見えざる帝国の日常(シリーズ)
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アタシはキャンディス・キャットニップ。
この星十字騎士団 内で一番キュートでセクシーな乙女!
此処にいるイケメン達は全てアタシの虜にしてやるよ!
銀架城 内のカフェでレモンティーを飲んでいると、入店してきた聖兵 の男達が色めき立った。
アタシの方を見ているから、もしかして見惚れちゃってる?
イイぜ、相手になってやるよ♪さぁ、おいで!…って。
男達はアタシの前を素通りし、カフェの外を覗いていた。
(ちっ、アタシじゃなかったのかよ…誰を見てるんだ?)
外の席を見るとそこにはメイド服を着た女の姿…キルゲの娘だ。今日は珍しく本を読みながら、一人でカフェを楽しんでいる。
バンビならまだしも、聖章騎士 でもないあの女が男の視線を集めるのがキャンディは癪に触った。
(見てるだけでムカつく…やってらんね〜。)
お目付け役のキルゲがいない事から、男達は声を掛けようとしていた。
腹が立つので席を立とうとしたキャンディだったが、瞬時にビビっと名案が浮かんだ。
(そうだ、逆手に取れば良いんだ!あの女を連れていれば、男達の視線は自ずとアタシに向く!)
男達に話しかけられ、対応に困っている名前。
アイツはキルゲの事しか興味が無い事を知っていたキャンディは軽く咳払いし、話し掛けた。
「よぉ名前ちゃん、今日は一人なのか?」
男達はギョッと目を見開き、突如割り込んできたキャンディを見つめる。男達はそそくさと退散した。
「キャンディス様、ご挨拶申し上げます。ありがとうございます…助かりました。」
「イイって事よ~!」
名前は助け船に安堵し、ニコリと微笑んでキャンディに挨拶した。
「キルゲと一緒じゃないんだな?」
「本日はキルゲ様から"一人の時間を楽しみなさい"と休暇を頂きました。」
「へぇ…じゃあ、ちょっとアタシに付き合えよ。城下街で面白い場所に案内してやっからよ。」
「えっ…城の外ですか!?私、一度も城下街に出掛けた事がありません…。」
「はぁっ!?嘘だろ?おもしれートコいっぱいあるのに、勿体ねぇ〜!」
幾ら箱入り娘だからとは言え、銀架城 の外に出た事が無いなんて世間知らずも程があるぞ、とキャンディスは思った。
「お気持ちは嬉しいのですが、無断で外に出る事は…。」
「あ〜分かったよ、キルゲに連絡取ってやるから待ってな!」
キャンディスは通話機を取り出し、今まで一度も掛けた事のない"J"の番号を呼び出した。
『キルゲです。』
「キャンディだぜ。今名前と一緒なんだけど、コイツを城下街に連れてっていいか?」
『何故そのような話になったのですか?』
「アタシが普段通ってる場所に連れて行きたいんだ!一度も外に出た事がないなんて、可哀想だろうが!」
キルゲは沈黙し、考え込んでいるようだ。暫くしてから溜め息が聞こえてきた。
『……分かりました、許可しましょう。但し、絶対に彼女を一人きりにしないよう留意して下さいね。』
「キルゲは心配性だな〜。」
『あと、門限は17時ですので厳守するよう彼女にもお伝え頂け〼か?』
「子供じゃねーんだから…分かったよ。じゃあな!」
通話を終えると、名前はキャンディの手を取り、喜んだ。
「キャンディス様、ありがとうございます!私の為にキルゲ様にご連絡して下さるとは…嬉しいです!」
「こんなの、どうって事ないだろ…。」
純粋な顔をして喜ぶ名前の笑顔を見たキャンディスは「いつもはキルゲの言う事だけ聞いて動いてるけど、中身は年頃の女子とおんなじだな」と思った。
「よし、時間は限られてる!サッサと行くよ!」
「はいっ!」
*
「じゃ、先ずはその邪魔なメイド服から着替えて貰うぜ。」
キャンディスは銀架城 を出てすぐのメイン通りにある衣装店に入った。
