10話:涙と笑顔の間で

カリカリと鉛筆を走らせる音が静まり返った教室に響く。

第一志望の受験当日。
私は目の前の問題と答案用紙に視線を落とした。

問題はいわゆる『楽典』と呼ばれる、音楽基礎知識を問う――音楽科入試ではお決まりの試験。
五教科の答案とは違い、紙面いっぱいに五線が走り、音符や記号が並んでいる。

約九十人の受験生が三十席の音楽科の席を奪い合う。

前の方の席には、同じくピアニストで幼馴染の淡路華南ちゃんと瀬戸孝太郎くんの姿もある。
彼らもまた、必死に鉛筆を走らせていた。

――これならいけそう……。

今までプロピアニストとしてやってきた自負がある。
読み込んだ譜面は数しれない。

ひとまず、筆記はいける。
そう確信して、次に控える聴音・新曲視唱・実技試験を見据える中――ふっと、思考が別の方に向いた。

謙也くん、大丈夫やろか……。
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