月光に毒される(短編集)
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【不可避】
(崩落する……!!!)
爆発で足場が崩れた。
一角は安全な場所がないか辺りを見渡すが、立て続けに爆発が起きた為、判断が遅れた。
天井までもが崩落し、材木が上から降り注いだ。
(ちっ、どうにもならねぇか。)
窒息を免れるよう気道確保に専念する。鼻と口を裾で押さえ、受け身の体勢になった。
「……っ!!!」
砂埃に巻き込まれる直前、誰かが自身に覆い被さるのが見えた。
ガラガラガラ…ドッシャーン!!!
*
合同任務で敵陣地に踏み込んだ死神たち。瀞霊挺非公認で秘密裏に作られた武器工場があるという情報を隠密機動が掴み、踏み込んだ。
隠密機動と二番隊、人手の多い十一番隊が駆り出されている。
隠密機動の迅速な計画と二番隊、十一番隊の攻撃で敵はほぼ殲滅状態。
あとはこの工場を取り仕切っている犯人と残党を捕まえるだけだ。
主犯格は万が一の時、逃げ延びる為に工場の至る所に火薬を仕込んだようだ。至る箇所で爆発が起きている。
「必ず捕らえろ!!!」
隠密機動の総司令官、砕蜂は隊員を束ねる。隠密機動が工場の様子を見て、二番隊、十一番隊が踏み込む。
主な戦闘は十一番隊、二番隊は工作員の確保。明確に分けられた役割分担でスムーズに任務が始まった。
「どこに逃げやがった?」
主犯格の男を追っている一角は周囲を見渡した。武器が並んでいる所を見ると、ここは倉庫のようだ。気配を探るが、探知しない。
感心する量の武器の数。刀や斧、弓矢などの武器が部屋中、所狭しに並べられていた。
これほどの量の武器を作るには、相当の財力と人手が要るだろう。関わった者たち全て捕らえなければならない。
親玉を探し出すのは時間がかかりそうだと思った。
ドカーン!!!
先ほど通ってきた通路から爆発音が聞こえてきた。遠くで隊員の悲鳴が聞こえてくる。
後ろを振り返るのと同時に、一角がいるこの部屋も爆発が始まった。
「ちっ、証拠隠滅しやがるつもりだな!」
この工場自体を吹き飛ばすつもりだろうか?
あらかた工作員は捕まえたがまだ残党が残っている。逃すわけにはいかない。
しかし爆発で照明は消え、砂埃が舞い、視界が悪くなってきた。爆発音で聞こえなかったが、地面が揺れだした。
(崩落する……!!!)
材木が上から降り出した。そしてついには床も崩れ落ちていく。
足場がないか周囲を見渡すが、見つからない。
(ちっ…どうにもならねぇか…。)
*
(罠があるかもしれないのに突っ走って…。)
様子を伺いながら踏み込む隠密機動を横に、単身で敵陣へと乗り込んだ斑目一角を追うのは二番隊に所属している苗字名前。
元十一番隊で先輩にあたる彼の、身勝手な行動を見逃すことは出来なかった。
ドカーン!!!
武器庫に差し掛かった瞬間、背後で爆発音が聞こえてきた。瞬く間に爆発は名前がいる場所まで巻き込まれる。
名前は崩れてきた材木をよけながら、走った。このままだと工場自体が瓦礫の山になりそうだ。
爆発は止まらず、足場も危ぶまれてきた。
前情報では、武器庫は地下にも貯蔵してあるようだ。
一角の姿が見えた。すでに天井と共に床も崩れ落ちかけていた。瞬歩で彼の元へ走る。
急がなければ、二人とも崩落に巻き込まれ、大怪我では済まない。名前は詠唱を読み始めた。
「……縛道の三十九、円閘扇(えんこうせん)!」
(間に合え…!)
