ!」
止まれば穴が空く。狙撃されないよう四人は走り出した。
「危ないっ!」
バンビに向けられた射撃に名前は反応した。名前がバンビエッタに飛び付き、二人は射程圏内から逃れた。バンビが名前を見ると彼女の銀髪の長い髪がハラハラと舞っていた。
「アンタ、髪が…。」
「直ぐに伸びるので大丈夫ですよ。」
怪我はしなかったものの、髪の一部がバッサリ切れた。名前はリジェに向かって弓を放つ。
「バンビエッタ様、今の内です!」
「分かってるわ!」
「アキュトロン、俺らも行くぜ!」
「
四人はゴールに向かって走るが、途端に地面が隆起してゴールが遠のいていく。これはペルニダ・パルンカジャスの能力によるものだ。
「クソ、キリがねぇ!」
苦戦するバズビーとアキュトロンを横に、バンビはニマリと口元を引き上げた。
「これぐらいどうって事ないわ!」
バンビは自身の霊子を打ち込み、瓦礫を爆破させた。彼女が走る道が開けていく。
「美女が二人…悪くない。だが、我の前で奇跡は起こらぬ!」
またしても刺客が立ち塞がった。二メートルの巨体にも関わらず素早い動きでバンビエッタに飛び掛かったのは、同じく神赦親衛隊の一人、ジェラルド・ヴァルキリーだった。バンビはジェラルドに霊子を打ち込み盾を爆発させるが、彼の盾は無傷だった。
「ワハハハハ!そんな小さな爆弾では我を吹き飛ばす事など不可能!」
「爆弾じゃないんだけど!」
ヴァルキリーの斬撃を避けたのも束の間、大きく回した腕で殴られたバンビは体を吹き飛ばされた。
「いったあぁ~~~!!!」
「バンビエッタ様!」
追いついた名前がバンビに寄り添う。
「私の事はいいから、アイツを何とかして!」
やり取りしている間にもジェラルドは二人に向かって斬りかかって来る。
名前は鞭の形をした神聖弓を取り出し、ジェラルドに向かって放った。彼の剣に鞭を巻き付けて攻撃を止めるが、ジェラルドはニヤリと笑い鞭を掴んで名前を引っ張り寄せた。
「……っ!?」
名前はジェラルドに引き寄せられるも、柔軟な体で彼の背後を取った。首に腕を回して絞め技を掛ける。
「キルゲの娘よ、そんな華奢な体で我を絞められると思うか?」
両腕を使いジェラルドの首を絞め上げるが圧倒的な筋肉量で絞められない。ジェラルドは名前の腕を掴み捻り上げた。
「それにしても美人だな、我が抱いてやってもいいぞ!今夜来るか?」
「……なっ!?」
頬を紅潮させた名前にジェラルドは口元を大きく歪ませた。其処にバンビエッタの霊子が撃ち込まれた。ジェラルドのマスクが爆発する。
「セクハラでしょ、気持ち悪い!」
「バンビエッタ様、ありがとうございます!」
ジェラルドが名前の腕を離し、抜け出した名前はバンビエッタに追いついた。
「今の内に行くわよ!」
「かしこまりました!」
リジェの
*
「トップはバンビエッタと苗字の二人だ。」
ハッシュバルトは金一封をバンビと名前に授与した。聖章騎士達は拍手を送る。競技が始まる前の争いが嘘のような結果だった。
「やったぁ~!」
「やりましたね、バンビエッタ様。」
はしゃぐバンビの横に佇む名前は心底嬉しそうに微笑んだ。
「俺達の攻撃をかいくぐるとは流石だ。」
リジェが賞賛の言葉を送ると、バンビが食い掛かった。
「リジェ、女の子の髪を傷つけるなんて狙撃手失格じゃない?最低よ!」
「何だと…っ!?」
リジェは切れて不格好になっている名前の銀髪を見て衝撃を受けた。
「リジェ様…気になさらないで下さい、私の実力不足ですので。」
「髪は女の命なのよ!ただの親交会なのに命を狙うなんて、アンタそれでもリーダーなの!?」
「っ…!?」
バンビの恐れしらずな言葉にガックリと肩を落とすリジェを見て「気の毒だ」と名前は思った。
「バンビエッタ様、少々言い過ぎなのでは…。」
「良いの!普段からでかい態度を取ってるから仕返しよ。あとアンタ!」
バンビは名前に向かって人差し指で指した。
「そろそろ鬱陶しいから"バンビエッタ様"じゃなくて、"バンビ様"にして頂戴!…アンタと組んで、悪くなかったわ。」
少し頬を紅潮させるバンビの姿を見て、名前は満面の笑みを零した。
「そう言って頂けて光栄です、バンビ様!」
名前は嬉しさのあまり、バンビに抱き付いた。
「やめて!放しなさいよ!!!」
名前の胸の中で暴れるバンビを見て、バンビーズの4人は「バンビの扱い方をマスターしてやがる…」と驚いた。
「百合…それも悪くないな。」
顎に手を当てて頷くナックルヴァールにエス・ノトは冷ややかな視線を送る。
「守備範囲ガ広スギて、気持チ悪イよ。」
*
「バンビ様、お待たせ致しました。参りましょうか。」
「わざわざ付き合ってあげるんだから、感謝しなさいよね!」
「バンビ様はお優しい方ですね。」
「キルゲに頼まれたから、仕方なく引き受けてるだけなんだから!」
怒りながらも名前に付き添うバンビはツンデレを炸裂させていた。騎士達はその光景を微笑ましく見守っていた。
星十字騎士団一の美女と美人、バンビと名前は男性騎士達の癒しの存在になったそうだ。
...end.