月光に毒される(短編集)
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【こんな日に限って】
今日は俺の誕生日だよな…昨日まで今夜の宴が楽しみで気分も良かったのに。
何故、俺は一番隊の道場で座禅を組まされているのか…。
(どうしてこうなった…。)
*
それは一年に一度の山本総隊長が催す、お茶会に呼ばれた時の事だ。
各隊二人が出席し、総隊長直々の手で立てられたお抹茶をいただきながら、盆栽やお庭を眺めて風情を楽しむというもの。
一角はやちると二人で参加していた。
隊長は「めんどくせぇ」と一蹴。弓親は「その日は用事がある」と嘘か本当か分からん理由で辞退。残ったのは「どんなお菓子があるかな〜!」とヨダレを垂らしている副隊長のみ。仕方なく一角はやちるとお茶会に参加する羽目になったのだ。
他隊のメンツを見ても仕方なく選ばれてやって来たと見える、馴染みのない顔ばかり。隊長で参加しているのは十三番隊の浮竹隊長だけだった。
山本総隊長の四季を感じられる園庭と盆栽に対する話を延々と聞かされ、正座している足もすっかり感覚が無くなってきた頃。隣のやちるはあろう事か、一人抜け出そうと目論んでいた。
丁度目の前に灯籠が置いてあり、周囲に見つかる事なく下の軒下に降りられそうだ。
やちるは気付かれないよう動くが、俺はその隙を逃さなかった。
「おい、菓子が食えなくなってもいいのか?」
やちるの首襟を掴む一角。
「だいじょうぶ、みんながくれるもん!」
「んな上手いこといくかよ。」
やちるは上手に一角の脇をくぐり抜け、足の裏を踏みつけた。
痺れが収まりかけた所を踏まれた一角はあまりの痛さに飛び上がった。
「いでっ…や、やべっ…!」
飛び上がった勢いで縁側から落ちた一角は、目の前の灯籠に激突した。灯籠がバラバラになって倒れた。
「斑目くん、大丈夫かい?」
この声は浮竹隊長だ。「大丈夫っす!」と返答したのも束の間、物凄い霊圧に当てられて動けなくなる。
それはいつも更木隊長に当てられるソレとは訳が違っていた。
「おぬし、これはどういう事だね?」
総隊長が一角を見つめている。表情は変わらないが、霊圧の震えから相当怒っているに違いない。
「す…すみません。これには深い事情が…。」
「そうか。後でじっくりと話を聞くとしよう。」
「は…はい…。」
冷や汗で肝を冷やした一角は、とりあえず総隊長の追及を逃れ息を吐いた。
「ドチビはどこだ…」と周囲を見渡すが、やちるはきちんと座布団の上に座っている。
額に青筋を浮かべた一角だったが、やちるを蹴り飛ばすのは帰ってからにしようと堪えた。
*
(話は聞いてくれたものの、一週間一番隊 で座禅なんて…恥晒しもいいとこだぜ…。)
山本総隊長の前で失態を犯した者は一週間、座禅をさせられる。精神統一の一種だ。乱れた心を整えると言う総隊長の愛ある指導だ。
(よりにもよって誕生日に被るとは…。)
十一月九日、今日で座禅は七日目で最終日。これが終われば一角は晴れて自由の身だ。
濡れ衣も甚だしいと腹の中が煮え繰り返りそうになるが、今は座禅中だと思い出して心を鎮めた。
*
勤務後の座禅ですっかり夜も更け、時間は就寝前。居酒屋も人がいなくなっている。
(ちっ、最悪な誕生日だぜ…。)
と思いながら、一角はどうも気が乗らずに隊舎へ戻る事にした。
珍しく閑散とした十一番隊隊舎。
妙な静かさの中、入っていくと隊員達の声が一角を出迎えた。
「斑目三席、おめでとうございます!!!」