時間がない。二つ目の縛道は仕方なく詠唱破棄で発動させた。無いよりはマシだ。
「縛道の三十七、吊星(つりぼし)!!!」
天井ごと崩落し、武器部屋はほぼ崩壊した。音が鳴り止むまで、しばらくかかった。
*
「……っつ…。」
材木の下敷きになったようだ。体の上に重くのし掛かる。
仰向けに落ちた一角は衝撃で腰を負傷した。身動きが取れない。
しかし、あの衝撃でそれほど痛みが伴わない。何故だ?と一角は不思議に思いながら、手探りで周囲を確認する。
まだ目は開けない方がいい。砂埃が目に入るからだ。
(ちっ、腕が抜けねぇ…。)
材木の下敷きになり、腕が自由に使えない。左腕の袖で口を塞いだので、腕が変に曲がり苦痛だった。
右腕は瓦礫の下で動かせない。辛うじて鬼灯丸は握ったままなので一先ず安心した。
(しっかし、重てぇな…。全然動かねぇ…って、ん???)
一角は周囲の霊圧を探ると目の前に自分とは別の霊圧を感じた。
(この霊圧、名前じゃねぇか。)
一角は砂埃を警戒しながら、恐る恐る目を開けると、名前が自分に覆い被さって気を失っていた。
彼女の背中には鬼道と思われる盾が光っていた。じきに消滅するようで、光は弱々しくなっていく。
軽傷で済んだのは名前のおかげだったのか。崩落の寸前に彼女が守ってくれたのだと理解し、一角は嬉しさが胸に込み上げた。
「おい、おい!名前起きろ!」
左腕は名前の体の下に入っていたので、引き抜いて彼女の肩を揺らす。
しばらくすると名前は咳き込みながら、目を覚ました。
「無事なの…?」
「名前…ありがとよ。」
「…別に助けたわけじゃない。」
こんな時にまで恥ずかしがらなくてもいいのにと思ったが、これが彼女の可愛らしいところだ。
「腰を痛めた。俺は動けねぇ。名前は?」
「私は大丈夫。」
名前は唇を噛んだ。やはり吊星を詠唱破棄したせいで、完全には発動できなかったのだ。
名前は自責の念に駆られたが、一角は「気にすんな。骨は折れて無いみたいだから大丈夫だ。」と笑った。
「ここから脱出出来そうか?」
他にも仲間がいるので救助が来る事は間違いないが、出来る事なら早めに自力で脱出したい。
名前は腕や脚を使って瓦礫を持ち上げられないか試すが、大量の材木の下敷きでとんでもない重さだ。
「駄目。びくともしない。」
名前は抜け道がないか触ってみるが、動くたびに細かい砂塵が落ちてくる。
「こりゃ、無駄に動かない方が良さそうだな。」
一角は目を瞑った。
正直、これほど近くに彼女といられる事は滅多にない。今の状況が嬉しいとは言いにくかった。
「しかしこんな所でじっとしている訳にはいかない。」
隠密機動に所属している名前は任務遂行が必須だ。諦めず力を入れて木材を動かそうとするが、変わらない。
「お前、前より太っただろ。重たくて仕方がねぇ。」
「今の言葉…聞き捨てならない…。」
(仕方ねぇだろ…。)
勿論、彼女が重いというのは嘘だ。名前が怒っている事を察した一角は自身を落ち着かせるのに必死だった。
一角の股の間には彼女の太腿が入っているので、動く度に刺激が伝わる。
名前と身体が密着し、欲情したとは口が裂けても言えなかった。
(状況が状況だからな…今気付かれたらどん引きされるの間違いないだろ…。)
怒らせてでも彼女の動きを止める事が先だ。謝るのはまた今度でいいだろう。
流魂街にいた頃の彼女は骨が浮き出て見えるほど痩せていた。肋骨や背骨がくっきり見え、異性として見る事はなかった。
名前が死神になってからと言うもの、性的対象として見られるまでに膨よかな身体になった。
決して豊満ではないが、柔らかく白い肌が綺麗で何度も抱きたいと思った。
(ちっ、余計な事考えんじゃねぇ…!勃ってんの気付かれちまうだろ!)
