10話:涙と笑顔の間で

入試から約一週間――合格発表の日を迎えた。

春の気配が混じる寒い朝、私たちは高校の最寄り駅に集合していた。
合否結果はネットでも見ることは出来るんやけど『こういうのは現地で!』と、謙也くんが言い出して。

私と謙也くん、それから白石くんの三人はお互い頷き合うと、高校に向かって歩き出した。

自己採点をして『きっと大丈夫』と思っとる二人ですら緊張が滲み出とって、口数が少ない。
私に至っては、音は生もの――自己採点すらできず、ただあのときの感覚を信じるしかなかった。

遠目に校門が見えてきたとき、急に謙也くんの足が止まった。
どうしたのかと白石くんと一緒に謙也くんを見れば、青ざめた顔。

「……真優、ちょお見てきて」
「……は?」

予想外の言葉に、思わず変な顔になる。
呆れ、というかなんというか。
白石くんと見合わせ、無言で頷く。

「言い出しっぺが何言うてんの?」
「ほんまお前ヘタレやなぁ」

私たちは笑いながら謙也くんの腕を引き、無理やり前に足を進める。

「ほんま無理無理! ちょお今精神的に無理やって!!」
「知らん! 結果見いひんことには先に進まんやろ!?」
「あほか! なに今更不安がっとんねん!?」

校門をくぐった瞬間、風が春の香りを連れてきた。

掲示板の前には、喜ぶ人、泣く人、さまざまな表情の受験生がすでに集まっている。
私たちは見合わせ、自然と「せーの!」で掲示板に目を向けた。

私は少し離れた音楽科の掲示板に進む。
普通科よりも泣き崩れている人たちが多い。

受験生の三分の二が落ちるんやもんな……。
そらそうよなぁ。

そんな地獄の花道を進んでいると、不意に内緒話のような声が耳に入った。

「あの子、小鳥遊真優ちゃんじゃない?」
「あんな有名な子、この学校受けとったん?」
「学校側がネームバリューで取ったとか」
「ああ、裏口入学的な?」

思わず口を真一文字に結ぶ。

根の葉もない話。
私やって、みんなと同じように受験準備して、指先震えるくらい緊張して受けたのに。
少し有名なだけで、こんな風に言われてしまうのかと悲しくなる。

掲示板にもし私の番号なかったら。
あの子らは笑うんかな。

ため息交じりに掲示板を覗き込むと、不意にうしろから謙也くんと白石くんが肩を組んできた。

「うわっ!」

思わず声を上げると、二人は晴れやかな顔をしとって。
それだけで受かったんやなって分かった。
ただ、私が悲しげな顔をしていたからか、二人は途端に心配そうにこちらを見る。

「え……っと?」
「なんかあった?」

私は首を横に振ると小さな声で「……なんでもあらへん」と続ける。

「まだ、番号見始めたばっかやの」
「真優、何番なん?」

白石くんが音楽科の掲示板を見ながら尋ねる。

「……『03234』」

告げるなり私は再び掲示板に視線を戻す。
私の両隣で謙也くんも白石くんも掲示板に視線を向ける。

しばしの沈黙のあと、私はぽつりと呟いた。

「……あった」

何度も番号を確認してから、衝動的に二人の手を取り、声を張る。

「『03234』、あったよ! 合格や!!」

途端に二人が私を抱きしめた。

「っしゃああああ!!」
「俺の『4014』も謙也の『3210』もあったで!!」

私は顔を上げ、彼らの背中に手を回した。

「やったあああ!!」

三人揃っての合格。
どんなに嬉しいことやろう。

さっきの子たちが「裏口入学」とか言ってたけど……そんなんどうでもいい。
今はただ、謙也くんと白石くんと、これからまた三年間駆け抜けられることが嬉しくて、涙が出そうになる。

桜にはまだ早いけれど、校門の横の蕾は、確かに膨らみ始めていた。
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