一角短編集
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【心の眼差し】
傾いた夕陽が全てを照らし、雲は重たく影を纏う。空は徐々に闇を含み始めていた。
「ま~た一人、黄昏(たそがれ)てんのか?」
任務を終えた俺は、仲間から離れ高台で景色を眺めている彼女に声を掛けた。
風になびく彼女の髪が夕焼けに照らされて黄金色に輝く。
「空は二度と同じ景色にはならない。この目に焼き付けてるの。」
「そうかよ。」
夕焼けなんぞ、いつ見ても大体同じだ…と水を差すようなことは言わない。
弓親の野郎に「風情をぶち壊しにするような事は言うな」と再三言われたからだ。
俺は夕焼け空よりも、彼女の姿を心に留めておきたかった。
いつか彼女と共に道を歩む、その時が来ることを心密かに願った。
***
忘れもしねぇ。
俺が彼女に寄り添って生きていくと決めたのは、あの日の出来事だ。
敵が発する光を浴びた彼女は、視力を失った。
救護詰所と技術開発局に掛け合い、治療を試みたが不可能との事だった。
「生きてるだけで幸せ。死ねば何もかも忘れてしまうのだから。」
彼女はそう言って口元を緩めた。
視力を無くしても霊圧を感知出来る為、誰が傍にいるのかは会話せずとも把握できる。
死神の業務をこなす事は可能…盲目の隊長、東仙要がそれを証明していた。
しかし視力を失ってまだ日の浅い彼女は日常生活、勤務から鍛錬まで数多くの壁に衝突した。時に人の手を借りなければならない事もあった。
「手伝うか?」
物が散らばった部屋で何かを探している彼女。
霊圧で空間把握を試している最中のようだが、手探りで何かを探しているのでつい、手を貸したくなってしまう。
「結構よ。」
目を失っても、相変わらず人の手を借りようとしない彼女。できる事なら自力で解決しようとする、努力家な所が好きだった。
「…で、何を探してるんだ?」
「……本のしおり。」
探し初めて半刻ほど経っており、流石に疲れたようで彼女は素直に呟いた。
俺は周囲を見渡し、本が並べられている棚を見てみた。
「これか?イチョウの柄の。」
「そうそう!どこにあったの?」
「本の上に置いてあったぜ。」
「そっか…ありがとう。」
俺は彼女の手を取り、しおりを手渡した。
彼女の手をよく見ると、埃を触ったようで黒くなっていた。
「手ぇ、真っ黒になってんぞ。つか、よく見たら死魄装は白くなっちまってるし。」
「ほんと?」
「あぁ、本当だ。よし…風呂行け!俺も手伝うから。」
「結構です!」
目が見えないのだから、汚れがどうかなんて分かる訳ないよな…と思いながら彼女の後ろ姿を見送る。
今後、護廷十三隊に在籍しているかどうかは本人の意志次第だ。
護廷十三隊に退職制度はない。死神業務を下りた者は衣食住にまつわる生活支援員に回される。
(一戦から退いた方が幸せなんだろうが…。)
(…なんなら、俺と籍を入れるか?)
一角は自身の空想を思い浮かべ、自嘲気味に笑った。
目が見えなくても、彼女となら生活する上ではそれ程支障はない。
(アイツはどうしたいんだろうな。)
焦る事ではない。いつか時期は来る。
一角は息を吐き、部屋に戻った。
***
夕方。
雲が夕焼けに照らされ、空は美しいグラデーションを映し出していた。
彼女は夕陽に向かって座っていた。
数年前にも同じような光景が広がっていたな…と思った。
あの時の彼女の目はまだ見えていたが…。
「綺麗ね。」
俺は思いもがけない彼女の言葉に驚かされた。この景色が見えるのか?
「見えなくても分かる。肌で感じる陽のぬくもりと、通り過ぎる風の心地よさ、草木の香り。あと…隣に一角がいるって事。」
俺は彼女の手の上に自身の手を重ねた。
彼女は俺に顔を向けるが、視線が合う事はない。しかし、彼女の眼差しは確かに俺を向いている。
「お前なら、新しい仕事もすぐこなせるようになるさ。俺が言うんだから間違いねぇよ。」
「ふふっ…やけに自信満々ね。」
「そりゃそうだろ、俺の嫁になる女だ。」
彼女は隊を下り、薬物を取り扱う部署へ異動となった。戦場には出ないが、危険が付きまとう。
それは俺も彼女も同じだ。
「お互い生きて帰れる保証はねぇ。毎日を大切に、悔いが残らねぇよう生きようぜ。」
これからは、彼女と心身寄り添って生きていく。
「うん。」
俺は彼女のぬくもりを感じながら、夕焼け空を心に焼き付けた。
【心の眼差し】...end.