一角は悶々としながら早く救助が来る事を願った。
*
(もしかしたら、気付かれたの…?)
普段なら一角の言葉など気にしない名前だったが、この状況下で暴言を吐かれるとは腑に落ちない。
確かに死神になってからと言うとものの、流魂街にいた頃に比べ決まった量の食事が毎日食べられる事もあり、体重は増えた。
最近は胸の膨らみが顕著になってきて、名前はサラシを巻いてその膨らみが目立たぬ様に隠している。
もし一角に気付かれでもしたら、馬鹿にされるに違いない。
一角に太ったと指摘された時は、胸の膨らみに気付かれたのではないかと焦った。
(早く救助を…。)
*
数刻後……。
「ゲホッ…ゲホッ…。」
砂埃が喉に入ったようで、名前は咳が止まらない。水筒は持ってきたものの、落としてしまったようだ。
なんとか唾を出して飲み込むが、咳は止まらない。
一角も黙ってその様子を見ている所を見ると、水は持っていないようである。
「なぁ…真面目な話するぞ。」
「げっほ……何?」
咳で苦しい。勿体ぶらず早く言ってほしい。
「漏れそうだ…マジで。」
「…………。」
小便…生理現象、それは仕方がない。名前は苦笑するが、一角は至って真面目な顔だ。
「生憎水は持ってねぇ、酒も置いてきた。お前は咳が止まらねぇし……分かんだろ?」
「……?!!!」
名前は一角が言わんとしている事を理解し、驚愕した。それはなるべく避けたい。
「しょ…正気!?…げっほ…。」
「だからマジな話だっつってんだろ…今の所、それしか方法はねぇ。救助だってまだ来ねぇしな。」
周囲の霊圧を探ると、幾つかの場所で戦闘が行われているようだ。一番大きな霊圧は更木剣八だろう。
場所は離れているようだが、ハッキリと感じ取れた。この様子だと救助はまだ先になりそうだ。
非常時だからこその判断。嫌だとは言えない。今は条件を飲み込むしかないのだ。
「こんな時だ、お互い恥は捨てようぜ。」
名前は頷くしかなかった。
桶になるようなものはない。直接飲むしかなかった。
非常時に水が手に入らない状況下で、尿は貴重な水分補給になる事を思い出した。
自身のモノならまだしも、他人…ましてや一角だと思うと…しかし不満を漏らしている場合ではない。
名前は心を決めて一角の腰帯を緩めた。
*
(…何も考えんじゃねぇ。無だ。)
一角は額に脂汗を浮かべながら、欲情しないよう徹した。
先程から咳を続けている名前の様子を見ていた一角はどうにか出来ないか、ずっと考えていた。咳は体力を消耗する。
長くても半日すれば救助が来ることは分かっているので、飲まず食わずでも平気だ。
しかし尿意はそこまで我慢できない。このまま捨ててしまうくらいなら、有効活用した方がいいと思った。
今の状況下で最善策はこれしかないのだ。
だが相手は他でもない、名前。意識せずにはいられなかった。
緊張しているのか、恐る恐る自身に触れる彼女の手がくすぐったい。
尿意もそろそろ我慢の限界。一角は堪らず声を出した。
「おい、さっさとしろよ。」
一角は動かせる左手で褌をずらした。萎えた自身を名前に見られるのは羞恥心でどうにかなりそうだったが、ここまで来てしまえば手早く済ませたい。
「いいか?」
先端を咥えた名前はコクリと頷いた。一角は腹の力を緩めた。
「………。」
緊張もあり、いつもより時間がかかった。
終わった頃には羞恥心からお互い顔を合わせる事が出来ず、黙っている事しか出来なかった。
名前の咳は止まり、一角も尿意から解放された。疲労感がどっと二人を襲った。
「寝るからな。」
「好きにして。」
寝入った一角を確認した名前は目を瞑った。
