10話:涙と笑顔の間で

カランカラン、と音を立てカフェの扉を開ける。
店内を見渡せば、奥の方に見知ったうしろ姿が二つ、並んでいるのが見えた。
小さく笑みを落とすと、温かいキャラメルラテを手にその席へ向かう。

「お疲れさま」

うしろからそっと声を掛ければ、二人が同時にこちらを振り返る。
それから、せかせかと荷物を退け、真ん中の席を空けてくれた。

「お疲れさん!」
「お疲れ!」

腰掛けるなり、思わず口を開く。
「待っててくれたん?」
普通科の入試、結構早よ終わったんちゃう? と、付け加えると、二人は見合わせて笑った。

「ここ着いてから今で一時間半くらい?」
「せやな、そんなもん」
「や、そんなに?」

思いのほか待ってくれていたことに、胸がじんわりあたたかくなる。
「ありがとうな」
私の言葉に、二人の柔らかな笑みが返ってきた。
「同じ学校受けとんのに、置いて帰るわけないやろ」
謙也くんのその一言に、肩の荷がおりた気がした。

――やっぱ、持つべきものは同じ部の仲間やな。

なんて思いながら、キャラメルラテを一口すすると、白石くんが首を傾げて聞いてくる。

「で? どやった?」

私はテーブルにラテを置き、一息ついて呟く。

「緊張でピアノ弾く手震えた……」
「真優が?」
「そう、うちが」

今考えると、情けなくて笑ってしまう。
日本一を決めるコンクールで一位なったときは、こんなことなかったのに。

たかが受験、されど受験――。
緊張で指先まで震えるなんて思いもせんかった。

「めーっちゃ緊張したぁ」

テーブルに突っ伏すようにそう告げれば、二人がようやったと肩を叩いてくる。
ほっと息を吐き、私も少し笑った。

「でも、きっと大丈夫やわ」

そう言い切れば、どちらともなく安堵のため息が聞こえてきた。

こういうのが嬉しかったりするんよな。
一人で抱え込まんでいい空気って言うんかな?
謙也くんだけやなくて、白石くんも。
私のことよう分かってくれとるから甘えてまう。

「二人は? どうやったん?」

私は交互に顔を見比べ、自然に聞いた。
途端に二人の目が少し泳ぐ。

白石くんは頭を掻くとため息交じりに答える。
「まあ、なんとか……」
謙也くんはゆっくり頷いて私をまっすぐ見る。
「……多分、な」

「真優、待っとる間に速報動画で自己採点しとったんよ」

謙也くんが動画サイトを立ち上げ画面を見せてくれる。
今回の入試問題と解答が列挙され、なんなら各問題の解説までついている。

「こんなすぐ速報出るんやな」
私は思わず声を上げた。
「浪速のスピードスターもびっくりの速さや!」
即座に謙也くんのおどけた声が飛ぶ。

昨日の謙也くんの真っ青な顔を知っとるから、この落差に笑ってしまいそうになる。
それから、私は改めて二人を交互に見た。

「その結果?」
「俺も謙也も七、八割って感じや」
「や、余裕やないの!」
「あとは解答欄間違ってへんこと祈るだけやな」

なんとなしに言った謙也くんの言葉に私は「……あー」と微妙な声を上げる。

「謙也くんそそっかしいからなぁ」
「な、俺もそこが心配やねん」

白石くんが私の言葉に同意して……謙也くんが面を食らったような表情を浮かべた。
それから、手で顔を覆いぽつりと呟いた。

「怖なること言わんといてくれや……」

その顔に、我慢できんくなって私はふはっと吹き出した。
笑いが伝わったのか、二人の顔にも笑みが浮かぶ。

あとは結果を待つのみ――。
結果は怖いけど、私たちならどんな結果でも笑い合えそうやな、なんて。
緊張から解放された胸がじんわりあたたかくなった。
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