11話:小話 約束は守るためにある

ソファに横並びで座る。
真優に「飲み物、何がええ?」って聞いたら、即答で「カフェラテ!」とか言うてきよったから、却下した。

「今日はあかん」
「……なんでよ」
「カフェイン一滴も取らせへん」

そう俺が言えば真優は「けちんぼ」と、頬を膨らませた。
拗ねたフリをする彼女に小さく笑い、俺は「カフェラテはあかんけど――」と、マグカップを渡す。

「謙也さん特製、はちみつ入りホットミルクやで」
「……それは美味しそう」
「やろ?」
「ありがとうな」

ちびりと一口飲んだ真優の表情がゆるりとほどけて。
なんやそれ見たら安心してまう。
俺とかこの家が、真優にとって安心できる場所になれてるんちゃうかって。

そんな真優の隣で、俺はカフェラテ片手に毛布を膝に掛けた。

「謙也くんはカフェラテなん?」
「そ」
「なんやずるい」

口ではそう言うとるけど、真優の奴、笑ってもうてて。
しばらく飲み物飲んどったと思うたら、ふっと思い出したみたいにサイドテーブルにマグカップを置いて、スマホを取った。

「謙也くんって春休みもう予定入ってるん?」
「いや? 今んとこ予定ないけど」

真優はスケジュールアプリを立ち上げた。
スクロールして、三月のページを開く。

多分、今ここで開くっちゅーことは、見てもええんやろ。
そう思って、スマホ画面覗き込んだら、膨大な量の演奏会(本番)の文字。

――リハ、演奏会。
当日リハの本番もあるっぽい……。
しかも、大阪に東京って。

驚きで飲んどったカフェラテ吹き出しそうになって、どうにか堪えた。

「……土日全滅やん」
「そやねん。ほら、うち学生やさかい、三月はいけるってバレとんの」

運営さんも無茶苦茶しよるよねぇ、なんて真優は笑っとるけど。

俺としてはこんなに演奏会詰め込まれとって、体力的に平気なんか不安になってくる。
俺かて、テニスの公式戦毎週末組み込まれたら、さすがにキツイ。
やのに――。

「まあ、でもさ。せっかく春休みで時間あるねんし」
「一緒にお出掛けしよな!」

真優は柔らかな笑顔を浮かべて、すり寄ってくる。
触れた肩が、腕があたたかくて、いじらしくて。

思わず肩抱き寄せて「負担にならん程度にな」なんて言えば、不思議そうに瞬かれた。
それから、真優はあははっ! と頬を染めて笑って「過保護やなぁ」と続ける。

「こんくらいやったら平気よ。お昼の本番ばっかやし」
「それでも。忙しいんは変わりないやろ?」
「……ありがとうな、心配してくれて」
「当たり前っちゅー話や」

言い切った途端、真優がこてんっと体重を掛けて来て、心臓が一拍強く脈打った。

「それでも、うちは謙也くんと一緒に居りたいの」

当然のように紡がれる言葉に、胸が熱くなる。
そっとバレんように彼女の髪に口づけを落として「俺もやで」と、手で梳けば、真優はくすぐったそうにまぶたを伏せた。

それから、数分もせんうちに真優の手からスマホがするりと膝の上に落ちて――。

「……寝よった」

小さな寝息を立てる真優に、俺は無意識のうちに柔らかな笑みを浮かべてまう。

――ほんま安心しきった顔しよってからに。

そんなこと考えながら、膝に掛けとった毛布手繰り寄せて、肩らへんまで引っ張り上げる。
やれやれと短い息を吐いたとき「謙也ー」と、キッチンからおかんの声が聞こえて、肩が跳ねあがった。

「お母さん、晩ごはんの買い物――!」

ひょっこり顔を覗かせたおかんに、俺はシーっと口の前に人差し指を当てた。

「や、真優ちゃん寝ちゃったん」

小声になって聞いてくるおかんに俺は「そー」と続ける。
「やから、静かにしとって」
おかんは一瞬、目丸くしたかと思えばふふっと笑って「はいはい」と言葉を紡いだ。

「したら、お母さんちょお買い物行ってくるな」
「分かった」

あいた手で軽く手降ってやれば、ものっそい静かにリビングの扉閉めていきよった。

……さて、真優が起きるまで何しとくかな。
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