今頃戦闘している仲間に罪悪感を感じるが、どうすることもできない。
それよりも今は目の前の男と共にいる事が密かに嬉しかった。
以前なら有り得ない事だ。名前は無意識下で彼に心を許していた。
普段一人にならないと眠ることが出来ない名前だが、彼の肌は温かく心地よかった。
***
主犯格は瀕死状態で更木剣八に捕えられた。砕蜂が止めに入らなければ命を落としていてもおかしくなかった。
無事救助された隊員と戦闘で負傷した者は手当を受けていた。幸い、全員怪我のみで済んだようだ。
「二人共、大丈夫だった?」
弓親は砂だらけの二人に駆け寄った。
「あぁ。」
「そうだな…。」
不自然に黙り込む二人の様子に気付いた弓親は首を傾げた。
「何かあったの?」
「っ…なんもなかったぜ!ったく、ひでーめに遭ったぜ。」
「同感だ。」
ぎこちない返答に、絶対何かあったでしょと思った弓親だったが、無理に聞き出すことはしなかった。
「私は戻る。」
隊員の救助が終わり、今度は武器工場の現場検証と証拠を集める作業に移った。それぞれの隊が大まかに持ち回りを探索するようだ。
「またな、名前…。」
まだ気恥ずかしさは残っていたが、一角は名前に声を掛けた。次いつ彼女に逢えるか分からない。
「…あぁ。」
色々あったが、名前は決して不快感だけが残ったわけではなかった。少し口元を緩めて笑った。
微笑んだ彼女の笑顔を見て、一角は綺麗だと思った。名前の後ろ姿に見入っている一角の腕を、隣の弓親が肘でつついた。
「…で、二人の間に何があったか事細かに説明してくれる?」
「あぁ?おめーに話す事なんざ何にもねーよ。」
一角はさっさと十一番隊の隊員が集まる場所へ向かって歩いた。
「そんな訳ないだろ?分かるよ、僕には!怪しい匂いがプンプンするけど。」
「へいへい。」
戦闘に参加する事も出来ず散々な目に遭ったが、一角は不思議と満足感に満ち溢れていた。
帰ったら呑む酒が楽しみだ。
【不可避】...end.
(崩落する……!!!)
爆発で足場が崩れた。
一角は安全な場所がないか辺りを見渡すが、立て続けに爆発が起きた為、判断が遅れた。
天井までもが崩落し、材木が上から降り注いだ。
(ちっ、どうにもならねぇか。)
窒息を免れるよう気道確保に専念する。鼻と口を裾で押さえ、受け身の体勢になった。
「……っ!!!」
砂埃に巻き込まれる直前、誰かが自身に覆い被さるのが見えた。
ガラガラガラ…ドッシャーン!!!
*
合同任務で敵陣地に踏み込んだ死神たち。瀞霊挺非公認で秘密裏に作られた武器工場があるという情報を隠密機動が掴み、踏み込んだ。
隠密機動と二番隊、人手の多い十一番隊が駆り出されている。
隠密機動の迅速な計画と二番隊、十一番隊の攻撃で敵はほぼ殲滅状態。
あとはこの工場を取り仕切っている犯人と残党を捕まえるだけだ。
主犯格は万が一の時、逃げ延びる為に工場の至る所に火薬を仕込んだようだ。至る箇所で爆発が起きている。
「必ず捕らえろ!!!」
隠密機動の総司令官、砕蜂は隊員を束ねる。隠密機動が工場の様子を見て、二番隊、十一番隊が踏み込む。
主な戦闘は十一番隊、二番隊は工作員の確保。明確に分けられた役割分担でスムーズに任務が始まった。
「どこに逃げやがった?」
主犯格の男を追っている一角は周囲を見渡した。武器が並んでいる所を見ると、ここは倉庫のようだ。気配を探るが、探知しない。
感心する量の武器の数。刀や斧、弓矢などの武器が部屋中、所狭しに並べられていた。
これほどの量の武器を作るには、相当の財力と人手が要るだろう。関わった者たち全て捕らえなければならない。
親玉を探し出すのは時間がかかりそうだと思った。
ドカーン!!!
