月光に毒される(短編集)
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【露天風呂】
ここは有名な湯治宿。傷や病の療養の為に多くの人が訪れる、にごり湯温泉だ。
宿泊施設と共に日帰り温泉も営業している。
仕事を終えた名前は一人、疲労を癒す為に温泉を訪れていた。
(温泉は一人で入るに限る…。)
同性の知人と温泉に訪れても無意識に気を遣ってしまい、ゆっくり出来ない気がした。
名前は大浴場には入らず、追加料金を支払って個室の露天風呂を使用していた。
ここなら周りを気にせず、のんびり疲れを癒すことが出来る。
体に付いた汗や汚れを流し、白濁した湯に体を浸した。
先程まで寒さに震えていたが、湯に入った途端にぬくもりに包み込まれる。
長湯が苦手な名前だったが、露天風呂なので水分補給をしつつ長湯をしてみようと思った。
手足の先まで血行が良くなってきた所で、名前は湯から上がり全身を洗った。
備え付けの石鹸で頭から足先までくまなく洗浄していく。
白い湯気が立ち上り、熱くなっている体にひんやりとした風が当たる。
それを心地よく感じながら、名前は肩から湯をかけ流した。
その時、着替え室から物音が聞こえてきた。
バタンッ…ペタペタペタ、ザッバーン!!!
突然の事に名前は驚きを隠せずにいた。
何者かが突然名前が入っている露天風呂に飛び込んだ。
個室露天風呂は五つあり、使う際は『使用中』の札を掛ける。名前は間違いなく札を掛けてきた筈だ。
名前は手元にあった手拭いで体を隠した。
「っぷは~~~っ!やっぱ気持ちいいな~!!!」
この声…嫌な予感しかしなかった。
名前は温泉に浸かる男の姿を見て息を飲んだ。
「…あ?」
風呂に浸かる男は固まっている名前の姿を見て、目を見開いた。
「って…名前!!?温泉入ってたのかよ!!?」
わなわなと震える名前は木桶を一角に投げつけた。
かぽーんといい音が鳴り、湯船の中に倒れる一角。
「いってぇな!!!」
ざばぁっと湯船から立ち上がった一角を見て名前は慌てて顔を背けた。
「馬鹿っ!!!変な物見せないでよ!!!」
「あ?」
一角は自身の股間を見て、慌てて湯船に浸かった。
今までのやり取りから、一角は素で間違えて温泉に入ってきたようだ。
しばらく考えていた一角だったが、やがてニマリと口元を引き上げた。
「最っ低!早く出てって!!」
名前は抗議するが、一角は持ち込んだ瓢箪
から酒を煽った。
「まぁ、いいだろ……お前も入って来いよ。」
「ふざけないで。私はゆっくり浸かりたいの!」
家族や恋仲ならまだしも、男女が裸で同じ風呂に入るなんてあり得ない。
この男は一体何を考えているのだろうか?
「もういい!」
一角が出て行かないなら、自分が移動すればいいのだ。彼だってお金を払っているのだから、隣の個室露天風呂を使ってもいい筈だ。
名前は自分が使った洗い場を片付けるが、腰に手拭いを巻いて傍に来た一角に驚き、その手を止めた。
「なっ…!?」
「名前、俺の背中流してくれよ。」
「はぁっ!?何言って…。」
「頼む、この通りだ。」
一角は正座して名前に頭を下げた。
言い出したら聞かない彼の事だ。名前が頷くまで一角は引き下がることはないだろう。
「ちょっとやめて…てっくしゅん!」
名前がくしゃみをしたと同時に一角はニヤリと口元を引き上げた。
「風邪ひく前に湯船に浸からねぇとな?」
「ちょっ…いいからっ!!」
一角は名前の体を軽々と持ち上げ、湯船に向かった。
手拭いがずれて肌が彼の目に入らぬよう気を取られていると、名前はあっという間に一角と温泉に浸かることになってしまった。
「これも何かの縁だ、一緒に入ってればいいんだよ。」
「最悪…。」
この時ばかりは露天風呂がにごり湯で良かったとつくづく思った。
名前は顎が水面に付くまで深く湯船に浸かった。この状況を素直に受け止められない。
「俺は最高な気分だぜ!」
一角はニカリと笑い、酒が入った瓢箪を名前に差し出す。
「酔ってるから札を見逃したんじゃないの?…って言うか、飲酒しながら温泉浸かるの禁止じゃなかった?」
「細けぇ事はいいんだよ。ほら、名前も呑めよ。」
名前は首を振った。
「飲酒したら、のぼせちゃうから要らない。」
「ほぅ…俺と長湯したいってか?」
「ちがっ…もういいっ!!」
どうしたらこうも都合のいい方に解釈できるのだろうか?
