12話:木漏れ日のワルツ
真優は慣れた手つきで音楽室の扉を開ける。
途端に校舎の喧騒がすっと遠のき、しんとした空気が迎えてくれる。
窓の外から差し込む春の光が床に柔らかく伸びて、誰もいないはずの部屋には、まだ三年生の残響が微かに漂っとる気がした。
「コンクール前はよう来とったけど……」
音楽室に入るなり真優はピアノに近付き、慈しむようにピアノを撫でた。
「あのときは真優、毎日昼休みに弾いとったもんなぁ」
俺は音楽室の扉を閉めてしみじみと告げる。
一度だけ。
真優のピアノ、すぐ傍で聞きたくて、昼休みにこっそり練習を除きに行ったことがある。
なんでこっそりやったんかってのは、そんとき真優コンクール直前で。
邪魔したなかったからやってんけど……。
結局、練習覗いとんのバレて「中入り」なんて言われたっけ。
ただ、あのとき間近で真優のピアノ聞いて、胸の中があたたかいもので満たされて――真優が愛おしいと思った。
――懐かし。
そっからいろいろあって、今はこうして真優と付き合うてて。
そんな俺の視線に気が付かないまま、真優はピアノにかけられたカバーを手際よく外しながら小さく笑った。
「あれ、コンクール前の日常やさかい」
「何回でも言うけど、頑張りすぎとって心配やった」
ほんま、こいつピアノのことになると、途端に自分のこと蔑ろにするからな……。
口をへの字に真優に視線を送れば、彼女は仕方なさそうに笑って、グランドピアノの屋根を大開口にした。
それから、俺の方を真っ直ぐに見る。
淡い水色の瞳が俺を捕らえて離さない。
「再演しよか」
真優の一言が、春の風に乗る。
途端に校舎の喧騒がすっと遠のき、しんとした空気が迎えてくれる。
窓の外から差し込む春の光が床に柔らかく伸びて、誰もいないはずの部屋には、まだ三年生の残響が微かに漂っとる気がした。
「コンクール前はよう来とったけど……」
音楽室に入るなり真優はピアノに近付き、慈しむようにピアノを撫でた。
「あのときは真優、毎日昼休みに弾いとったもんなぁ」
俺は音楽室の扉を閉めてしみじみと告げる。
一度だけ。
真優のピアノ、すぐ傍で聞きたくて、昼休みにこっそり練習を除きに行ったことがある。
なんでこっそりやったんかってのは、そんとき真優コンクール直前で。
邪魔したなかったからやってんけど……。
結局、練習覗いとんのバレて「中入り」なんて言われたっけ。
ただ、あのとき間近で真優のピアノ聞いて、胸の中があたたかいもので満たされて――真優が愛おしいと思った。
――懐かし。
そっからいろいろあって、今はこうして真優と付き合うてて。
そんな俺の視線に気が付かないまま、真優はピアノにかけられたカバーを手際よく外しながら小さく笑った。
「あれ、コンクール前の日常やさかい」
「何回でも言うけど、頑張りすぎとって心配やった」
ほんま、こいつピアノのことになると、途端に自分のこと蔑ろにするからな……。
口をへの字に真優に視線を送れば、彼女は仕方なさそうに笑って、グランドピアノの屋根を大開口にした。
それから、俺の方を真っ直ぐに見る。
淡い水色の瞳が俺を捕らえて離さない。
「再演しよか」
真優の一言が、春の風に乗る。