13話:幸せの続き
完全祝福ムードの中、不意に千歳が「式にはやっぱあのおかん来ると?」と口にした。
真優は一瞬目を丸くしたかと思えば、あははっと笑って「あのおかんって……」とおかしそうに続ける。
「もー、やめてや」
真優はケラケラ笑っとるけど、正直俺らにとっては決して忘れることのできない記憶や。
正式に入部しよ、思た真優の入部届散り散りに引き裂いて、ヒステリックに恫喝したあのおかん。
終いには、手え上げようとして、庇った謙也が思いきし打たれた、あの事件。
当時、中学生ながらこんな人間ほんまにおるんや、と恐怖に慄いた出来事やった。
「いや、ぶっちゃけ成人した今でもあの日のこと、めっちゃはっきり覚えとるで」
ぽつりと小石川が言う。
それに同調するように小春が「まあ、正直忘れられへんよねぇ」と、囁いた。
真優は笑いを引っ込めると頭を掻いて、息を吐く。
「まあ、言いたいことは分かるけど」
それから、なんてことなさそうな――ほんまにあったことを淡々と話すような口ぶりで話し始める。
「当日はどうやろ? 一応『結婚する』って伝えたけど返事ないし」
きっと、真優の中で整理がついとる関係なんやと思う。
俺らは――謙也以外は、あの部活での恫喝事件以来、真優の母親には会っていない。
やからこそ、真優と真優の母親との関係は当時のまま止まっとって。
真優の言葉を引き継ぐように、謙也が口を開いた。
「一応、挨拶には行ってんけどな。真優のおかん、俺の顔見たら固まってしもて」
そら、自分が引っ叩いた奴と結婚するって娘が彼氏連れてきたら固まるやろ。
瞬時、そう思ったがどうやら違うらしい。
「謙也くん、しょっちゅうお母さんにキレるんやもん」
真優が苦笑混じりに言うと、謙也は「しゃーなしやろ、あれは」と口を尖らせる。
その横で真優が「天敵認定されとんのよ」と、どこか優しい顔で付け足した。
その瞬間、悟った。
きっと謙也は、俺らの知らんところでずっとあの母親から真優のこと守っとったんや。
「天敵、なぁ……。別に敵対したいわけやないねんけど」
「謙也くんはそうかもしれんけど。もう無理やろなぁ」
むくれつつビールをすする謙也に、真優はふふっとおかしそうに笑っている。
それから、真優は落ち着いた表情に戻って俺らに視線を向けた。
「やから、当日は来るかどうか分からへんし」
「……きっと、今後はもう会わへんよって」
ゆっくり息を吐き出した。
「それが一番ええ距離なんやと思うわ」
過去を切り離すんやなくて、今を守るための距離。
あんなんでも家族やからと、諦めきれずにおったんが、たくさん考えて、悩んだ結果――謙也の手を取ることに決めたんとちゃうかな、真優は。
俺以外の奴らも同じこと考えたに違いない。
妙に場がしんみりしてしもて、真優が「あ、あ! やけどな!」と慌てて声を張る。
まるで早口で捲し立てるように――。
「うち今ちゃんと幸せやで!?」
「謙也くんのお父さんもお母さんもめっちゃ可愛がってくれとるし、翔太くんも尚も喜んでくれとるし、それにな――!」
勢いのまま謙也の手を取って、俺らに見せつけるように上げた。
その左手にはキラキラと婚約指輪が輝いとって。
「謙也くんがずっと一緒にいてくれてるさかいな!」
謙也が一瞬驚いたように目を見開いた。
それから、敵わんとばかりに頬をわずかに染めて笑って、真優の手を握り返す。
「まあ、そんなんやから。みんなに式来てほしくて今日声掛けてんよ」
「みんなはうちと謙也くんの大切な人やさかい」
心の底から溢れ出る幸せに当てられて、俺らはふっと表情を緩めた。
「行く行く! そんなん行くに決まってるやん!」
金ちゃんが身を乗り出す。
「当然ばい!」
千歳が深く頷いて、二人を見た。
「写真係は俺に任せぇや」
ユウジがカメラのシャッターを切るフリをする。
「うち、衣装チェックする」
「ほんま楽しみや」
「俺らにできることやったら何でも言いや!」
小春に銀、小石川もあたたかな視線を二人に向けた。
俺はほほ笑むと、心からの祝福を込めて口を開く。
「ほんま、自分ら幸せそうやなぁ」
そう告げれば、真優と謙也の満面の笑みが返ってくる。
