2話:家族と彼女と俺と
帰宅して晩飯食って(翔太は「尚と飯食うてくる」とか言うて出てった)、リビングのソファでスマホを開く。
勉強する前に少しだけ。
メッセージとか確認しときたかったし。
クラスとか、仲ええ奴らとのグループトークに目を通し、ぼんやりする。
――真優からメッセージ、来てへんな。
今頃、ピアノしてるんやろか。
ピアノの邪魔はしたないから、今はメッセージ送るん止めとこ、とスマホの画面を落とした途端、おとんが声を掛けてきた。
「謙也、お前彼女できたんか」
直球。
いや、ド直球。
火の玉ストレート。
固まった俺をよそに、おとんは新聞読んどる。
一瞬で赤く染まった顔は見てへんはずや。
「……おん」
嘘つくんは嫌やけど、舞い上がってんのバレるんも癪やし、最低限だけ返す。
「ほーん」
「なに?」
「いや? 別に」
絶対なんか思うてるやん。
まあ、分からんではないで。
息子に彼女出来たら気になるよな。
おとん、こういう話めちゃくちゃ好きやもんな。
俺はおとんを盗み見る。
おとんは新聞から視線を外さんまま、コーヒーすすって「前に家来た子?」と、なんてことない調子でぽろっと聞いてきた。
付き合う前に真優は俺ん家に来たことがある。
俺が真優のおかんに叩かれて怪我した日――真優が緊張で震えながら俺の両親に謝罪した日。
俺にとってもおとんとおかんにとっても、衝撃的な日やったから忘れるわけないと思う、けど。
こうも最短距離で彼女を言い当てられると、なんや悔しなってくる。
「せやけど」
むくれ気味に肯定すれば、おとんは「ははあ」と楽しげに声を上げた。
「お前あんときから、あの子のことめっちゃ好きそうやったもんなぁ」
心底愉快そうな声音に、俺の目が点になった。
え? あ……?
そんな感じやったか?
喉がひゅっと音を立て――次の瞬間には捲し立てるように声を上げていた。
「はっ? それマジで言うてる?」
「俺そんな分かりやすかった!?」
思わず声が裏返る。
台所のおかんまで参戦して「分かりやすいっていうか、なぁ?」とおとんに同意する始末。
次の瞬間、おとんと目が合うた。
「顔に書いてあったで」
おとんはおかしそうに笑っとるけど、俺は心臓に水流し込まれて一瞬で胸が冷える。
顔に? 俺の?
「うせやん!?」
勢いよく立ち上がってもうた。
動揺しとるんバレバレ……。
恥ずかしくて死ぬ。いや死なんけど。
顔が熱すぎて、おとんの思うつぼや。
おとんはケラケラ笑って「ええやんか」と続けた。
「そんだけ好きな子なんや! ちゃんと大事にしいや」
もっと茶化されるかと思うとったけど、案外まともなこと言われて、ちょっと肩の力が抜けた。
「わーっとるよ」
真っ直ぐに『大事にせえ』なんて言われたら、そら全くその通りで。
反抗する気すら起きへん。
俺はやれやれと息を吐く。
けど、おとんはなんの遠慮もなしに、俺が薄々感じ取ったことをはっきりと口にした。
「あの子別嬪さんやからなぁ、お前と付き合うててもモテてまうで」
知っとるわ!
そんなんとっくに分かっとるっちゅー話。
クラスの女子らがこそこそ話しとるんは何回も聞いた。
今日かて隣のクラスの奴に呼び出されとったわ!
「……それも分かっとる」
苦々しく応える俺に、おとんはくぎ刺すみたいに続ける。
「ぶれるような子やないから心配はしてへんけど」
「お前が変なやきもちで責めたりしたら分からんからな」
それ言われたら、ぐうの音も出ん。
もしかしたら、無意識のうちに真優に嫌な態度取ったことあったかもしれへんし。
「なんや、もうしたあとか?」
「し、ししししてへんわっ!!」
「ほんまか? あんた顔に出やすいからなぁ」
「おかんまでやめや!」
俺は拳を握ると声にならん声をあげる。
「〜っ! もう頼むからほっとってくれ!!」
言うなり、俺はリビングから逃げ出した。
階段に足を掛けた途端、玄関のドアが開く音が聞こえる。
翔太の「ただいまぁ」という間の抜けた声が響いた。
無視するのは忍びなくて、俺は一瞬足を止めると「おかえり」とだけ言って背を向ける。
「あ、兄ちゃん!」
階段を駆け上がろうとする俺に翔太が声を掛ける。
呼び止められて、思わず振り向いたんが間違いやった。
「真優ちゃんと付き合うたんやろ? 尚に聞いたで」
翔太の暢気な声が続ける。
「よかったなぁ。兄ちゃん」
「真優ちゃんのことめっちゃ好きそうやったもんなぁ!」
なんやその指摘?
弟にまで言われるって……。
え。
俺は全身真っ赤になって吠えた。
「は!? おま……っ! 今その話やめーや!!」
階段を駆け上がり、自室に立てこもる。
背後で家族の笑い声が響いとるけど、知らん!
