月光に毒される(短編集)
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
【早朝の散歩】
部屋の天井が見える。
一角は大きな欠伸と共に体を伸ばす。
蚊帳の外の開いた雨戸を見るとまだ辺りは薄暗く、時間は寅三つ刻(午前四時)頃だろうか?
二刻後には他の隊員も起きて早朝の鍛錬が始まる。
それまで二度寝することも出来たが、目覚めが良く再び眠れそうにない。
一角は起床する事にした。
…と言っても他の隊員はまだ寝ているため、こんな時間から鍛錬するわけにもいかず、
どうしたもんかと考えながら死覇装を着た。とりあえず厠で用を済ませよう。
*
腰紐を結んだ一角は食堂で水を飲んだ。
まだ蝉も鳴いていない時間なので、とても静かだ。
(このまま室内にいても何も出来ねぇし、散歩でもするか。)
一角は草履を履き、外を歩くことにした。
東の空が白んできている。もう少し経つと日の出だ。
太陽が出てくると暑くなってくるだろう。
(そういや、この時間なら名前が巡回してたな。)
一角は二番隊に異動した名前の事を思い浮かべた。
彼女は隠密機動第二部隊に所属しており、仕事は警ら。瀞霊廷や流魂街、現世などを巡回して警備、警護するのが主な仕事だ。
警ら隊は特に夜勤を担当する事が多く、必然的に昼間働く護廷十三隊の隊員と接する機会は少なくなる。
一角は城郭の屋根に上り、瀞霊廷を見渡した。彼女を見つけるには上から捜した方が早そうだ。
「さて、ちょっくら走るか。」
*
太陽がなくなり、夜は生暖かい風から徐々に涼しい風に変わってくる。
虫と蛙の鳴き声を聞きながら、名前は瀞霊廷の巡回に回る。
太陽の日は当たらないが、地面からの熱と高い気温で汗が噴き出る。
時々水分補給しながら名前は仕事に取り組んだ。
今宵も平穏な夜だ。
事件や怪しい者などは見かけなかった。
何もない時ほど時間の流れは遅い。
名前はいつもの周回コースを歩きながら、昆虫の鳴き声や風で揺れる草木の音に耳を傾けていた。
もうすぐ卯の刻に差し掛かろうとした頃、見慣れた男の姿を見かけた。
(早起きだな…。)
名前はその男が斑目一角だと認識し、声を掛けるか掛けまいか考えた。
一角は何かを捜しているようだった。
まさか「自分じゃなかろうか?」と思った名前だったが、それは見事的中する事になる。
一角は名前の気配に気付くと案の定、名前を呼び止めた。
「お、見つけたぜ。」
「…こんな朝早くから何してるの?」
起床するには早すぎる時間だ。
走ったからなのか、頭に汗をかいて輝いている。
「目が覚めちまってよ、時間もはえーし散歩してんのさ。」
「ふーん…。」
「警ら隊のお前なら、なんか面白い場所とか知ってんじゃねーの?」
「面白い場所?」
「俺はいつもの場所しか行かねーから、名前が知ってる面白い場所、案内してくれよな。」
「仕事中なんだけど…。」
「そこも見回りっつぅ事でいいだろ?」
一角はニカリと歯を見せて笑うと、名前は東の方向を見てしばらく考えた。
「ついて来て。」
ダメ元で言ってみるもんだなと思いながら、一角は名前の後ろを追う。
時折吹く涼しい風がよぎり、心地よいと感じた。
誰もいない瀞霊廷を二人で歩くのは、なんだか特別な気がした。
「すげーとこ入ってくな。」
そこは双極の丘の途中。本来の道から逸れて、東側に出た所。
崖みたいになっているが、名前は慣れているのか、器用に降りていく。
「こんな所に一体何があるんだ?」
「さあね。」
草を掻き分けて進むと、時折休んでいた昆虫が飛び立つ。名前は一切気にせず進んでいく。
「着いた。」
二人が来たのは先ほどよりも見晴らしのいい場所。日の出を遮る建物も木もない。
「日の出にしちゃ、まだ早ぇんじゃねえの?」
一角が指摘する通り、日の出にはまだ半刻は掛かるだろう。