先ほど通ってきた通路から爆発音が聞こえてきた。遠くで隊員の悲鳴が聞こえてくる。
後ろを振り返るのと同時に、一角がいるこの部屋も爆発が始まった。
「ちっ、証拠隠滅しやがるつもりだな!」
この工場自体を吹き飛ばすつもりだろうか?
あらかた工作員は捕まえたがまだ残党が残っている。逃すわけにはいかない。
しかし爆発で照明は消え、砂埃が舞い、視界が悪くなってきた。爆発音で聞こえなかったが、地面が揺れだした。
(崩落する……!!!)
材木が上から降り出した。そしてついには床も崩れ落ちていく。
足場がないか周囲を見渡すが、見つからない。
(ちっ…どうにもならねぇか…。)
*
(罠があるかもしれないのに突っ走って…。)
様子を伺いながら踏み込む隠密機動を横に、単身で敵陣へと乗り込んだ斑目一角を追うのは二番隊に所属している苗字名前。
元十一番隊で先輩にあたる彼の、身勝手な行動を見逃すことは出来なかった。
ドカーン!!!
武器庫に差し掛かった瞬間、背後で爆発音が聞こえてきた。瞬く間に爆発は名前がいる場所まで巻き込まれる。
名前は崩れてきた材木をよけながら、走った。このままだと工場自体が瓦礫の山になりそうだ。
爆発は止まらず、足場も危ぶまれてきた。
前情報では、武器庫は地下にも貯蔵してあるようだ。
一角の姿が見えた。すでに天井と共に床も崩れ落ちかけていた。瞬歩で彼の元へ走る。
急がなければ、二人とも崩落に巻き込まれ、大怪我では済まない。名前は詠唱を読み始めた。
「……縛道の三十九、円閘扇(えんこうせん)!」
(間に合え…!)
時間がない。二つ目の縛道は仕方なく詠唱破棄で発動させた。無いよりはマシだ。
「縛道の三十七、吊星(つりぼし)!!!」
天井ごと崩落し、武器部屋はほぼ崩壊した。音が鳴り止むまで、しばらくかかった。
*
「……っつ…。」
材木の下敷きになったようだ。体の上に重くのし掛かる。
仰向けに落ちた一角は衝撃で腰を負傷した。身動きが取れない。
しかし、あの衝撃でそれほど痛みが伴わない。何故だ?と一角は不思議に思いながら、手探りで周囲を確認する。
まだ目は開けない方がいい。砂埃が目に入るからだ。
(ちっ、腕が抜けねぇ…。)
材木の下敷きになり、腕が自由に使えない。左腕の袖で口を塞いだので、腕が変に曲がり苦痛だった。
右腕は瓦礫の下で動かせない。辛うじて鬼灯丸は握ったままなので一先ず安心した。
(しっかし、重てぇな…。全然動かねぇ…って、ん???)