既に酔っぱらっている男に話など通じないと悟った名前は、一角に背を向けて脚を伸ばした。
(もう…せっかくの温泉が…。)
一人で漫喫する筈だった時間もこの男のせいでぶち壊しだ。
後で入り直そうかと思ったが、正直面倒くさい。後で甘味でも奢ってもらおう、と考えていると一角が湯船から上がった。
「なー名前…背中流してくれよ。」
先程の頼みはまだ諦めていなかったようだ。
一角は体から白い湯気を立たせながら、名前の返答を待っている。
「仕方ない……。」
名前は息を吐き、手拭いをしっかり体に巻き付けた。さっさと終わらせるために彼の背中を流す事にした。
「恥ずかしげもなく、異性によくこんな事頼めるわね。」
「はっ、お前だから頼んでんだよ。」
「……。」
彼の言った言葉の意味を深く考えたくなかった。
それはまるで親しい仲であるような言葉だ。
名前は認めたくなかった。
彼の背中は鍛え上げられ、筋肉が隆々としている。後ろからでも鍛錬の賜物である事が窺える。女である名前が手に入れる事の出来ない肉体だ。
毎日のように見ていた体だが、こうして間近に触れる機会などないので、名前は多少恥じらいを感じた。
「背中だけでいいぜ。」
「当たり前でしょ。」
名前は石鹸を泡立てた手拭いを一角の背中に滑らせた。力加減がいまいち分からないが、強めにしておこうと名前は腕に力を込めた。
「お、気持ちいいぜ。」
「外出たら何か奢ってよね!」
「いいぜ、なんでも奢ってやるからよ。」
一角は満更でもなさそうに笑った。
名前に背中を流してもらえるのが相当嬉しいようだ。
名前は木桶のお湯を彼の肩から掛け流した。
「もう満足したでしょ。」
「あぁ、ありがとな。」
一角は他の部位を洗い始めた。名前は再び温泉に浸かり、空を見上げた。
雲がまばらに浮かんでいるものの、星の光は爛々と輝いている。
いつもだったら頭の中を空っぽにして空をずっと眺めているのだが、一角の事が気になって落ち着いて温泉に浸かっていられない。
そろそろ体に熱が昇ってきそうだ。
一角が湯船に浸かったタイミングで名前は口を開いた。
「私は先に出るから。」
「おう、サンキューな。」
そう言って一角は再び酒を呑んだ。
のぼせて奢りをチャラにされたらたまらない。すかさず名前は一角に声を掛けた。
「のぼせないでよ。」
「心配すんなって。」
「待ってるから。」
「おう。」
湯船から出て行く名前の姿を横目で見ながら、一角は息を吐いた。
両手足を伸ばしながら、鼻歌を歌う。
一角は気分が高揚していた。
酔っぱらっているからというのもあったが、なにより、彼女と共に露天風呂に入れた事が嬉しかった。
「今日はツイてるな。」
一角は酒を呑みながら星を見上げ、ニカリと笑った。
【露天風呂】…end.
ここは有名な湯治宿。傷や病の療養の為に多くの人が訪れる、にごり湯温泉だ。
宿泊施設と共に日帰り温泉も営業している。
仕事を終えた名前は一人、疲労を癒す為に温泉を訪れていた。
(温泉は一人で入るに限る…。)
同性の知人と温泉に訪れても無意識に気を遣ってしまい、ゆっくり出来ない気がした。
名前は大浴場には入らず、追加料金を支払って個室の露天風呂を使用していた。
ここなら周りを気にせず、のんびり疲れを癒すことが出来る。
体に付いた汗や汚れを流し、白濁した湯に体を浸した。
先程まで寒さに震えていたが、湯に入った途端にぬくもりに包み込まれる。
長湯が苦手な名前だったが、露天風呂なので水分補給をしつつ長湯をしてみようと思った。
手足の先まで血行が良くなってきた所で、名前は湯から上がり全身を洗った。
備え付けの石鹸で頭から足先までくまなく洗浄していく。
白い湯気が立ち上り、熱くなっている体にひんやりとした風が当たる。
それを心地よく感じながら、名前は肩から湯をかけ流した。
その時、着替え室から物音が聞こえてきた。
バタンッ…ペタペタペタ、ザッバーン!!!
突然の事に名前は驚きを隠せずにいた。
何者かが突然名前が入っている露天風呂に飛び込んだ。
個室露天風呂は五つあり、使う際は『使用中』の札を掛ける。名前は間違いなく札を掛けてきた筈だ。
名前は手元にあった手拭いで体を隠した。
「っぷは~~~っ!やっぱ気持ちいいな~!!!」
この声…嫌な予感しかしなかった。
名前は温泉に浸かる男の姿を見て息を飲んだ。
「…あ?」
風呂に浸かる男は固まっている名前の姿を見て、目を見開いた。
「って…名前!!?温泉入ってたのかよ!!?」
わなわなと震える名前は木桶を一角に投げつけた。
かぽーんといい音が鳴り、湯船の中に倒れる一角。
「いってぇな!!!」
ざばぁっと湯船から立ち上がった一角を見て名前は慌てて顔を背けた。
「馬鹿っ!!!変な物見せないでよ!!!」
「あ?」
一角は自身の股間を見て、慌てて湯船に浸かった。
今までのやり取りから、一角は素で間違えて温泉に入ってきたようだ。
しばらく考えていた一角だったが、やがてニマリと口元を引き上げた。
「最っ低!早く出てって!!」
名前は抗議するが、一角は持ち込んだ
から酒を煽った。
「まぁ、いいだろ……お前も入って来いよ。」
「ふざけないで。私はゆっくり浸かりたいの!」
家族や恋仲ならまだしも、男女が裸で同じ風呂に入るなんてあり得ない。
この男は一体何を考えているのだろうか?