しかし名前は上を指さした。
指示された通り上を向くと、大小様々な形の雲が朝焼けに照らされ、色鮮やかに光っている。
「すっげ…。」
雲は空高く浮かぶ。夕焼けのように光が反射する側が紅く染まり、とても綺麗だった。
「朝と夕方、夏の空はとても綺麗なの。毎日見てても飽きない。」
「ほぉ…確かに…。」
弓親がいたらきっと目を輝かせて喜んでいただろうな、と思った。
(そう言えば、名前は昔から景色や空を見るのが好きだったな…。)
彼女の好きなものと言えば果物、魚、山や川などの自然。
それを食べたり、触れたりしているだけで名前は機嫌が良かった。
ふと隣を見ると名前は地面に横になって空を見上げていた。
俺もその隣で彼女に倣う。
「夏の早朝に、こんな綺麗な空が拝めるとはな。知らなかったぜ。」
一角の言葉を聞いた名前は口元を引き上げた。
時折吹く風が草木を揺らす。
そよそよと心地の良い音に太陽の光で白くなる空と、追いやられる夜空のコントラストが二人を楽しませた。
しばらくして完全に太陽が顔を出した時、二人は立ち上がった。
「また一日が始まるぜ。」
「そうね。」
一角は鍛錬、仕事。名前は食事を摂って就寝。
真逆の生活。
二人が逢える時間は多くないが、それでも十分満足だった。
「これで良かったの?」
名前は自身が楽しめる場所に一角を案内しただけだったが、彼が始めに言っていた「面白い場所」とはこれで良かったのだろうか?
「あぁ、面白かったぜ。」
「そう。」
ニカリと笑う一角の表情を見て名前はフッと息を吐いた。
「またな。」
「ん。」
十一番隊隊舎まで一角を送った名前は軽く挨拶をするとすぐに去って行った。
名前が消えた空をしばらく見て、隊舎に入ると弓親が一角を迎え入れた。
「朝からデート?」
「…まぁ、そんな所だ。」
満足げな一角に弓親もニコリと微笑を浮かべた。
「さー鍛錬始めるぞ~。」
両腕を上げて背筋を伸ばす一角の後ろ姿は、やる気に満ち溢れていた。
【早朝の散歩】...end.
部屋の天井が見える。
一角は大きな欠伸と共に体を伸ばす。
蚊帳の外の開いた雨戸を見るとまだ辺りは薄暗く、時間は寅三つ刻(午前四時)頃だろうか?
二刻後には他の隊員も起きて早朝の鍛錬が始まる。
それまで二度寝することも出来たが、目覚めが良く再び眠れそうにない。
一角は起床する事にした。
…と言っても他の隊員はまだ寝ているため、こんな時間から鍛錬するわけにもいかず、
どうしたもんかと考えながら死覇装を着た。とりあえず厠で用を済ませよう。
*
腰紐を結んだ一角は食堂で水を飲んだ。
まだ蝉も鳴いていない時間なので、とても静かだ。
(このまま室内にいても何も出来ねぇし、散歩でもするか。)
一角は草履を履き、外を歩くことにした。
東の空が白んできている。もう少し経つと日の出だ。
太陽が出てくると暑くなってくるだろう。
(そういや、この時間なら名前が巡回してたな。)
一角は二番隊に異動した名前の事を思い浮かべた。
彼女は隠密機動第二部隊に所属しており、仕事は警ら。瀞霊廷や流魂街、現世などを巡回して警備、警護するのが主な仕事だ。
警ら隊は特に夜勤を担当する事が多く、必然的に昼間働く護廷十三隊の隊員と接する機会は少なくなる。
一角は城郭の屋根に上り、瀞霊廷を見渡した。彼女を見つけるには上から捜した方が早そうだ。
「さて、ちょっくら走るか。」
*
太陽がなくなり、夜は生暖かい風から徐々に涼しい風に変わってくる。
虫と蛙の鳴き声を聞きながら、名前は瀞霊廷の巡回に回る。
太陽の日は当たらないが、地面からの熱と高い気温で汗が噴き出る。
時々水分補給しながら名前は仕事に取り組んだ。
今宵も平穏な夜だ。
事件や怪しい者などは見かけなかった。
何もない時ほど時間の流れは遅い。
名前はいつもの周回コースを歩きながら、昆虫の鳴き声や風で揺れる草木の音に耳を傾けていた。