「初めて見る衣装ばかりです。」
名前は見た事のないファストファッションを物珍しそうに眺めていた。
「よし、これでいいだろ。」
キャンディスは即決でストリートダンスコーデに決めた。名前とリンクコーデになるように形や色見を揃えた。へそがチラリとのぞく白と黄緑Tシャツに白のバギーパンツ、クッション性のいいシューズも対になっている。
「カッコイイですね!」
「そうだろ?これなら動き易いからなんでもできる。走っても大丈夫だ。」
会計を済ませようとすると名前が「私が払います!」と言ったがキャンディスはそれを退けた。
「今日は黙ってアタシに付いてきな!今度何かお返ししてくれればいいから。分かったら、行くよ!」
「は…はいっ!」
*
次にキャンディスが向かったのはフェンスが並んだ通り。フェンスの中では男性達がバスケットボールを楽しんでいた。
「今日もやってるな、バズビー!」
バスケをしていたのはバズビーと蒼都 達だった。
「キャンディスか。隣は…えっ!?キルゲの娘っ!?」
「あぁ、そうだぜ。」
「バズビー様、蒼都様…ごきげんよう。」
丁寧にあいさつする名前にバズビーと蒼都もつられて頭を下げた。
「お…おう。キルゲに怒られねのーか?」
「大丈夫、ちゃんと了承は取ってある。そんな事よりコイツ、バスケ見るの初めてなんだ。見せてやってくれよ。」
「あぁ、いいぜ!」
バズビーは仲間に声を掛け、ゲームが始まった。
それまでまばらだった人影はキャンディス達が現れた事により、人だかりになっていた。キャンディスの思惑通り、名前がいる珍しさに男達が集まってキャンディにも視線を向けてくる。
(よしよし、作戦通りだ!イケメンいるかな~?)
ほくそ笑むキャンディの横で名前は目を輝かせてバスケを眺めていた。
*
「キルゲの娘さんが来てるらしいぜ。」
「こんな所にか?嘘だろぉ?」
「マジ、俺見たんだって!可愛かったぜ~。」
ベンチで横になっていた男、アスキン・ナックルヴァールはチラリと聞こえてきた会話に反応して起き上がった。
「名前ちゃんが来てるって?」
掛けていたサングラスを額上にずらし、人だかりが出来ているバスケットコートに視線を向けた。何故、彼女がこんな場所に来ているのだろう?キルゲに連れられてやって来たのか?いや…来る用事が見つからない。真相を確かめる為、ナックルヴァールは立ち上がり、現場に向かった。
*
「名前ちゃんもやってみるか?」
「はい。宜しくお願い致します。」
男達に誘われた名前がコート内に入る。
「アタシもやる!」
キャンディは呼ばれた訳ではなかったが、名前と共にコートに入った。ゲームを見学して動きを見ていた名前は覚えたばかりのドリブルを披露した。初心者だとボールをバウンドさせながら移動するのも難しいが、名前は難なくこなすことが出来た。
「おおぉ~!流石!」
たったこれだけで拍手や口笛が鳴り「アタシの時とは全然違うじゃねーか」と怒りを沸々と燃やすキャンディス。
「よし、そのままゴールに入れられるか?」
名前はバスケットゴールに向かってボールを投げたが、リングに当たりボールは飛んで行ってしまった。
「惜しいな~!次はゲームやろうぜ!」
どいつもこいつも名前目当てで集まって来る事に腹を立てたキャンディスは、名前の腕を取って歩き出した。
「悪りーな、時間がないから次行くわ!名前、行くぞ!」
「かしこまりました。皆様、お邪魔致しました!」
名前は丁寧に頭を下げ、キャンディについて行った。早々に立ち去る二人にコートにいた野次馬は落胆した。
「ええぇ~!もうちょっと遊んでけばいいだろ~?」
その様子を見ていたバズビーと蒼都は「ようやく嵐が過ぎ去った」と息を吐いた。
*
次にキャンディがやって来たのはストリートダンスを楽しんでいるステージ。ノリの良いミュージックが掛けられ、数人が自由に踊っている。