突然掲げられた横断幕には『誕生日おめでとう!!!』の文字。
一角は思わぬサプライズに一瞬、目が潤みそうになった。
「三席、お腹が空いている事でしょう。酒もたんまり用意してますんで!」
「ありがとうな。」
隊員に促されるまま食堂に向かうと隊長、副隊長、弓親…更には鉄さんや恋次、名前の姿もあった。
「一角さん、おめでとうございます!」
「おい一角、待ちくたびれたぞ。」
既に酔っ払っている剣八と鉄左衛門に、食事に一切手を付けていない恋次と名前。
「お前達まで…。」
「ほらほら。一角、席に着いて。始めようじゃないか。」
一角は真ん中の席に着き、酒瓶を持った。その場にいる者全てが彼を祝福する。
「皆、わざわざ俺の為にこんな時間に集まって…ありがてぇ!」
『斑目三席、お誕生日おめでとうございます!』
食堂内に響く拍手の音。一角は感無量だった。
「おう、乾杯!!!」
*
日付を跨ぎ、誕生日会も解散となった頃。一角は鉄左衛門と恋次と名前を見送りに来た。
「テツさん、こんな時間まで付き合って貰ってありがとうございやした!」
「ええって事よ。」
「一角さん、また呑みに行きましょうね。」
鉄左衛門と恋次は一角に挨拶を済ませ、隊舎を出た。名前も「おやすみ」と会釈して玄関を出ようとしたが、一角は呼び止めた。
「ありがとな、わざわざ来てくれて。嬉しかったぜ。」
「暇だったから来ただけ。」
素っ気なく言うが、一角は彼女の気持ちが素直に嬉しかった。
名前は夜勤があるので、予定を合わせている事を一角は知っていた。
「またな、名前。」
「ん。」
一角は名前に手を振り、彼女を見送った。
最悪な誕生日になるかと思ったが、最高の日になった。
やちるをいびるのは明日以降でいいだろう。今はこの余韻に浸っていたい。
祝ってくれた全員に感謝して、一角は床に着いた。
【こんな日に限って】…end.
今日は俺の誕生日だよな…昨日まで今夜の宴が楽しみで気分も良かったのに。
何故、俺は一番隊の道場で座禅を組まされているのか…。
(どうしてこうなった…。)
*
それは一年に一度の山本総隊長が催す、お茶会に呼ばれた時の事だ。
各隊二人が出席し、総隊長直々の手で立てられたお抹茶をいただきながら、盆栽やお庭を眺めて風情を楽しむというもの。
一角はやちると二人で参加していた。
隊長は「めんどくせぇ」と一蹴。弓親は「その日は用事がある」と嘘か本当か分からん理由で辞退。残ったのは「どんなお菓子があるかな〜!」とヨダレを垂らしている副隊長のみ。仕方なく一角はやちるとお茶会に参加する羽目になったのだ。
他隊のメンツを見ても仕方なく選ばれてやって来たと見える、馴染みのない顔ばかり。隊長で参加しているのは十三番隊の浮竹隊長だけだった。
山本総隊長の四季を感じられる園庭と盆栽に対する話を延々と聞かされ、正座している足もすっかり感覚が無くなってきた頃。隣のやちるはあろう事か、一人抜け出そうと目論んでいた。
丁度目の前に灯籠が置いてあり、周囲に見つかる事なく下の軒下に降りられそうだ。
やちるは気付かれないよう動くが、俺はその隙を逃さなかった。
「おい、菓子が食えなくなってもいいのか?」
やちるの首襟を掴む一角。
「だいじょうぶ、みんながくれるもん!」
「んな上手いこといくかよ。」
やちるは上手に一角の脇をくぐり抜け、足の裏を踏みつけた。
痺れが収まりかけた所を踏まれた一角はあまりの痛さに飛び上がった。
「いでっ…や、やべっ…!」
