神芳
彼の本当の目的を知ってしまった。
生きた魂魄を食らう彼の姿を目撃した芳野は、その恐怖から震えが収まらなかった。
それは穴の空いた虚と同じ姿。
禁忌を犯した、バケモノだ。
今日も彼は動物を狩りに行くと言い出掛けた。
私は気付かれないように彼の跡を追った。
人が住んでいない場所に家を作り、私たちは人里離れた場所で暮らしている。人間と会うことはまずない。
そうすることで私たちバウントは平穏に過ごすことが出来た。
それは私が永遠に望んでいる暮らし。
ずっとこのまま人間と交わることなく、亡くなった人間の魂魄から命を分けてもらう。
不満がない訳ではない。でもバウントは人間と比べて長命。それだけで良かったじゃない…。
彼は教会がある街に来た。
今日は日曜日。人間が信仰する宗教の礼拝日だ。
そこでは多くの人間が教会で祈りを捧げている。
人間が多く集まる日に彼は姿を現して何をするつもりなのだろう?
子どもたちが橋の下で遊んでいる。
概ね、礼拝に嫌気が差し大人の目を盗んで抜け出してきたのだろう。
神はその子どもたちを見つめている。
しばらくしてから彼の口元が歪んだ。
(まさか……!!!)
*
多くの人たちが黒い服を纏って教会に集まっている。
祭壇には三つの小さな棺。
子どもたちの亡骸を見て人間がむせび泣いている。
「子どもたちに罪はないのに、私が目を離したりするから…!」
子どもの母親だろう。子供の棺の前で涙を流している。
信仰しているカミサマが子どもたちに天罰を下したと思っているようだ。
私は心を痛めた。
子どもの命を奪ったのはカミサマなんかじゃない。
(神……どうしてこんな惨い事を……。)
*
「ただいま。」
「…おかえりなさい。」
私は何事もなかったように編み物を続けた。
彼はキジを捕まえてきた。既に下処理はしてあった。
「燻製にして頂こう。ワインとよく合うだろう。」
「そうね、楽しみだわ。」
私は彼の首元の襟に茶色い染みが付いている事に気が付いた。…それはきっとキジの血なんかじゃない。
「その汚れはどうしたの?」なんて
恐ろしくて尋ねる事など出来なかった。
キッチンから戻ってきた神は鏡を見て言った。
「ん?汚れてしまったな。先に着替えてくるよ。」
彼は着替えるために2階へ上がって行った。
私は見てしまった。
彼が鏡の中で微笑んでいる姿を。
あなたが私に隠している事…。
私は知ってしまった。
もう、ここにはいられない。
『さようなら。』
私は本にメモを挟んで家を出た。
彼が狩りに出かけている間に。
できるだけ遠くに、
私は後ろを振り返ることなく歩みを進めた。
途中、頬を雨粒が流れ落ちた。
彼に対しての失望と恐怖。
しかし、彼を止める勇気が私にはない。
どうしたらいいの?
どうしたら……。
喧嘩して家出した迷い子は、先の見えない不安と戦っている。
芳野は途方のない道を歩き続けた。
【逃げる恋人】...end.
生きた魂魄を食らう彼の姿を目撃した芳野は、その恐怖から震えが収まらなかった。
それは穴の空いた虚と同じ姿。
禁忌を犯した、バケモノだ。
今日も彼は動物を狩りに行くと言い出掛けた。
私は気付かれないように彼の跡を追った。
人が住んでいない場所に家を作り、私たちは人里離れた場所で暮らしている。人間と会うことはまずない。
そうすることで私たちバウントは平穏に過ごすことが出来た。
それは私が永遠に望んでいる暮らし。
ずっとこのまま人間と交わることなく、亡くなった人間の魂魄から命を分けてもらう。
不満がない訳ではない。でもバウントは人間と比べて長命。それだけで良かったじゃない…。
彼は教会がある街に来た。
今日は日曜日。人間が信仰する宗教の礼拝日だ。
そこでは多くの人間が教会で祈りを捧げている。
人間が多く集まる日に彼は姿を現して何をするつもりなのだろう?
子どもたちが橋の下で遊んでいる。
概ね、礼拝に嫌気が差し大人の目を盗んで抜け出してきたのだろう。
神はその子どもたちを見つめている。
しばらくしてから彼の口元が歪んだ。
(まさか……!!!)
*
多くの人たちが黒い服を纏って教会に集まっている。
祭壇には三つの小さな棺。
子どもたちの亡骸を見て人間がむせび泣いている。
「子どもたちに罪はないのに、私が目を離したりするから…!」
子どもの母親だろう。子供の棺の前で涙を流している。
信仰しているカミサマが子どもたちに天罰を下したと思っているようだ。
私は心を痛めた。
子どもの命を奪ったのはカミサマなんかじゃない。
(神……どうしてこんな惨い事を……。)
*
「ただいま。」
「…おかえりなさい。」
私は何事もなかったように編み物を続けた。
彼はキジを捕まえてきた。既に下処理はしてあった。
「燻製にして頂こう。ワインとよく合うだろう。」
「そうね、楽しみだわ。」
私は彼の首元の襟に茶色い染みが付いている事に気が付いた。…それはきっとキジの血なんかじゃない。
「その汚れはどうしたの?」なんて
恐ろしくて尋ねる事など出来なかった。
キッチンから戻ってきた神は鏡を見て言った。
「ん?汚れてしまったな。先に着替えてくるよ。」
彼は着替えるために2階へ上がって行った。
私は見てしまった。
彼が鏡の中で微笑んでいる姿を。
あなたが私に隠している事…。
私は知ってしまった。
もう、ここにはいられない。
『さようなら。』
私は本にメモを挟んで家を出た。
彼が狩りに出かけている間に。
できるだけ遠くに、
私は後ろを振り返ることなく歩みを進めた。
途中、頬を雨粒が流れ落ちた。
彼に対しての失望と恐怖。
しかし、彼を止める勇気が私にはない。
どうしたらいいの?
どうしたら……。
喧嘩して家出した迷い子は、先の見えない不安と戦っている。
芳野は途方のない道を歩き続けた。
【逃げる恋人】...end.
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