「ダンスですか?楽しそうですね!」
名前はダンスが好きなので直ぐに食いついた。
「やぁ、お二人共。」
「ナックルヴァール…てめぇ、何しに来た?」
「ごきげんよう、ナックルヴァール様。」
「ごきげんよ〜う♪名前ちゃんが来てるって聞こえてきたから俺、走って来たのさ。」
「ナックルヴァールまで名前目当てかよ…ったく。」
キャンディは現れたナックルヴァールに白い視線を向けた。この男が走る事などそうそう無い為、目的が露骨に表れていた。ナックルヴァールは既に名前の事しか見ていない。イケメンの男ならまだ良かったのに…とキャンディは溜め息を零した。
「名前ちゃんのストリートファッション、すごく似合ってるよォ…可愛いねェ。」
日頃からロングのメイド服を着ている名前の体のシルエットがよく分かる。二の腕、背中、お腹が見えている状態。ナックルヴァールは彼女の身体を舐め回すようにじっくり見つめていた。
「キャンディス様に見繕って頂きました。城下街に来るのは初めてなので私…とても楽しいです。」
「そうなんだァ…じゃあ、後で俺が他の場所も案内してあげるよ。」
キャンディスはナックルヴァールの下心に勘付き、キルゲの忠告を伝えた。
「それは無理だ、ナックルヴァール。キルゲに"名前を一人にするな"って頼まれてる、諦めな。」
「ちっ…キルゲの野郎、抜かりねぇなァ…。」
名前は二人の会話など聞いておらず、目の前で繰り広げられているダンスに夢中だった。決められた振り付けを踊る訳ではなく、音楽のリズムに合った振り付けを自由に組み合わせて踊るダンスに、名前は体が乗り出していた。
「キャンディス様、私も参加したいです!」
「あぁ、行って来いよ!」
「名前ちゃん、俺も一緒に!」
ステージ上に現れた名前に気が付いた、ナナナ・ナジャークープ。彼はシンセサイザの前に立ち、ディスクジョッキーを務めていた。
「ごきげんよう、ナジャークープ様。」
「キルゲの娘じゃねぇか!どうしたんだ?」
「よぉ、ナジャークープ。」
「ナックルヴァール!」
「キャンディスの案内で城下街に遊びに来たんだってさ!名前ちゃん可愛いから、野次馬がすげぇんだよ。」
「おめーもその内の一人だろ」と思ったキャンディは苛立ちながら、周囲の男達に目を向ける。
「あの、私もダンスに参加させて頂く事は可能でしょうか?」
「勿論!名前ちゃんはダンス好きなの?」
「はい!このようなダンスは初めてですが、とても楽しそうで…体が勝手に踊り出してしまいそうなんです。」
「おぉっ!それは良いねぇ。ストリートダンスは振り付けが決まっていない。自分の心のままに踊るんだ。名前ちゃんは普段どんなダンスを踊るんだ?」
「私はバレエと社交ダンス…少しフラメンコも踊りますが、ストリートダンスと言うものに興味があります!ご教授頂きたいです、お願い致します。」
「オーケーぃ…名前ちゃんのダンス愛、伝わってきたぜ。おい、野郎共!」
ナジャークープの掛け声で踊っていた男達が視線を向ける。
「この子にストリートダンスの基本を教えてやってくれ。踊りたいんだとさ。」
名前が挨拶すると、例の如く男達は彼女の美しさに目を見張った。
「キルゲの娘さん…こんなに間近で見たの初めてだけど、めっちゃ美人だ。」
「可愛い…。」
「おいおい、あんま名前ちゃんに近付くな、触ったりしたらキルゲにチクるぞ。」
何故ナックルヴァールがいるんだ?つーか何様?と思いながら、男達は白い視線を向けた。下っ端からも舐められがちなナックルヴァールだった。
「じゃあ基本の動きから始めよう。」
ダンス講座が始まり、早速名前は基本の動きから取り組んだ。飲み込みが早く、一度教えただけで数種類の振り付けはほぼマスターした。日頃からダンスをやっているだけある。今度は音楽を流しながらダンスを踊っていく。
(お、イケメン発見!)
