月光に毒される(短編集)
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【黄桃】
「お、来てたか。」
一角が道場から隊舎に戻ると、縁側でやちると二番隊の名前があやとりをして遊んでいた。
「茶、飲むだろ?」
「淹れてくれるの?頂くわ。」
「おう。」
一角は給湯室で茶を淹れ、包丁と食器、床の間に飾ってあった桃を持って縁側に向かった。
一昨日に他所の隊から貰ってきたものだ。
「どう!?四段はしご!」
「副隊長、やりますね…ではこれはどうでしょう?」
名前はやちるの糸を上手に取り、器用にトンネルを作った。
「トンネルです。」
「むくりん、すご〜い!」
「持ってきたぜー。」
一角は二人の近くに盆を置いた。名前に剥いて貰う為だ。
果物が好きな彼女だったら、必ず剥いてくれると一角は確信していた。
「立派な黄桃ね。」
「あぁ、貰ったはいいが、剥くのが面倒で誰も食べないんだよな。」
「つるりんむいてくれるのー!?」
「俺は剥かねぇ。」
昨日、桃を丸ごと食べようとしていたやちるに「剥いた方が旨いっスよ」と告げ口した効果が効いた。
やちるは今の今まで我慢していた事もあり、口からよだれが溢れんばかりに桃を凝視している。
「こんな良い桃を食べないなんて勿体ない。簡単に剥けるのに。」
「剥いてくれよ。」
「全く…。」
名前は息を吐き、包丁を手に取り手早く桃を切った。
半分に割り、種を外して一欠片口に含む。
「皮は食べられますが、副隊長はどうしますか?」
「むいてー!」
「俺も剥いたやつがいい。」
「はいはい…これ全部剥けばいいの?」
「ついでだし、頼んだ!」
桃は全部で五個。
子どもの頼みを聞く母親のようなため息を吐いた名前は、黙々と桃を剥いていった。
「わたし剣ちゃんにもってくー!」
「よろしくお願いします。」
一つ目の桃を剥き終わると、やちるは桃を乗せた小皿を持って走って行った。
一角は慣れた手つきで桃を切る名前の手元をジッと見ていた。
すると、先ほど走って行った筈のやちるが頬を膨らませて戻ってきた。
後ろには何故か荒巻真木造まで連れている。
「もうーマキマキとぶつかって落っことしちゃったー!」
「大変申し訳ございません!!!」
怒るやちるの横で頭を下げる荒巻。
一角は白い目でやちるを見た。
「どーせ、副隊長が急に飛び出したからぶつかったんだろ?」
「ちがうもん!マキマキがまんなかで立ってるのがわるいんだもん!」
「はい…そうなんです…。すみません。」
そんなやり取りをしている最中にも、桃を切っていた名前は二つ分の桃を荒巻に手渡した。
「では今度は落とさぬよう、責任を持って隊長に持って行ってください。」
「分かりました。」
荒巻はしっかりと皿を握り、やちると二人で歩いて行った。
「あああぁーーーっ!!!」
嵐が収まったかと思いきや、今度は弓親の叫び声が聞こえてきた。
「今度はなんだ?」
一角の呟きと同時に、弓親の足音が二人の元へ近づいてくる。
「ちょっと!この桃、僕が剥こうと思ってたのに!!!」
食い入るように黄桃を見つめる弓親。
一角はめんどくさそうに弓親を見上げた。
「あー?さっきまで誰も手を付けないから、要らないのかと思ったぜ。」
「僕は桃が熟れるのを待っていたんだよ!」
「だったら今食えば良いじゃねぇか、丁度剥いてんだからよ。」
「ほら、これで最後の桃も全部剥けたし弓親も食べる?」
名前も包丁を置き、皿に桃を並べる。
「僕は桃の皮で紅茶を作るのさ。この皮、全部貰っていくよ。早く処理しないと香りが抜ける。」