傾いた夕陽が全てを照らし、雲は重たく影を纏う。空は徐々に闇を含み始めていた。
「ま~た一人、黄昏(たそがれ)てんのか?」
任務を終えた俺は、仲間から離れ高台で景色を眺めている彼女に声を掛けた。
風になびく彼女の髪が夕焼けに照らされて黄金色に輝く。
「空は二度と同じ景色にはならない。この目に焼き付けてるの。」
「そうかよ。」
夕焼けなんぞ、いつ見ても大体同じだ…と水を差すようなことは言わない。
弓親の野郎に「風情をぶち壊しにするような事は言うな」と再三言われたからだ。
俺は夕焼け空よりも、彼女の姿を心に留めておきたかった。
いつか彼女と共に道を歩む、その時が来ることを心密かに願った。
***
忘れもしねぇ。
俺が彼女に寄り添って生きていくと決めたのは、あの日の出来事だ。
敵が発する光を浴びた彼女は、視力を失った。
救護詰所と技術開発局に掛け合い、治療を試みたが不可能との事だった。
「生きてるだけで幸せ。死ねば何もかも忘れてしまうのだから。」
彼女はそう言って口元を緩めた。
視力を無くしても霊圧を感知出来る為、誰が傍にいるのかは会話せずとも把握できる。
死神の業務をこなす事は可能…盲目の隊長、東仙要がそれを証明していた。
しかし視力を失ってまだ日の浅い彼女は日常生活、勤務から鍛錬まで数多くの壁に衝突した。時に人の手を借りなければならない事もあった。
「手伝うか?」
物が散らばった部屋で何かを探している彼女。
霊圧で空間把握を試している最中のようだが、手探りで何かを探しているのでつい、手を貸したくなってしまう。
「結構よ。」
目を失っても、相変わらず人の手を借りようとしない彼女。できる事なら自力で解決しようとする、努力家な所が好きだった。
「…で、何を探してるんだ?」
「……本のしおり。」
探し初めて半刻ほど経っており、流石に疲れたようで彼女は素直に呟いた。
俺は周囲を見渡し、本が並べられている棚を見てみた。
「これか?イチョウの柄の。」
「そうそう!どこにあったの?」
「本の上に置いてあったぜ。」
「そっか…ありがとう。」
俺は彼女の手を取り、しおりを手渡した。
彼女の手をよく見ると、埃を触ったようで黒くなっていた。
「手ぇ、真っ黒になってんぞ。つか、よく見たら死魄装は白くなっちまってるし。」
「ほんと?」
「あぁ、本当だ。よし…風呂行け!俺も手伝うから。」
「結構です!」
目が見えないのだから、汚れがどうかなんて分かる訳ないよな…と思いながら彼女の後ろ姿を見送る。
今後、護廷十三隊に在籍しているかどうかは本人の意志次第だ。
護廷十三隊に退職制度はない。死神業務を下りた者は衣食住にまつわる生活支援員に回される。
(一戦から退いた方が幸せなんだろうが…。)
(…なんなら、俺と籍を入れるか?)
一角は自身の空想を思い浮かべ、自嘲気味に笑った。
目が見えなくても、彼女となら生活する上ではそれ程支障はない。
(アイツはどうしたいんだろうな。)
焦る事ではない。いつか時期は来る。
一角は息を吐き、部屋に戻った。
***
夕方。
雲が夕焼けに照らされ、空は美しいグラデーションを映し出していた。
彼女は夕陽に向かって座っていた。
数年前にも同じような光景が広がっていたな…と思った。
あの時の彼女の目はまだ見えていたが…。
「綺麗ね。」
俺は思いもがけない彼女の言葉に驚かされた。この景色が見えるのか?
「見えなくても分かる。肌で感じる陽のぬくもりと、通り過ぎる風の心地よさ、草木の香り。あと…隣に一角がいるって事。」
俺は彼女の手の上に自身の手を重ねた。
彼女は俺に顔を向けるが、視線が合う事はない。しかし、彼女の眼差しは確かに俺を向いている。
「お前なら、新しい仕事もすぐこなせるようになるさ。俺が言うんだから間違いねぇよ。」
「ふふっ…やけに自信満々ね。」
「そりゃそうだろ、俺の嫁になる女だ。」
彼女は隊を下り、薬物を取り扱う部署へ異動となった。戦場には出ないが、危険が付きまとう。
それは俺も彼女も同じだ。
「お互い生きて帰れる保証はねぇ。毎日を大切に、悔いが残らねぇよう生きようぜ。」
これからは、彼女と心身寄り添って生きていく。
「うん。」
俺は彼女のぬくもりを感じながら、夕焼け空を心に焼き付けた。
【心の眼差し】...end.