その頃キャンディスは集まってきた野次馬の物色を行っていた。イケメンを発見したら次々と声を掛けていく。
「なぁ今夜、もし良かったらアタシと遊ばない…?」
色目を使って男に視線を送るキャンディス。しかし男は「すみません…俺、彼女がいるんです!」と答えた。
「彼女持ちなのに、名前を見に来てんのはどーなんだ?」
「すみません!星十字騎士団 一の美人がどんなもんか気になって…。」
「そうかよ。」
キャンディスは舌打ちしながら別の男を当たる事にした。彼女持ちの男の心すら鷲掴みにする名前が憎い。しかし当の本人は男など微塵も興味がないのが唯一の救いだ。バンビみたいに食い物にされたらイケメンがいなくなってしまう。
(だけど…アイツ自身の性格は悪くない。)
キャンディスは名前と行動を共にして初めて思ったが、素直で礼儀正しく、キャンディを立てる事から彼女の事は嫌いではないと思った。
(まぁ…男達が気になる気持ちは少し分かる気がする。)
疑う心を持たず、真剣に物事に取り組む姿は見ていて気持ちがいい。しかし、世間知らずのお嬢さんなのが気になる所だ。悪い男に騙されるんじゃないかと心配するキルゲの気持ちが、少しだけ理解出来たような気がする。特に名前の横から付いて離れないナックルヴァール…最初から下心丸出しでコイツは要注意人物だと思った。
『おおおぉぉ~~~!!!』
歓声と口笛が鳴り、キャンディが目を向けると音楽に乗って名前が踊っている姿が見える。曲のリズムに相まってキレのある軽快なステップに男達の視線は釘付けだった。時折見せるバレエ特有のしなやかな動作や表情に、同性のキャンディですらドキドキしてしまう。案の定、男達はいかがわしい視線で名前を見つめている。
「いいぞ名前ちゃん!」
「最高だ!エロい!」
「もっとダンス見せてくれ~!」
名前は演技しているようで、男の歓声や視線は一切気にしていない。何を思っているのだろう…彼女の視線を見ていると下にいる男達ではなく、斜め上の方向…空を見つめている。
(こいつらがどんだけ名前の事を想っていても、キルゲの事しか考えてないんだろうな。)
キャンディは一途な名前の姿を見て眩しさを感じた。
そのブレない彼女の姿がここまで人を魅了するのではないかと思った。
*
「お腹空きました。」
「あんだけ踊ったんだから、そりゃそうなるだろうな。」
「二人共!この店、美味しいから入ろうぜ!」
「ナックルヴァール…お前、いつまで付いてくるんだ。」
「そりゃ名前ちゃんをキルゲの部屋に送り届けるまでに決まってんだろォ?変な虫が寄り付かねぇように俺が見張っとかないとな!」
「一番危険な虫はお前だろうが!」
「名前ちゃん、行こっか~!」
「てめぇ…。」
調子を狂わされながら、キャンディはナックルヴァールに食事を奢らせて貰おうと思った。
「ハンバーガー食べた事ある?」
「いえ…このように包み紙を手で持って食べるスタイルは初めてで…。」
相変わらず距離が近いナックルヴァールを押しのけ、キャンディは名前の隣に座った。
「キャンディス様…私、此処に来てすごく楽しいです!連れてきて下さり、ありがとうございます!」
「そりゃ良かった。また連れてきてやっからよ。」
「本当ですか!?嬉しい…!」
名前はキャンディの腕を取り、体を寄せた。その姿が可愛らしくて、思わずよしよしと頭を撫でる。
「羨ましい…」とキャンディを見つめるナックルヴァール。
キャンディは「おめーには触れさせねぇよ」と牽制した。
*
楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、門限の時刻が近付いていた。
名前をキルゲの部屋まで送り届けたキャンディスは目当ての男を捕まえる事は出来なかったが、晴れやかな気持ちでいた。
***
6月7日。
「キャンディちゃん、お誕生日おめでとう~!」
バンビーズが集まり、キャンディの誕生日パーティが開かれていた。
机にはケーキやお菓子が並んでいる。バンビーズメンバーで恒例行事になっていたが、今回は来客が訪れた。
「キャンディス様、失礼致します。」
「アンタ、一体何しに来たのよ…!?」
驚くメンバーを気にせず、キャンディスは名前を招き入れた。
「名前!待ってたぜ~。」
「キャンディス様、お誕生日おめでとうございます。」
「ちょっと、キャンディ説明しなさいよ!」
バンビに促され、キャンディはニヤリと笑った。
「紹介するぜ、ダチの苗字名前!」
「皆さま宜しくお願い致します。」
「えっ!?いつの間にぃ~?」
「クソビッチと生娘が友達ねぇ…ジョークにしちゃあ面白いな。」
「はぁっ!?バンビーズに入れるって認めてないんだけど!?」
「別に入らなくていいだろ。アタシの誕生日をお祝いしてくれる子は大歓迎だ!」
キャンディは名前を抱き締め、笑った。
「えっえっ、まさか…キャンディちゃんソッチも…?」
目を輝かせるジゼルは勝手に言わせておけばいい。アタシの可愛い妹分には違いないのだから。
「キャンディス様、私から貴女に贈り物があります。」
「えっ!?なになに~?」
名前からプレゼントを受け取ったキャンディ。包装を剥がして箱を開けると、そこにはシャンプーとトリートメントのセットが入っていた。ブランドのかなり高級なやつだ。
「あーっ!アタシが欲しかったやつ~!!!名前、分かってんじゃないっ!ありがと~!」
喜ぶキャンディを見て名前は微笑んだ。
「名前と仲良くしておけば損はないな。」
黒い笑みを浮かべるリルトット、頷くミニーニャとジゼル。バンビは納得いかない様子。
アタシはキャンディス・キャットニップ。
可愛い妹分が出来て今日も絶好調!