弓親は桃の皮と包丁を乗せた盆を持ち、急いで給湯室へ向かおうとした。
「待って、弓親の分。」
名前は切った桃を弓親に渡した。
「ありがとう。」
これで残った桃は一つだけになった。
「やれやれ、ようやく落ち着いて食えるな。」
一角は桃を一切れ口に入れ、茶を啜った。
既に茶はぬるくなっていた。
隣の名前を見ると、桃を剥いていた左手は桃の汁でびしょ濡れだ。
「手拭い持ってくるか?茶を沸かしついでに。」
「大丈夫、舐めればいいよ。」
「猫かよ。」
名前は左手に付いた果汁を綺麗に舐めていく。
一角が指摘した通り、猫が毛づくろいをしているようだ。
美味しそうに舐める名前を見て、そんなに旨いのか?と一角は思った。
「桃の皮触ってたから、味が濃い気がする。」
右手で桃の果肉を口にした名前はうんうん、と頷いた。
そこまで言われたら気になってくるじゃねぇか。
「俺にも舐めさせろよ。」
「ちょっ…。」
一角は名前の左手首を取り、手の平に滴り落ちる果汁を舐め取った。
「確かにうめぇ。」
確かに、五個分の桃を剥いただけの旨味を感じるが、それは名前の肌の塩気が含まれているからだろう。
もっと味を確かめようと、指まで舌を這わせると名前が一角の耳を引っ張った。
「っバカ!気持ち悪い!!!」
「ははっ、悪ぃ悪ぃ。」
「もう私が舐められないじゃん!」
「俺の唾液も足されて旨くなってるかもしれねぇだろ?それか、味がしなくなるまで俺が舐めてやろうか?」
「どっちも嫌!」
名前は顔を真っ赤にして、立ち上がった。手を洗いに行くようだ。
「ついでに熱い茶、頼んだぜ~。」
「ったく…。」
一人になった一角は彼女が剥いた桃を口に放り込んだ。
皮が付いていなくても、名前が剥いたのだから旨いのは変わらない。
「果物は剥いてもらったやつを食うのが一番だな!」
【黄桃】...end.
「お、来てたか。」
一角が道場から隊舎に戻ると、縁側でやちると二番隊の名前があやとりをして遊んでいた。
「茶、飲むだろ?」
「淹れてくれるの?頂くわ。」
「おう。」
一角は給湯室で茶を淹れ、包丁と食器、床の間に飾ってあった桃を持って縁側に向かった。
一昨日に他所の隊から貰ってきたものだ。
「どう!?四段はしご!」
「副隊長、やりますね…ではこれはどうでしょう?」
名前はやちるの糸を上手に取り、器用にトンネルを作った。
「トンネルです。」
「むくりん、すご〜い!」
「持ってきたぜー。」
一角は二人の近くに盆を置いた。名前に剥いて貰う為だ。
果物が好きな彼女だったら、必ず剥いてくれると一角は確信していた。
「立派な黄桃ね。」
「あぁ、貰ったはいいが、剥くのが面倒で誰も食べないんだよな。」
「つるりんむいてくれるのー!?」
「俺は剥かねぇ。」
昨日、桃を丸ごと食べようとしていたやちるに「剥いた方が旨いっスよ」と告げ口した効果が効いた。
やちるは今の今まで我慢していた事もあり、口からよだれが溢れんばかりに桃を凝視している。
「こんな良い桃を食べないなんて勿体ない。簡単に剥けるのに。」
「剥いてくれよ。」
「全く…。」
名前は息を吐き、包丁を手に取り手早く桃を切った。
半分に割り、種を外して一欠片口に含む。
「皮は食べられますが、副隊長はどうしますか?」
「むいてー!」
「俺も剥いたやつがいい。」
「はいはい…これ全部剥けばいいの?」
「ついでだし、頼んだ!」
桃は全部で五個。
子どもの頼みを聞く母親のようなため息を吐いた名前は、黙々と桃を剥いていった。
「わたし剣ちゃんにもってくー!」
「よろしくお願いします。」
