9話:The Warmth Between Us.

地元の駅に着いて改札を抜けたところで、不意に謙也くんが足を止めた。
私がどないしたん? と聞く前に、謙也くんが口を開く。

「真優、もうちょいだけ時間あったりする?」

そんなこと言われるとは思っていなくて、私は数回瞬いたあと、首を縦に振った。
「うちは平気やけど……」

その返事を聞いた瞬間、謙也くんは柔らかく笑った。

「ほな、ちょい寄り道しよ」

そう言うなり駅直結のショッピングモールへ足を向けた。
なんやろ? と首を傾げながらついて行くと、彼は真っ直ぐ雑貨店へ入っていき――迷いなく赤い革の手袋を手に取って、レジに並んだ。

「え?」

謙也くんは唖然としている私の前でタグを切ると、すぐ使えるようにしてその手袋を差し出してくる。

「どこ行ってしもたんか分からんけど……必要やろ?」
「真優、ピアニストなんやから」

照れくさそうに頭を掻く謙也くんと、手のひらに乗った赤い手袋を交互に見つめる。
手に乗せられた手袋は、指先がすべすべしていた。
胸の奥がじんわり熱くなって、思わず満面の笑みがこぼれた。

――こんな幸せ、あってええんやろか。

この手袋は、きっと謙也くんのぬくもりそのもので。
傍におってくれるんやったら、そんなん百人力やん!

「ありがとう! これで受験、頑張れる!」
「もうどこにも行かんように、ちゃんと見張っときや」

笑いながら発せられる声が優しくて、あたたかくて。
喉の奥がきゅっとした。
気付けば、目じりが少しだけ滲んでいた。
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