一角は周囲の霊圧を探ると目の前に自分とは別の霊圧を感じた。
(この霊圧、名前じゃねぇか。)
一角は砂埃を警戒しながら、恐る恐る目を開けると、名前が自分に覆い被さって気を失っていた。
彼女の背中には鬼道と思われる盾が光っていた。じきに消滅するようで、光は弱々しくなっていく。
軽傷で済んだのは名前のおかげだったのか。崩落の寸前に彼女が守ってくれたのだと理解し、一角は嬉しさが胸に込み上げた。
「おい、おい!名前起きろ!」
左腕は名前の体の下に入っていたので、引き抜いて彼女の肩を揺らす。
しばらくすると名前は咳き込みながら、目を覚ました。
「無事なの…?」
「名前…ありがとよ。」
「…別に助けたわけじゃない。」
こんな時にまで恥ずかしがらなくてもいいのにと思ったが、これが彼女の可愛らしいところだ。
「腰を痛めた。俺は動けねぇ。名前は?」
「私は大丈夫。」
名前は唇を噛んだ。やはり吊星を詠唱破棄したせいで、完全には発動できなかったのだ。
名前は自責の念に駆られたが、一角は「気にすんな。骨は折れて無いみたいだから大丈夫だ。」と笑った。
「ここから脱出出来そうか?」
他にも仲間がいるので救助が来る事は間違いないが、出来る事なら早めに自力で脱出したい。
名前は腕や脚を使って瓦礫を持ち上げられないか試すが、大量の材木の下敷きでとんでもない重さだ。
「駄目。びくともしない。」
名前は抜け道がないか触ってみるが、動くたびに細かい砂塵が落ちてくる。
「こりゃ、無駄に動かない方が良さそうだな。」
一角は目を瞑った。
正直、これほど近くに彼女といられる事は滅多にない。今の状況が嬉しいとは言いにくかった。
「しかしこんな所でじっとしている訳にはいかない。」
隠密機動に所属している名前は任務遂行が必須だ。諦めず力を入れて木材を動かそうとするが、変わらない。
「お前、前より太っただろ。重たくて仕方がねぇ。」
「今の言葉…聞き捨てならない…。」
(仕方ねぇだろ…。)
勿論、彼女が重いというのは嘘だ。名前が怒っている事を察した一角は自身を落ち着かせるのに必死だった。
一角の股の間には彼女の太腿が入っているので、動く度に刺激が伝わる。
名前と身体が密着し、欲情したとは口が裂けても言えなかった。
(状況が状況だからな…今気付かれたらどん引きされるの間違いないだろ…。)
怒らせてでも彼女の動きを止める事が先だ。謝るのはまた今度でいいだろう。
流魂街にいた頃の彼女は骨が浮き出て見えるほど痩せていた。肋骨や背骨がくっきり見え、異性として見る事はなかった。
名前が死神になってからと言うもの、性的対象として見られるまでに膨よかな身体になった。
決して豊満ではないが、柔らかく白い肌が綺麗で何度も抱きたいと思った。
(ちっ、余計な事考えんじゃねぇ…!勃ってんの気付かれちまうだろ!)
一角は悶々としながら早く救助が来る事を願った。
*
(もしかしたら、気付かれたの…?)
普段なら一角の言葉など気にしない名前だったが、この状況下で暴言を吐かれるとは腑に落ちない。
確かに死神になってからと言うとものの、流魂街にいた頃に比べ決まった量の食事が毎日食べられる事もあり、体重は増えた。
最近は胸の膨らみが顕著になってきて、名前はサラシを巻いてその膨らみが目立たぬ様に隠している。
もし一角に気付かれでもしたら、馬鹿にされるに違いない。
一角に太ったと指摘された時は、胸の膨らみに気付かれたのではないかと焦った。
(早く救助を…。)
*
数刻後……。
「ゲホッ…ゲホッ…。」
砂埃が喉に入ったようで、名前は咳が止まらない。水筒は持ってきたものの、落としてしまったようだ。
なんとか唾を出して飲み込むが、咳は止まらない。
一角も黙ってその様子を見ている所を見ると、水は持っていないようである。
「なぁ…真面目な話するぞ。」
「げっほ……何?」
咳で苦しい。勿体ぶらず早く言ってほしい。
「漏れそうだ…マジで。」
「…………。」
小便…生理現象、それは仕方がない。名前は苦笑するが、一角は至って真面目な顔だ。
「生憎水は持ってねぇ、酒も置いてきた。お前は咳が止まらねぇし……分かんだろ?」
「……?!!!」