彼女に触れたきゃ、アタシがまずは味見してやるから掛かってきな!
...end.
この
此処にいるイケメン達は全てアタシの虜にしてやるよ!
アタシの方を見ているから、もしかして見惚れちゃってる?
イイぜ、相手になってやるよ♪さぁ、おいで!…って。
男達はアタシの前を素通りし、カフェの外を覗いていた。
(ちっ、アタシじゃなかったのかよ…誰を見てるんだ?)
外の席を見るとそこにはメイド服を着た女の姿…キルゲの娘だ。今日は珍しく本を読みながら、一人でカフェを楽しんでいる。
バンビならまだしも、
(見てるだけでムカつく…やってらんね〜。)
お目付け役のキルゲがいない事から、男達は声を掛けようとしていた。
腹が立つので席を立とうとしたキャンディだったが、瞬時にビビっと名案が浮かんだ。
(そうだ、逆手に取れば良いんだ!あの女を連れていれば、男達の視線は自ずとアタシに向く!)
男達に話しかけられ、対応に困っている名前。
アイツはキルゲの事しか興味が無い事を知っていたキャンディは軽く咳払いし、話し掛けた。
「よぉ名前ちゃん、今日は一人なのか?」
男達はギョッと目を見開き、突如割り込んできたキャンディを見つめる。男達はそそくさと退散した。
「キャンディス様、ご挨拶申し上げます。ありがとうございます…助かりました。」
「イイって事よ~!」
名前は助け船に安堵し、ニコリと微笑んでキャンディに挨拶した。
「キルゲと一緒じゃないんだな?」
「本日はキルゲ様から"一人の時間を楽しみなさい"と休暇を頂きました。」
「へぇ…じゃあ、ちょっとアタシに付き合えよ。城下街で面白い場所に案内してやっからよ。」
「えっ…城の外ですか!?私、一度も城下街に出掛けた事がありません…。」
「はぁっ!?嘘だろ?おもしれートコいっぱいあるのに、勿体ねぇ〜!」
幾ら箱入り娘だからとは言え、
「お気持ちは嬉しいのですが、無断で外に出る事は…。」
「あ〜分かったよ、キルゲに連絡取ってやるから待ってな!」
キャンディスは通話機を取り出し、今まで一度も掛けた事のない"J"の番号を呼び出した。
『キルゲです。』
「キャンディだぜ。今名前と一緒なんだけど、コイツを城下街に連れてっていいか?」
『何故そのような話になったのですか?』
「アタシが普段通ってる場所に連れて行きたいんだ!一度も外に出た事がないなんて、可哀想だろうが!」
キルゲは沈黙し、考え込んでいるようだ。暫くしてから溜め息が聞こえてきた。
『……分かりました、許可しましょう。但し、絶対に彼女を一人きりにしないよう留意して下さいね。』
「キルゲは心配性だな〜。」
『あと、門限は17時ですので厳守するよう彼女にもお伝え頂け〼か?』
「子供じゃねーんだから…分かったよ。じゃあな!」
通話を終えると、名前はキャンディの手を取り、喜んだ。
「キャンディス様、ありがとうございます!私の為にキルゲ様にご連絡して下さるとは…嬉しいです!」
「こんなの、どうって事ないだろ…。」
純粋な顔をして喜ぶ名前の笑顔を見たキャンディスは「いつもはキルゲの言う事だけ聞いて動いてるけど、中身は年頃の女子とおんなじだな」と思った。
「よし、時間は限られてる!サッサと行くよ!」
「はいっ!」
*
「じゃ、先ずはその邪魔なメイド服から着替えて貰うぜ。」
キャンディスは
「初めて見る衣装ばかりです。」
名前は見た事のないファストファッションを物珍しそうに眺めていた。
「よし、これでいいだろ。」
キャンディスは即決でストリートダンスコーデに決めた。名前とリンクコーデになるように形や色見を揃えた。へそがチラリとのぞく白と黄緑Tシャツに白のバギーパンツ、クッション性のいいシューズも対になっている。
「カッコイイですね!」
「そうだろ?これなら動き易いからなんでもできる。走っても大丈夫だ。」
会計を済ませようとすると名前が「私が払います!」と言ったがキャンディスはそれを退けた。
「今日は黙ってアタシに付いてきな!今度何かお返ししてくれればいいから。分かったら、行くよ!」
「は…はいっ!」
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次にキャンディスが向かったのはフェンスが並んだ通り。フェンスの中では男性達がバスケットボールを楽しんでいた。
「今日もやってるな、バズビー!」
バスケをしていたのはバズビーと
「キャンディスか。隣は…えっ!?キルゲの娘っ!?」
「あぁ、そうだぜ。」
「バズビー様、蒼都様…ごきげんよう。」
丁寧にあいさつする名前にバズビーと蒼都もつられて頭を下げた。
「お…おう。キルゲに怒られねのーか?」
「大丈夫、ちゃんと了承は取ってある。そんな事よりコイツ、バスケ見るの初めてなんだ。見せてやってくれよ。」
「あぁ、いいぜ!」
バズビーは仲間に声を掛け、ゲームが始まった。
それまでまばらだった人影はキャンディス達が現れた事により、人だかりになっていた。キャンディスの思惑通り、名前がいる珍しさに男達が集まってキャンディにも視線を向けてくる。
(よしよし、作戦通りだ!イケメンいるかな~?)