一つ目の桃を剥き終わると、やちるは桃を乗せた小皿を持って走って行った。
一角は慣れた手つきで桃を切る名前の手元をジッと見ていた。
すると、先ほど走って行った筈のやちるが頬を膨らませて戻ってきた。
後ろには何故か荒巻真木造まで連れている。
「もうーマキマキとぶつかって落っことしちゃったー!」
「大変申し訳ございません!!!」
怒るやちるの横で頭を下げる荒巻。
一角は白い目でやちるを見た。
「どーせ、副隊長が急に飛び出したからぶつかったんだろ?」
「ちがうもん!マキマキがまんなかで立ってるのがわるいんだもん!」
「はい…そうなんです…。すみません。」
そんなやり取りをしている最中にも、桃を切っていた名前は二つ分の桃を荒巻に手渡した。
「では今度は落とさぬよう、責任を持って隊長に持って行ってください。」
「分かりました。」
荒巻はしっかりと皿を握り、やちると二人で歩いて行った。
「あああぁーーーっ!!!」
嵐が収まったかと思いきや、今度は弓親の叫び声が聞こえてきた。
「今度はなんだ?」
一角の呟きと同時に、弓親の足音が二人の元へ近づいてくる。
「ちょっと!この桃、僕が剥こうと思ってたのに!!!」
食い入るように黄桃を見つめる弓親。
一角はめんどくさそうに弓親を見上げた。
「あー?さっきまで誰も手を付けないから、要らないのかと思ったぜ。」
「僕は桃が熟れるのを待っていたんだよ!」
「だったら今食えば良いじゃねぇか、丁度剥いてんだからよ。」
「ほら、これで最後の桃も全部剥けたし弓親も食べる?」
名前も包丁を置き、皿に桃を並べる。
「僕は桃の皮で紅茶を作るのさ。この皮、全部貰っていくよ。早く処理しないと香りが抜ける。」
弓親は桃の皮と包丁を乗せた盆を持ち、急いで給湯室へ向かおうとした。
「待って、弓親の分。」
名前は切った桃を弓親に渡した。
「ありがとう。」
これで残った桃は一つだけになった。
「やれやれ、ようやく落ち着いて食えるな。」
一角は桃を一切れ口に入れ、茶を啜った。
既に茶はぬるくなっていた。
隣の名前を見ると、桃を剥いていた左手は桃の汁でびしょ濡れだ。
「手拭い持ってくるか?茶を沸かしついでに。」
「大丈夫、舐めればいいよ。」
「猫かよ。」
名前は左手に付いた果汁を綺麗に舐めていく。
一角が指摘した通り、猫が毛づくろいをしているようだ。
美味しそうに舐める名前を見て、そんなに旨いのか?と一角は思った。
「桃の皮触ってたから、味が濃い気がする。」
右手で桃の果肉を口にした名前はうんうん、と頷いた。
そこまで言われたら気になってくるじゃねぇか。
「俺にも舐めさせろよ。」
「ちょっ…。」
一角は名前の左手首を取り、手の平に滴り落ちる果汁を舐め取った。
「確かにうめぇ。」
確かに、五個分の桃を剥いただけの旨味を感じるが、それは名前の肌の塩気が含まれているからだろう。
もっと味を確かめようと、指まで舌を這わせると名前が一角の耳を引っ張った。
「っバカ!気持ち悪い!!!」
「ははっ、悪ぃ悪ぃ。」
「もう私が舐められないじゃん!」
「俺の唾液も足されて旨くなってるかもしれねぇだろ?それか、味がしなくなるまで俺が舐めてやろうか?」
「どっちも嫌!」
名前は顔を真っ赤にして、立ち上がった。手を洗いに行くようだ。
「ついでに熱い茶、頼んだぜ~。」
「ったく…。」
一人になった一角は彼女が剥いた桃を口に放り込んだ。
皮が付いていなくても、名前が剥いたのだから旨いのは変わらない。
「果物は剥いてもらったやつを食うのが一番だな!」
【黄桃】...end.