一角夢/cacao様
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
私は今、道場の扉の前に立っている
扉の向こう側から聞こえるのは、隊士達が稽古をしている音や声。竹刀で打ち付ける音、倒れる音、男達の叫び声や呻き声…。
その中で一際目立つ声が男達に怒号を浴びせていた。その声が聞こえた瞬間、私の心臓がドキッと跳ね上がった。
ここまで来ておいてあれだが、私はその声を耳にした瞬間、開けようと扉の取っ手に置いた手を離してしまった。
『…やっぱり帰ろう…』
そう思って踵を返した瞬間、目の前にドンッ!と現れた更木隊長。肩には草鹿副隊長を乗せている。
や「そんなとこで何してるの?」
剣「オイ、邪魔だ」
『し、失礼しました!』
剣「オラさっさと入れ!」
『わっ…!?』
開かれた扉。そして隊長に蹴り飛ばされる形で躊躇していた中へと入る事になってしまった。
おっとっとっ…と、足が勝手に進み誰かの背中にぶつかった。
顔を上げると、綺麗に髪が剃り落とされた頭が汗で光っていた。その人物が怪訝そうにこちらに振り向き見下ろしている。
角「…あん?」
『…あ、ゴメン…』
一言謝りそそくさと帰ろうとする。だがそんな私にその男は声を上げた。
角「あっ!テメェ名前!漸く来たかと思えばどこに逃げるつもりだぁッ!?」
『ちょ…離してよ一角!ゆ、弓親ぁ…!』
…私はここ暫く、一角を避けていた。道場に顔を出すのも二週間振り程だ。一角に腕をガッチリ掴まれてしまい弓親に助けを求めたが、心底迷惑そうな顔をしている。
弓「僕に助けを求めたって無駄だよ。自業自得なんだから」
弓親の言う〝自業自得″と言うのは、その二週間前の私の行動が原因である。と、言うのも…
弓「自分から一角に告白しといて返事も聞かずに逃げるなんて、卑怯だとは思わないのかい?」
『み…皆んなの前で言わないでよ!』
弓「何さ?今更だろ」
…そう、私は一角が好きだ。大好きだ。
今こうして掴まれている腕も、掌から伝わる熱で火傷しそうだ。胸を焦がす程の想いに、私の身体も火照ってしまう。好き過ぎて目も合わせられない…。
こんな私が思い切って告白したのが二週間前。思い切ったのは良いが、顔から火が出る程恥ずかしくてそのまま逃げてしまった。それから合わせる顔が無くてのらりくらりと一角から逃げ、今日に至る。
角「やっと捕まえたぜ…今日こそは逃がさねえぞ」
掴まれた腕をグイッと引き寄せられ一角の顔が近付いた。眉間に皺を寄せながらも、真剣な眼差しで私を見ていた。私の心音も熱も更に跳ね上がる。
『…ゃ、やだ…離してよ…』
思わず一角から視線を逸らした。振り絞って出した声も、震えているのが自分でも分かる。全身が熱い。
角「二週間も俺から逃げといて今更離してだあ?」
剣「…オイ、邪魔だぞオメェら。痴話喧嘩なら他所でやれ!」
『ち、痴話喧嘩じゃ…!』
角「スンマセン隊長。…おい行くぞ名前!」
隊長に痴話喧嘩と言われ否定する間も無く、腕を掴んでいた一角の掌が、スッと私の手を掴み引っ張った。
人気の無い場所へ来ると手が離れ、掌の熱が遠ざかる。少しだけその熱が名残惜しく感じた。
角「なあ名前」
『…な、なに?』
角「俺は男としてケジメを付けなきゃいけねえ」
『それはその…つまり…』
角「お前の告白の返事だ。二週間もまともに話せなかったからな。先にお前が逃げたとは言え、いつまでも先延ばしにする訳にもいかねえだろ?」
******
…二週間前…
『い、いい…一角!』
角「…何だ?えらい緊張した顔して…」
『えーっとえーっと……その、えっと…』
角「言いたい事があんならハッキリ言いやがれ」
『…っ!私、ぃ…一角が好き!』
…それは名前の突然の告白だった。
アイツは俺を好きだと言い、それだけ告げると俺の返事を待たずしてどこかに行っちまった。あまりにも唐突過ぎて俺の身体は固まったまま動かなかった。
弓「…良かったじゃん一角。おめでとう」
