11話:小話 約束は守るためにある

――いやぁ、あの子あんな顔するんやな。

買うた商品レジ袋に放り込みながらそんなことを考える。
謙也が真優ちゃんを家に連れてきてだいぶ経つけど、そういう感じ?

息子の恋愛事情ほどおもろいもんはないけど、あの子のあんな優しい顔見たん、初めてやったわ。
『静かにしとって』
なんて、緩み切った顔で言われたら敵わん。

最初はお父さんの言うとった通り、真優ちゃんが謙也のド好みの子やったから惹かれとるんかと思うてたんやけど。
あれは、中身まで全部好きでしゃーないんやろな。

これは、将来が楽しみかもしれへん。

そうあたたかな笑みを浮かべて自宅へ戻る。
そしたら、家ん中がびっくりするくらい静かで。
そっとリビングを覗いてみる。

したら、ソファで仲良さそうに寄り添って寝とる二人の姿が目に入って、興奮で声上げそうになった。

なんやの、なんやの!
謙也も寝てしもたん!?

そのままそっとしておくんが一番ええんやろけど。
さすがに二月の末に毛布一枚やと、風邪ひいてまうな。

仕方なしに忍び足でリビングに足を踏み入れ、そっと二人に近付いた。
よう見たら、謙也は真優ちゃんと反対側の耳だけイヤホンして――寝てもて暇やったから動画でも見とったんやな。

やれやれと呆れ半分に毛布を掛けてやる。
それから、ふっと謙也の手に乗っかったままのスマホ画面が動いとるんに気が付いて。
寝とるんやから、一応止めとくか……と画面に伸ばした指が固まった。

画面には、ピアノを演奏しとる真優ちゃんが映っとって。

「……はぁっ!?」

あまりの衝撃にその辺の空気を丸ごと飲み込む。

この子、寝とる真優ちゃんの横で、真優ちゃんの動画見とんの?
いや……え?

そんなの見てしもたら、動画を止められるわけもなく、ニヤける口元押さえて大慌てでキッチンに引っ込んだ。

お父さんに絶対言お。

鼻歌混じりにスーパーで買ってきた食材を取り出して、夕食の準備を始める。

これは、ほんまのほんまに。
もしかしたら、もしかするかもしれへんで、お父さん!

□ + ◇ + □

日の傾き始めたキッチンに優しい出汁の香りが広がる。

「謙也、真優ちゃん。そろそろ起きや!」
「今日の晩ごはん鍋やで!」
4/4ページ
スキ