ほくそ笑むキャンディの横で名前は目を輝かせてバスケを眺めていた。
*
「キルゲの娘さんが来てるらしいぜ。」
「こんな所にか?嘘だろぉ?」
「マジ、俺見たんだって!可愛かったぜ~。」
ベンチで横になっていた男、アスキン・ナックルヴァールはチラリと聞こえてきた会話に反応して起き上がった。
「名前ちゃんが来てるって?」
掛けていたサングラスを額上にずらし、人だかりが出来ているバスケットコートに視線を向けた。何故、彼女がこんな場所に来ているのだろう?キルゲに連れられてやって来たのか?いや…来る用事が見つからない。真相を確かめる為、ナックルヴァールは立ち上がり、現場に向かった。
*
「名前ちゃんもやってみるか?」
「はい。宜しくお願い致します。」
男達に誘われた名前がコート内に入る。
「アタシもやる!」
キャンディは呼ばれた訳ではなかったが、名前と共にコートに入った。ゲームを見学して動きを見ていた名前は覚えたばかりのドリブルを披露した。初心者だとボールをバウンドさせながら移動するのも難しいが、名前は難なくこなすことが出来た。
「おおぉ~!流石!」
たったこれだけで拍手や口笛が鳴り「アタシの時とは全然違うじゃねーか」と怒りを沸々と燃やすキャンディス。
「よし、そのままゴールに入れられるか?」
名前はバスケットゴールに向かってボールを投げたが、リングに当たりボールは飛んで行ってしまった。
「惜しいな~!次はゲームやろうぜ!」
どいつもこいつも名前目当てで集まって来る事に腹を立てたキャンディスは、名前の腕を取って歩き出した。
「悪りーな、時間がないから次行くわ!名前、行くぞ!」
「かしこまりました。皆様、お邪魔致しました!」
名前は丁寧に頭を下げ、キャンディについて行った。早々に立ち去る二人にコートにいた野次馬は落胆した。
「ええぇ~!もうちょっと遊んでけばいいだろ~?」
その様子を見ていたバズビーと蒼都は「ようやく嵐が過ぎ去った」と息を吐いた。
*
次にキャンディがやって来たのはストリートダンスを楽しんでいるステージ。ノリの良いミュージックが掛けられ、数人が自由に踊っている。
「ダンスですか?楽しそうですね!」
名前はダンスが好きなので直ぐに食いついた。
「やぁ、お二人共。」
「ナックルヴァール…てめぇ、何しに来た?」
「ごきげんよう、ナックルヴァール様。」
「ごきげんよ〜う♪名前ちゃんが来てるって聞こえてきたから俺、走って来たのさ。」
「ナックルヴァールまで名前目当てかよ…ったく。」
キャンディは現れたナックルヴァールに白い視線を向けた。この男が走る事などそうそう無い為、目的が露骨に表れていた。ナックルヴァールは既に名前の事しか見ていない。イケメンの男ならまだ良かったのに…とキャンディは溜め息を零した。
「名前ちゃんのストリートファッション、すごく似合ってるよォ…可愛いねェ。」
日頃からロングのメイド服を着ている名前の体のシルエットがよく分かる。二の腕、背中、お腹が見えている状態。ナックルヴァールは彼女の身体を舐め回すようにじっくり見つめていた。
「キャンディス様に見繕って頂きました。城下街に来るのは初めてなので私…とても楽しいです。」