もう知らん!
勉強する前に少しだけ。
メッセージとか確認しときたかったし。
クラスとか、仲ええ奴らとのグループトークに目を通し、ぼんやりする。
――真優からメッセージ、来てへんな。
今頃、ピアノしてるんやろか。
ピアノの邪魔はしたないから、今はメッセージ送るん止めとこ、とスマホの画面を落とした途端、おとんが声を掛けてきた。
「謙也、お前彼女できたんか」
直球。
いや、ド直球。
火の玉ストレート。
固まった俺をよそに、おとんは新聞読んどる。
一瞬で赤く染まった顔は見てへんはずや。
「……おん」
嘘つくんは嫌やけど、舞い上がってんのバレるんも癪やし、最低限だけ返す。
「ほーん」
「なに?」
「いや? 別に」
絶対なんか思うてるやん。
まあ、分からんではないで。
息子に彼女出来たら気になるよな。
おとん、こういう話めちゃくちゃ好きやもんな。
俺はおとんを盗み見る。
おとんは新聞から視線を外さんまま、コーヒーすすって「前に家来た子?」と、なんてことない調子でぽろっと聞いてきた。
付き合う前に真優は俺ん家に来たことがある。
俺が真優のおかんに叩かれて怪我した日――真優が緊張で震えながら俺の両親に謝罪した日。
俺にとってもおとんとおかんにとっても、衝撃的な日やったから忘れるわけないと思う、けど。
こうも最短距離で彼女を言い当てられると、なんや悔しなってくる。
「せやけど」
むくれ気味に肯定すれば、おとんは「ははあ」と楽しげに声を上げた。
「お前あんときから、あの子のことめっちゃ好きそうやったもんなぁ」
心底愉快そうな声音に、俺の目が点になった。
え? あ……?
そんな感じやったか?
喉がひゅっと音を立て――次の瞬間には捲し立てるように声を上げていた。
「はっ? それマジで言うてる?」
「俺そんな分かりやすかった!?」
思わず声が裏返る。
台所のおかんまで参戦して「分かりやすいっていうか、なぁ?」とおとんに同意する始末。
次の瞬間、おとんと目が合うた。
「顔に書いてあったで」
おとんはおかしそうに笑っとるけど、俺は心臓に水流し込まれて一瞬で胸が冷える。
顔に? 俺の?
「うせやん!?」
勢いよく立ち上がってもうた。
動揺しとるんバレバレ……。
恥ずかしくて死ぬ。いや死なんけど。
顔が熱すぎて、おとんの思うつぼや。
おとんはケラケラ笑って「ええやんか」と続けた。
「そんだけ好きな子なんや! ちゃんと大事にしいや」
もっと茶化されるかと思うとったけど、案外まともなこと言われて、ちょっと肩の力が抜けた。
「わーっとるよ」
真っ直ぐに『大事にせえ』なんて言われたら、そら全くその通りで。
反抗する気すら起きへん。
俺はやれやれと息を吐く。
けど、おとんはなんの遠慮もなしに、俺が薄々感じ取ったことをはっきりと口にした。
「あの子別嬪さんやからなぁ、お前と付き合うててもモテてまうで」
知っとるわ!
そんなんとっくに分かっとるっちゅー話。
クラスの女子らがこそこそ話しとるんは何回も聞いた。
今日かて隣のクラスの奴に呼び出されとったわ!
「……それも分かっとる」
苦々しく応える俺に、おとんはくぎ刺すみたいに続ける。
「ぶれるような子やないから心配はしてへんけど」
「お前が変なやきもちで責めたりしたら分からんからな」
それ言われたら、ぐうの音も出ん。
もしかしたら、無意識のうちに真優に嫌な態度取ったことあったかもしれへんし。
「なんや、もうしたあとか?」
「し、ししししてへんわっ!!」
「ほんまか? あんた顔に出やすいからなぁ」
「おかんまでやめや!」
俺は拳を握ると声にならん声をあげる。
「〜っ! もう頼むからほっとってくれ!!」
言うなり、俺はリビングから逃げ出した。
階段に足を掛けた途端、玄関のドアが開く音が聞こえる。
翔太の「ただいまぁ」という間の抜けた声が響いた。
無視するのは忍びなくて、俺は一瞬足を止めると「おかえり」とだけ言って背を向ける。
「あ、兄ちゃん!」
階段を駆け上がろうとする俺に翔太が声を掛ける。
呼び止められて、思わず振り向いたんが間違いやった。
「真優ちゃんと付き合うたんやろ? 尚に聞いたで」
翔太の暢気な声が続ける。
「よかったなぁ。兄ちゃん」
「真優ちゃんのことめっちゃ好きそうやったもんなぁ!」
なんやその指摘?
弟にまで言われるって……。
え。
俺は全身真っ赤になって吠えた。
「は!? おま……っ! 今その話やめーや!!」
階段を駆け上がり、自室に立てこもる。
背後で家族の笑い声が響いとるけど、知らん!
もう知らん!