もうすぐ卯の刻に差し掛かろうとした頃、見慣れた男の姿を見かけた。
(早起きだな…。)
名前はその男が斑目一角だと認識し、声を掛けるか掛けまいか考えた。
一角は何かを捜しているようだった。
まさか「自分じゃなかろうか?」と思った名前だったが、それは見事的中する事になる。
一角は名前の気配に気付くと案の定、名前を呼び止めた。
「お、見つけたぜ。」
「…こんな朝早くから何してるの?」
起床するには早すぎる時間だ。
走ったからなのか、頭に汗をかいて輝いている。
「目が覚めちまってよ、時間もはえーし散歩してんのさ。」
「ふーん…。」
「警ら隊のお前なら、なんか面白い場所とか知ってんじゃねーの?」
「面白い場所?」
「俺はいつもの場所しか行かねーから、名前が知ってる面白い場所、案内してくれよな。」
「仕事中なんだけど…。」
「そこも見回りっつぅ事でいいだろ?」
一角はニカリと歯を見せて笑うと、名前は東の方向を見てしばらく考えた。
「ついて来て。」
ダメ元で言ってみるもんだなと思いながら、一角は名前の後ろを追う。
時折吹く涼しい風がよぎり、心地よいと感じた。
誰もいない瀞霊廷を二人で歩くのは、なんだか特別な気がした。
「すげーとこ入ってくな。」
そこは双極の丘の途中。本来の道から逸れて、東側に出た所。
崖みたいになっているが、名前は慣れているのか、器用に降りていく。
「こんな所に一体何があるんだ?」
「さあね。」
草を掻き分けて進むと、時折休んでいた昆虫が飛び立つ。名前は一切気にせず進んでいく。
「着いた。」
二人が来たのは先ほどよりも見晴らしのいい場所。日の出を遮る建物も木もない。
「日の出にしちゃ、まだ早ぇんじゃねえの?」
一角が指摘する通り、日の出にはまだ半刻は掛かるだろう。
しかし名前は上を指さした。
指示された通り上を向くと、大小様々な形の雲が朝焼けに照らされ、色鮮やかに光っている。
「すっげ…。」
雲は空高く浮かぶ。夕焼けのように光が反射する側が紅く染まり、とても綺麗だった。
「朝と夕方、夏の空はとても綺麗なの。毎日見てても飽きない。」
「ほぉ…確かに…。」
弓親がいたらきっと目を輝かせて喜んでいただろうな、と思った。
(そう言えば、名前は昔から景色や空を見るのが好きだったな…。)
彼女の好きなものと言えば果物、魚、山や川などの自然。
それを食べたり、触れたりしているだけで名前は機嫌が良かった。
ふと隣を見ると名前は地面に横になって空を見上げていた。
俺もその隣で彼女に倣う。
「夏の早朝に、こんな綺麗な空が拝めるとはな。知らなかったぜ。」
一角の言葉を聞いた名前は口元を引き上げた。
時折吹く風が草木を揺らす。
そよそよと心地の良い音に太陽の光で白くなる空と、追いやられる夜空のコントラストが二人を楽しませた。
しばらくして完全に太陽が顔を出した時、二人は立ち上がった。
「また一日が始まるぜ。」
「そうね。」
一角は鍛錬、仕事。名前は食事を摂って就寝。
真逆の生活。
二人が逢える時間は多くないが、それでも十分満足だった。
「これで良かったの?」
名前は自身が楽しめる場所に一角を案内しただけだったが、彼が始めに言っていた「面白い場所」とはこれで良かったのだろうか?
「あぁ、面白かったぜ。」
「そう。」
ニカリと笑う一角の表情を見て名前はフッと息を吐いた。
「またな。」
「ん。」
十一番隊隊舎まで一角を送った名前は軽く挨拶をするとすぐに去って行った。
名前が消えた空をしばらく見て、隊舎に入ると弓親が一角を迎え入れた。
「朝からデート?」
「…まぁ、そんな所だ。」
満足げな一角に弓親もニコリと微笑を浮かべた。
「さー鍛錬始めるぞ~。」
両腕を上げて背筋を伸ばす一角の後ろ姿は、やる気に満ち溢れていた。
【早朝の散歩】...end.