「もういい!」
一角が出て行かないなら、自分が移動すればいいのだ。彼だってお金を払っているのだから、隣の個室露天風呂を使ってもいい筈だ。
名前は自分が使った洗い場を片付けるが、腰に手拭いを巻いて傍に来た一角に驚き、その手を止めた。
「なっ…!?」
「名前、俺の背中流してくれよ。」
「はぁっ!?何言って…。」
「頼む、この通りだ。」
一角は正座して名前に頭を下げた。
言い出したら聞かない彼の事だ。名前が頷くまで一角は引き下がることはないだろう。
「ちょっとやめて…てっくしゅん!」
名前がくしゃみをしたと同時に一角はニヤリと口元を引き上げた。
「風邪ひく前に湯船に浸からねぇとな?」
「ちょっ…いいからっ!!」
一角は名前の体を軽々と持ち上げ、湯船に向かった。
手拭いがずれて肌が彼の目に入らぬよう気を取られていると、名前はあっという間に一角と温泉に浸かることになってしまった。
「これも何かの縁だ、一緒に入ってればいいんだよ。」
「最悪…。」
この時ばかりは露天風呂がにごり湯で良かったとつくづく思った。
名前は顎が水面に付くまで深く湯船に浸かった。この状況を素直に受け止められない。
「俺は最高な気分だぜ!」
一角はニカリと笑い、酒が入った瓢箪を名前に差し出す。
「酔ってるから札を見逃したんじゃないの?…って言うか、飲酒しながら温泉浸かるの禁止じゃなかった?」
「細けぇ事はいいんだよ。ほら、名前も呑めよ。」
名前は首を振った。
「飲酒したら、のぼせちゃうから要らない。」
「ほぅ…俺と長湯したいってか?」
「ちがっ…もういいっ!!」
どうしたらこうも都合のいい方に解釈できるのだろうか?
既に酔っぱらっている男に話など通じないと悟った名前は、一角に背を向けて脚を伸ばした。
(もう…せっかくの温泉が…。)
一人で漫喫する筈だった時間もこの男のせいでぶち壊しだ。
後で入り直そうかと思ったが、正直面倒くさい。後で甘味でも奢ってもらおう、と考えていると一角が湯船から上がった。
「なー名前…背中流してくれよ。」
先程の頼みはまだ諦めていなかったようだ。
一角は体から白い湯気を立たせながら、名前の返答を待っている。
「仕方ない……。」
名前は息を吐き、手拭いをしっかり体に巻き付けた。さっさと終わらせるために彼の背中を流す事にした。
「恥ずかしげもなく、異性によくこんな事頼めるわね。」
「はっ、お前だから頼んでんだよ。」
「……。」
彼の言った言葉の意味を深く考えたくなかった。
それはまるで親しい仲であるような言葉だ。
名前は認めたくなかった。
彼の背中は鍛え上げられ、筋肉が隆々としている。後ろからでも鍛錬の賜物である事が窺える。女である名前が手に入れる事の出来ない肉体だ。
毎日のように見ていた体だが、こうして間近に触れる機会などないので、名前は多少恥じらいを感じた。
「背中だけでいいぜ。」
「当たり前でしょ。」
名前は石鹸を泡立てた手拭いを一角の背中に滑らせた。力加減がいまいち分からないが、強めにしておこうと名前は腕に力を込めた。
「お、気持ちいいぜ。」
「外出たら何か奢ってよね!」
「いいぜ、なんでも奢ってやるからよ。」
一角は満更でもなさそうに笑った。
名前に背中を流してもらえるのが相当嬉しいようだ。
名前は木桶のお湯を彼の肩から掛け流した。
「もう満足したでしょ。」
「あぁ、ありがとな。」
一角は他の部位を洗い始めた。名前は再び温泉に浸かり、空を見上げた。
雲がまばらに浮かんでいるものの、星の光は爛々と輝いている。
いつもだったら頭の中を空っぽにして空をずっと眺めているのだが、一角の事が気になって落ち着いて温泉に浸かっていられない。
そろそろ体に熱が昇ってきそうだ。
一角が湯船に浸かったタイミングで名前は口を開いた。
「私は先に出るから。」
「おう、サンキューな。」
そう言って一角は再び酒を呑んだ。
のぼせて奢りをチャラにされたらたまらない。すかさず名前は一角に声を掛けた。
「のぼせないでよ。」
「心配すんなって。」
「待ってるから。」
「おう。」
湯船から出て行く名前の姿を横目で見ながら、一角は息を吐いた。
両手足を伸ばしながら、鼻歌を歌う。
一角は気分が高揚していた。
酔っぱらっているからというのもあったが、なにより、彼女と共に露天風呂に入れた事が嬉しかった。
「今日はツイてるな。」
一角は酒を呑みながら星を見上げ、ニカリと笑った。
【露天風呂】…end.