2話:家族と彼女と俺と

その週末。
少しだけ用事があると話していた真優を駅まで迎えに行って、自宅に案内する。
自宅の扉を開けた瞬間、玄関でおとんとおかんが待ち構えとって。

二人の圧に、真優は一瞬目を見開いたけど、すぐに「お邪魔します」と、にこにこほほ笑んだ。

その様子が、ほんまに嬉しそうで。
真優も俺の家族を大切に思ってくれとるんが伝わる。
淡い水色の瞳がキラキラしとる。

――可愛ええなぁ、ほんま。

俺は家族に悟られんよう、ふっと視線を逸らした。

「真優ちゃんいらっしゃい!」
「まあまあ、早よ上がり」

おかんとおとんが次々に声を掛ける。
先にリビングへ戻っていく二人の背中を見つつ、俺は真優に耳打ちした。

「先に言うとく」
「うん?」
「多分、おかんら暴走する」
脱いだ靴を揃えながら、真優が俺を見て小さく吹き出す。
「楽しみやわ!」

リビングに入ると、翔太が待ち構えていた。

「真優ちゃん、久しぶり!」
「翔太くん、久しぶり。こないだ、尚とごはん行ったって聞いたで」

――尚とはいろんな話しとんねんな。

尚は真優の弟で、翔太のいっちゃん仲ええ友達。
俺とも面識合って、話したこともある。
姉弟仲はかなり良さそうやから、付き合うた日に話したんちゃうか、なんて。

翔太は真優に駆け寄るとすぐさま口を開く。

「こないだ財前くんがな『兄ちゃんが真優ちゃんと付き合うた、って、だれ彼構わず触れ回っとるぞ』って、言うてたで」

真優は目を丸くしたあと、口元に手を当ててぽつりと呟いた。

「や、ほんまだれ彼構わずやねんな」

ちょお待て。
他の奴らからも聞かされとるみたいな、その口振りやめーや。

はたっと目が合うて、瞬間、真優はにやりと悪戯な笑みを浮かべた。

「謙也くんのしゃべり」
「ええやろ! 事実なんやから」

俺は顔を真っ赤にして、たじたじになる。
真優はおかしそうに笑うと、俺の肩にぽんっと軽く触れてからおとんとおかんに歩み寄る。

「これ、よければ」

そう言って真優は、可愛らしくラッピングされた手土産を手渡した。
俺はうしろから覗き込んで「こんなんええのに」とごちるけれど、それをかき消すようにおかんが反応した。

「や、コレあのお店のやないの!」
「そうです。前お話しされてましたよね?『ここのん好きやー』って」
「覚えてくれとったん?」

真優がにこりと肯定する。
「今日、近く寄る用事あって。そんときちょうど思い出したので」

半分くらい嘘やな。
楽譜屋さん行く、言うてたし用事あったんはほんまなんやろうけど。
用事ってコレ買いに行くことやったんちゃうか。
律儀な奴やな――なんてところまで考えて、俺ははたっと止まった。

ちゅーか、なんで真優がおかんの好み知ってんねん?
え? 俺の知らんとこでなんかあった?

「真優ちゃん、おおきにな。あとで呼ばれるわ」
「ぜひ!」

俺の動揺なんてどこ吹く風で、真優は楽しそうにしとる。
なんとなく、置いてけぼりになった感覚を覚えて呆然としてしまった。

俺の動揺は食事が始まっても続いて。
真優のピアノの話やったり、おかんの趣味の話、翔太との話――おとんとも普通に話弾んどる。
それも無理して、とかやなくて心から楽しんで。
よう笑って、ようしゃべって、可愛くて。

時折向けられるほほ笑みに毎度射抜かれて、俺はわずかに頬を染めつつ「せやな」と相槌を打つ。

多分、ここにおる全員が気付いとる。
俺がテンパって言葉少なになっとるって。

けど、しゃーないやん。
俺の知らんとこで、真優がうちの家族に馴染んどるとは思わんかってんから。

食後、茶飲みながら話しとると、不意におかんが口にする。

「真優ちゃん、謙也のどこがよかったん?」

ぽつりと問われた質問に、俺の目が点になる。
それから、心臓が一拍強く跳ねて、爆発的に全身が赤くなった。

「はあ!? ちょっ、何聞いてんねん? あほなんか!?」
「親に向かってあほとはなんやねん。大事やろ」
「いや、は? ふざけんな。本人の前であかんやろ」
「本人の前やからおもろいねん」

思わず絶句する。
ほんま、ええおもちゃにされとる気しかせんっ!

真優はしばらく俺とおかんのやり取りを見ていたかと思えば、ふふっと小さく吹き出して「そうですねぇ」と、言葉を紡ぐ。

「なんやかんや言うてうちに甘いとこでしょか?」
「うわぁ、確かに兄ちゃん、真優ちゃんに激甘やもんな」
「やろ?」

俺は翔太を睨みつける。

――お前、覚えとけよ……。

真優は一口お茶を飲むと、幸せそうにほほ笑んでゆるりと続ける。

「うちが困ってたら自分のこと顧みんと、厄介ごとに首突っ込んでくれますし」
「すぐ手ぇも差し伸べてくれます」
「ほんま、優しくて。誰よりも頼りになりますよ」

赤くなって固まる俺を真優が覗き込む。
その真優の顔もほんのり赤くなっとって。

真優は照れくさそうに笑うと、おかんの目見てはっきり言い切った。

「うちにはもったいないくらいですよ。謙也くん」

おかんがおとんと見合わせた。
それから同時に笑い出す。

「こら一杯食わされたな」
「どこがええんか聞こ思っただけやったのに、思いきり惚気られてもうた!」
「惚気聞いてくれてありがとうございます」

気恥ずかしそうにしつつ、真優は嬉しそうに笑とって。
俺は逆に嬉しすぎて泣きそうになって。
顔赤くさせたまま、ぐっと喉を鳴らした。

――そんな風に思ってくれとったん。

胸の内がじんわりとあたたかいもので満たされる。
やっぱ俺、真優のことものっそい好きや。
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