――謙也、真優。
ほんま、よかったな。
真優は一瞬目を丸くしたかと思えば、あははっと笑って「あのおかんって……」とおかしそうに続ける。
「もー、やめてや」
真優はケラケラ笑っとるけど、正直俺らにとっては決して忘れることのできない記憶や。
正式に入部しよ、思た真優の入部届散り散りに引き裂いて、ヒステリックに恫喝したあのおかん。
終いには、手え上げようとして、庇った謙也が思いきし打たれた、あの事件。
当時、中学生ながらこんな人間ほんまにおるんや、と恐怖に慄いた出来事やった。
「いや、ぶっちゃけ成人した今でもあの日のこと、めっちゃはっきり覚えとるで」
ぽつりと小石川が言う。
それに同調するように小春が「まあ、正直忘れられへんよねぇ」と、囁いた。
真優は笑いを引っ込めると頭を掻いて、息を吐く。
「まあ、言いたいことは分かるけど」
それから、なんてことなさそうな――ほんまにあったことを淡々と話すような口ぶりで話し始める。
「当日はどうやろ? 一応『結婚する』って伝えたけど返事ないし」
きっと、真優の中で整理がついとる関係なんやと思う。
俺らは――謙也以外は、あの部活での恫喝事件以来、真優の母親には会っていない。
やからこそ、真優と真優の母親との関係は当時のまま止まっとって。
真優の言葉を引き継ぐように、謙也が口を開いた。
「一応、挨拶には行ってんけどな。真優のおかん、俺の顔見たら固まってしもて」
そら、自分が引っ叩いた奴と結婚するって娘が彼氏連れてきたら固まるやろ。
瞬時、そう思ったがどうやら違うらしい。
「謙也くん、しょっちゅうお母さんにキレるんやもん」
真優が苦笑混じりに言うと、謙也は「しゃーなしやろ、あれは」と口を尖らせる。
その横で真優が「天敵認定されとんのよ」と、どこか優しい顔で付け足した。
その瞬間、悟った。
きっと謙也は、俺らの知らんところでずっとあの母親から真優のこと守っとったんや。
「天敵、なぁ……。別に敵対したいわけやないねんけど」
「謙也くんはそうかもしれんけど。もう無理やろなぁ」
むくれつつビールをすする謙也に、真優はふふっとおかしそうに笑っている。
それから、真優は落ち着いた表情に戻って俺らに視線を向けた。
「やから、当日は来るかどうか分からへんし」
「……きっと、今後はもう会わへんよって」
ゆっくり息を吐き出した。
「それが一番ええ距離なんやと思うわ」
過去を切り離すんやなくて、今を守るための距離。
あんなんでも家族やからと、諦めきれずにおったんが、たくさん考えて、悩んだ結果――謙也の手を取ることに決めたんとちゃうかな、真優は。
俺以外の奴らも同じこと考えたに違いない。
妙に場がしんみりしてしもて、真優が「あ、あ! やけどな!」と慌てて声を張る。
まるで早口で捲し立てるように――。
「うち今ちゃんと幸せやで!?」
「謙也くんのお父さんもお母さんもめっちゃ可愛がってくれとるし、翔太くんも尚も喜んでくれとるし、それにな――!」
勢いのまま謙也の手を取って、俺らに見せつけるように上げた。
その左手にはキラキラと婚約指輪が輝いとって。
「謙也くんがずっと一緒にいてくれてるさかいな!」
謙也が一瞬驚いたように目を見開いた。
それから、敵わんとばかりに頬をわずかに染めて笑って、真優の手を握り返す。
「まあ、そんなんやから。みんなに式来てほしくて今日声掛けてんよ」
「みんなはうちと謙也くんの大切な人やさかい」
心の底から溢れ出る幸せに当てられて、俺らはふっと表情を緩めた。
「行く行く! そんなん行くに決まってるやん!」
金ちゃんが身を乗り出す。
「当然ばい!」
千歳が深く頷いて、二人を見た。
「写真係は俺に任せぇや」
ユウジがカメラのシャッターを切るフリをする。
「うち、衣装チェックする」
「ほんま楽しみや」
「俺らにできることやったら何でも言いや!」
小春に銀、小石川もあたたかな視線を二人に向けた。
俺はほほ笑むと、心からの祝福を込めて口を開く。
「ほんま、自分ら幸せそうやなぁ」
そう告げれば、真優と謙也の満面の笑みが返ってくる。
――謙也、真優。
ほんま、よかったな。