角「……はあッ!?」
弓「うわっ、何逆ギレしてるんだよ」
名前の言葉の意味も分からなかったが、弓親のおめでとうの意味も分からなかった。…いや、分からなかった訳じゃ無い。ただ突然の事に理解が追いつかなかった。
角「…なあ弓親…アイツ…今俺に何て言った…?」
弓「は?なに?惚気?」
角「違えよ!」
弓親は呆れた顔を俺に向けていた。盛大な溜息を溢しながらも、名前が俺に放った言葉を口にしてくれた。
弓「ったく…名前は一角が好きだってさ!」
角「俺が…好き…」
弓「そうだよ。良かったねおめでとう」
〝名前は俺が好き″
その言葉をやっと頭が理解した。理解した瞬間、全身に巡る血液が急激に熱くなり、頭からボンッと湯気が出た。
弓「…頭のテッペンまで真っ赤だよ。僕は一体何を見せられてるんだ…。一角も意外とウブだよね、名前と良い勝負してるよホント…」
弓親が最後何を言ったのかは聞こえなかった。ただただ、名前のあの言葉が、俺の頭から離れずにいた。
******
そして現在…
…あれからずっと避けられて今日に至る訳だが、名前と会えない時間が増える度、俺を好きだと言ったあの言葉を何度も何度も噛み締める様に思い出した。女々しいと言われたらそうかもしれねえ。
角「…俺だって本当は逃げたいぐらいだ。でも男だからこそ逃げる訳にはいかねえだろ?」
やっと今日、二週間振りに名前とまともに顔を合わせた。コイツが俺の目の前に来てくれた事がスゲェ嬉しかった。だからまた逃げられないよう、咄嗟に腕を掴んで…俺は虚勢を張った。
…そうだ、今だって俺は虚勢を張っている。名前と二人っきり。心臓が爆発しそうだ。たぶん今の俺は頭のテッペンまで赤いだろう。本当は女々しい奴なんだと、名前に思われるだろうな…。
角「…ぉ…俺も、その…」
名前との二人の時間。その時間が少しずつ、俺の虚勢をどこかへ連れ去ってしまう。だんだん口篭ってしまう俺に、名前は不安そうな瞳を向けていた。そんな名前を直視出来なくて、思わず目を逸らしてしまう。…俺ってこんなに女々しい奴だったのかと、本当に自分が情けなく思えた…。でもそんな事言ってる場合じゃ無え。「漢を見せろ斑目一角!」自分自身をそう鼓舞した。
******
や「あの二人大丈夫かな〜?」
弓「…どうでしょうね。このままさっさと付き合ってくれたら良いんですけどね」
剣「…なんだァ?アイツらまだ付き合って無かったのか?」
弓「そうなんですよ。ホント困りますよね」
剣「普段からイチャついてんのに今更かよ」
弓「イヤ、別にイチャついては無いですけど…まあ周りから見たらバレバレの両想いですけどね」
恋は盲目と言うけれど、この二人は一体何なのか…。一角も名前も、互いの事が好きなのに自分の事で精一杯。周りの事なんて本当に見えて無かったんだろうな。だから相手が自分をどう見ているかなんて、知る由も無かったんだろう。
弓「やれやれ、ウブ過ぎるのも困ったもんだ…。ちょっと様子見てきます」
剣「お前にしちゃあ野暮だな」
弓「そこは仲間想いって言ってくださいよ」
剣「それこそらしく無えな」
弓「フッ…なんとでも」
道場を出て二人を探すと、縁側のど真ん中に二人は居た。僕は見つからない様にそっと柱の陰に隠れ様子を窺った。二人とも顔を真っ赤にしてもじもじとしている。
弓「…思ってたより重症みたいだね。あそこまでとは…」
…進展が無いまま五分程。そろそろウブな二人の背中を押しに行こうか考える。でもそこで漸く、一角の声が響いた。
角「名前!お、お前が…好きだッ!!」
その一角の言葉を聞いて、僕は一安心した。ま、安心も何も、両想いなんだから元から心配なんて要らないんだけどね。
弓「…野暮、だったな…」
…僕は二人の行く末を見届けた。そしてその結果に納得すると、早々に踵を返した。この先二人の惚気を散々聞かされるのだと思うと嫌気が差す。それでも口元を緩ませながら、一角と名前の先の幸せを願ったのだった。
...end.
1/1ページ