「そうなんだァ…じゃあ、後で俺が他の場所も案内してあげるよ。」
キャンディスはナックルヴァールの下心に勘付き、キルゲの忠告を伝えた。
「それは無理だ、ナックルヴァール。キルゲに"名前を一人にするな"って頼まれてる、諦めな。」
「ちっ…キルゲの野郎、抜かりねぇなァ…。」
名前は二人の会話など聞いておらず、目の前で繰り広げられているダンスに夢中だった。決められた振り付けを踊る訳ではなく、音楽のリズムに合った振り付けを自由に組み合わせて踊るダンスに、名前は体が乗り出していた。
「キャンディス様、私も参加したいです!」
「あぁ、行って来いよ!」
「名前ちゃん、俺も一緒に!」
ステージ上に現れた名前に気が付いた、ナナナ・ナジャークープ。彼はシンセサイザの前に立ち、ディスクジョッキーを務めていた。
「ごきげんよう、ナジャークープ様。」
「キルゲの娘じゃねぇか!どうしたんだ?」
「よぉ、ナジャークープ。」
「ナックルヴァール!」
「キャンディスの案内で城下街に遊びに来たんだってさ!名前ちゃん可愛いから、野次馬がすげぇんだよ。」
「おめーもその内の一人だろ」と思ったキャンディは苛立ちながら、周囲の男達に目を向ける。
「あの、私もダンスに参加させて頂く事は可能でしょうか?」
「勿論!名前ちゃんはダンス好きなの?」
「はい!このようなダンスは初めてですが、とても楽しそうで…体が勝手に踊り出してしまいそうなんです。」
「おぉっ!それは良いねぇ。ストリートダンスは振り付けが決まっていない。自分の心のままに踊るんだ。名前ちゃんは普段どんなダンスを踊るんだ?」
「私はバレエと社交ダンス…少しフラメンコも踊りますが、ストリートダンスと言うものに興味があります!ご教授頂きたいです、お願い致します。」
「オーケーぃ…名前ちゃんのダンス愛、伝わってきたぜ。おい、野郎共!」
ナジャークープの掛け声で踊っていた男達が視線を向ける。
「この子にストリートダンスの基本を教えてやってくれ。踊りたいんだとさ。」
名前が挨拶すると、例の如く男達は彼女の美しさに目を見張った。
「キルゲの娘さん…こんなに間近で見たの初めてだけど、めっちゃ美人だ。」
「可愛い…。」
「おいおい、あんま名前ちゃんに近付くな、触ったりしたらキルゲにチクるぞ。」
何故ナックルヴァールがいるんだ?つーか何様?と思いながら、男達は白い視線を向けた。下っ端からも舐められがちなナックルヴァールだった。
「じゃあ基本の動きから始めよう。」
ダンス講座が始まり、早速名前は基本の動きから取り組んだ。飲み込みが早く、一度教えただけで数種類の振り付けはほぼマスターした。日頃からダンスをやっているだけある。今度は音楽を流しながらダンスを踊っていく。
(お、イケメン発見!)
その頃キャンディスは集まってきた野次馬の物色を行っていた。イケメンを発見したら次々と声を掛けていく。
「なぁ今夜、もし良かったらアタシと遊ばない…?」
色目を使って男に視線を送るキャンディス。しかし男は「すみません…俺、彼女がいるんです!」と答えた。
「彼女持ちなのに、名前を見に来てんのはどーなんだ?」
「すみません!