名前は一角が言わんとしている事を理解し、驚愕した。それはなるべく避けたい。
「しょ…正気!?…げっほ…。」
「だからマジな話だっつってんだろ…今の所、それしか方法はねぇ。救助だってまだ来ねぇしな。」
周囲の霊圧を探ると、幾つかの場所で戦闘が行われているようだ。一番大きな霊圧は更木剣八だろう。
場所は離れているようだが、ハッキリと感じ取れた。この様子だと救助はまだ先になりそうだ。
非常時だからこその判断。嫌だとは言えない。今は条件を飲み込むしかないのだ。
「こんな時だ、お互い恥は捨てようぜ。」
名前は頷くしかなかった。
桶になるようなものはない。直接飲むしかなかった。
非常時に水が手に入らない状況下で、尿は貴重な水分補給になる事を思い出した。
自身のモノならまだしも、他人…ましてや一角だと思うと…しかし不満を漏らしている場合ではない。
名前は心を決めて一角の腰帯を緩めた。
*
(…何も考えんじゃねぇ。無だ。)
一角は額に脂汗を浮かべながら、欲情しないよう徹した。
先程から咳を続けている名前の様子を見ていた一角はどうにか出来ないか、ずっと考えていた。咳は体力を消耗する。
長くても半日すれば救助が来ることは分かっているので、飲まず食わずでも平気だ。
しかし尿意はそこまで我慢できない。このまま捨ててしまうくらいなら、有効活用した方がいいと思った。
今の状況下で最善策はこれしかないのだ。
だが相手は他でもない、名前。意識せずにはいられなかった。
緊張しているのか、恐る恐る自身に触れる彼女の手がくすぐったい。
尿意もそろそろ我慢の限界。一角は堪らず声を出した。
「おい、さっさとしろよ。」
一角は動かせる左手で褌をずらした。萎えた自身を名前に見られるのは羞恥心でどうにかなりそうだったが、ここまで来てしまえば手早く済ませたい。
「いいか?」
先端を咥えた名前はコクリと頷いた。一角は腹の力を緩めた。
「………。」
緊張もあり、いつもより時間がかかった。
終わった頃には羞恥心からお互い顔を合わせる事が出来ず、黙っている事しか出来なかった。
名前の咳は止まり、一角も尿意から解放された。疲労感がどっと二人を襲った。
「寝るからな。」
「好きにして。」
寝入った一角を確認した名前は目を瞑った。
今頃戦闘している仲間に罪悪感を感じるが、どうすることもできない。
それよりも今は目の前の男と共にいる事が密かに嬉しかった。
以前なら有り得ない事だ。名前は無意識下で彼に心を許していた。
普段一人にならないと眠ることが出来ない名前だが、彼の肌は温かく心地よかった。
***
主犯格は瀕死状態で更木剣八に捕えられた。砕蜂が止めに入らなければ命を落としていてもおかしくなかった。
無事救助された隊員と戦闘で負傷した者は手当を受けていた。幸い、全員怪我のみで済んだようだ。
「二人共、大丈夫だった?」
弓親は砂だらけの二人に駆け寄った。
「あぁ。」
「そうだな…。」
不自然に黙り込む二人の様子に気付いた弓親は首を傾げた。
「何かあったの?」
「っ…なんもなかったぜ!ったく、ひでーめに遭ったぜ。」
「同感だ。」
ぎこちない返答に、絶対何かあったでしょと思った弓親だったが、無理に聞き出すことはしなかった。
「私は戻る。」
隊員の救助が終わり、今度は武器工場の現場検証と証拠を集める作業に移った。それぞれの隊が大まかに持ち回りを探索するようだ。
「またな、名前…。」
まだ気恥ずかしさは残っていたが、一角は名前に声を掛けた。次いつ彼女に逢えるか分からない。
「…あぁ。」
色々あったが、名前は決して不快感だけが残ったわけではなかった。少し口元を緩めて笑った。
微笑んだ彼女の笑顔を見て、一角は綺麗だと思った。名前の後ろ姿に見入っている一角の腕を、隣の弓親が肘でつついた。
「…で、二人の間に何があったか事細かに説明してくれる?」
「あぁ?おめーに話す事なんざ何にもねーよ。」
一角はさっさと十一番隊の隊員が集まる場所へ向かって歩いた。
「そんな訳ないだろ?分かるよ、僕には!怪しい匂いがプンプンするけど。」
「へいへい。」
戦闘に参加する事も出来ず散々な目に遭ったが、一角は不思議と満足感に満ち溢れていた。
帰ったら呑む酒が楽しみだ。
【不可避】...end.