飛び上がった勢いで縁側から落ちた一角は、目の前の灯籠に激突した。灯籠がバラバラになって倒れた。
「斑目くん、大丈夫かい?」
この声は浮竹隊長だ。「大丈夫っす!」と返答したのも束の間、物凄い霊圧に当てられて動けなくなる。
それはいつも更木隊長に当てられるソレとは訳が違っていた。
「おぬし、これはどういう事だね?」
総隊長が一角を見つめている。表情は変わらないが、霊圧の震えから相当怒っているに違いない。
「す…すみません。これには深い事情が…。」
「そうか。後でじっくりと話を聞くとしよう。」
「は…はい…。」
冷や汗で肝を冷やした一角は、とりあえず総隊長の追及を逃れ息を吐いた。
「ドチビはどこだ…」と周囲を見渡すが、やちるはきちんと座布団の上に座っている。
額に青筋を浮かべた一角だったが、やちるを蹴り飛ばすのは帰ってからにしようと堪えた。
*
(話は聞いてくれたものの、一週間
山本総隊長の前で失態を犯した者は一週間、座禅をさせられる。精神統一の一種だ。乱れた心を整えると言う総隊長の愛ある指導だ。
(よりにもよって誕生日に被るとは…。)
十一月九日、今日で座禅は七日目で最終日。これが終われば一角は晴れて自由の身だ。
濡れ衣も甚だしいと腹の中が煮え繰り返りそうになるが、今は座禅中だと思い出して心を鎮めた。
*
勤務後の座禅ですっかり夜も更け、時間は就寝前。居酒屋も人がいなくなっている。
(ちっ、最悪な誕生日だぜ…。)
と思いながら、一角はどうも気が乗らずに隊舎へ戻る事にした。
珍しく閑散とした十一番隊隊舎。
妙な静かさの中、入っていくと隊員達の声が一角を出迎えた。
「斑目三席、おめでとうございます!!!」
突然掲げられた横断幕には『誕生日おめでとう!!!』の文字。
一角は思わぬサプライズに一瞬、目が潤みそうになった。
「三席、お腹が空いている事でしょう。酒もたんまり用意してますんで!」
「ありがとうな。」
隊員に促されるまま食堂に向かうと隊長、副隊長、弓親…更には鉄さんや恋次、名前の姿もあった。
「一角さん、おめでとうございます!」
「おい一角、待ちくたびれたぞ。」
既に酔っ払っている剣八と鉄左衛門に、食事に一切手を付けていない恋次と名前。
「お前達まで…。」
「ほらほら。一角、席に着いて。始めようじゃないか。」
一角は真ん中の席に着き、酒瓶を持った。その場にいる者全てが彼を祝福する。
「皆、わざわざ俺の為にこんな時間に集まって…ありがてぇ!」
『斑目三席、お誕生日おめでとうございます!』
食堂内に響く拍手の音。一角は感無量だった。
「おう、乾杯!!!」
*
日付を跨ぎ、誕生日会も解散となった頃。一角は鉄左衛門と恋次と名前を見送りに来た。
「テツさん、こんな時間まで付き合って貰ってありがとうございやした!」
「ええって事よ。」
「一角さん、また呑みに行きましょうね。」
鉄左衛門と恋次は一角に挨拶を済ませ、隊舎を出た。名前も「おやすみ」と会釈して玄関を出ようとしたが、一角は呼び止めた。
「ありがとな、わざわざ来てくれて。嬉しかったぜ。」
「暇だったから来ただけ。」
素っ気なく言うが、一角は彼女の気持ちが素直に嬉しかった。
名前は夜勤があるので、予定を合わせている事を一角は知っていた。
「またな、名前。」
「ん。」
一角は名前に手を振り、彼女を見送った。
最悪な誕生日になるかと思ったが、最高の日になった。
やちるをいびるのは明日以降でいいだろう。今はこの余韻に浸っていたい。
祝ってくれた全員に感謝して、一角は床に着いた。
【こんな日に限って】…end.