「そうかよ。」
キャンディスは舌打ちしながら別の男を当たる事にした。彼女持ちの男の心すら鷲掴みにする名前が憎い。しかし当の本人は男など微塵も興味がないのが唯一の救いだ。バンビみたいに食い物にされたらイケメンがいなくなってしまう。
(だけど…アイツ自身の性格は悪くない。)
キャンディスは名前と行動を共にして初めて思ったが、素直で礼儀正しく、キャンディを立てる事から彼女の事は嫌いではないと思った。
(まぁ…男達が気になる気持ちは少し分かる気がする。)
疑う心を持たず、真剣に物事に取り組む姿は見ていて気持ちがいい。しかし、世間知らずのお嬢さんなのが気になる所だ。悪い男に騙されるんじゃないかと心配するキルゲの気持ちが、少しだけ理解出来たような気がする。特に名前の横から付いて離れないナックルヴァール…最初から下心丸出しでコイツは要注意人物だと思った。
『おおおぉぉ~~~!!!』
歓声と口笛が鳴り、キャンディが目を向けると音楽に乗って名前が踊っている姿が見える。曲のリズムに相まってキレのある軽快なステップに男達の視線は釘付けだった。時折見せるバレエ特有のしなやかな動作や表情に、同性のキャンディですらドキドキしてしまう。案の定、男達はいかがわしい視線で名前を見つめている。
「いいぞ名前ちゃん!」
「最高だ!エロい!」
「もっとダンス見せてくれ~!」
名前は演技しているようで、男の歓声や視線は一切気にしていない。何を思っているのだろう…彼女の視線を見ていると下にいる男達ではなく、斜め上の方向…空を見つめている。
(こいつらがどんだけ名前の事を想っていても、キルゲの事しか考えてないんだろうな。)
キャンディは一途な名前の姿を見て眩しさを感じた。
そのブレない彼女の姿がここまで人を魅了するのではないかと思った。
*
「お腹空きました。」
「あんだけ踊ったんだから、そりゃそうなるだろうな。」
「二人共!この店、美味しいから入ろうぜ!」
「ナックルヴァール…お前、いつまで付いてくるんだ。」
「そりゃ名前ちゃんをキルゲの部屋に送り届けるまでに決まってんだろォ?変な虫が寄り付かねぇように俺が見張っとかないとな!」
「一番危険な虫はお前だろうが!」
「名前ちゃん、行こっか~!」
「てめぇ…。」
調子を狂わされながら、キャンディはナックルヴァールに食事を奢らせて貰おうと思った。
「ハンバーガー食べた事ある?」
「いえ…このように包み紙を手で持って食べるスタイルは初めてで…。」
相変わらず距離が近いナックルヴァールを押しのけ、キャンディは名前の隣に座った。
「キャンディス様…私、此処に来てすごく楽しいです!連れてきて下さり、ありがとうございます!」
「そりゃ良かった。また連れてきてやっからよ。」
「本当ですか!?嬉しい…!」
名前はキャンディの腕を取り、体を寄せた。その姿が可愛らしくて、思わずよしよしと頭を撫でる。
「羨ましい…」とキャンディを見つめるナックルヴァール。
キャンディは「おめーには触れさせねぇよ」と牽制した。
*
楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、門限の時刻が近付いていた。
名前をキルゲの部屋まで送り届けたキャンディスは目当ての男を捕まえる事は出来なかったが、晴れやかな気持ちでいた。
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6月7日。
「キャンディちゃん、お誕生日おめでとう~!」
バンビーズが集まり、キャンディの誕生日パーティが開かれていた。
机にはケーキやお菓子が並んでいる。バンビーズメンバーで恒例行事になっていたが、今回は来客が訪れた。
「キャンディス様、失礼致します。」
「アンタ、一体何しに来たのよ…!?」
驚くメンバーを気にせず、キャンディスは名前を招き入れた。
「名前!待ってたぜ~。」
「キャンディス様、お誕生日おめでとうございます。」
「ちょっと、キャンディ説明しなさいよ!」
バンビに促され、キャンディはニヤリと笑った。
「紹介するぜ、ダチの苗字名前!」
「皆さま宜しくお願い致します。」
「えっ!?いつの間にぃ~?」
「クソビッチと生娘が友達ねぇ…ジョークにしちゃあ面白いな。」
「はぁっ!?バンビーズに入れるって認めてないんだけど!?」
「別に入らなくていいだろ。アタシの誕生日をお祝いしてくれる子は大歓迎だ!」
キャンディは名前を抱き締め、笑った。
「えっえっ、まさか…キャンディちゃんソッチも…?」
目を輝かせるジゼルは勝手に言わせておけばいい。アタシの可愛い妹分には違いないのだから。
「キャンディス様、私から貴女に贈り物があります。」
「えっ!?なになに~?」
名前からプレゼントを受け取ったキャンディ。包装を剥がして箱を開けると、そこにはシャンプーとトリートメントのセットが入っていた。ブランドのかなり高級なやつだ。
「あーっ!アタシが欲しかったやつ~!!!名前、分かってんじゃないっ!ありがと~!」
喜ぶキャンディを見て名前は微笑んだ。
「名前と仲良くしておけば損はないな。」
黒い笑みを浮かべるリルトット、頷くミニーニャとジゼル。バンビは納得いかない様子。
アタシはキャンディス・キャットニップ。
可愛い妹分が出来て今日も絶好調!
彼女に触れたきゃ、アタシがまずは味見してやるから掛かってきな!
...end.