9話:The Warmth Between Us.

夕刻の梅田はにぎわっている。
制服姿の奴もようさんおるし(俺らもその一部やしな)、大学生っぽい人らもたくさん。

そんな人波をぬって、商業ビルの隙間を抜けていく。
吹き込む北風に煽られて、すっかり目を覚ました真優が「寒っ!」と首を縮こめた。

「さっきまで寝こけとったから余計やろな」

悪戯っぽくそう告げれば、真優は目を丸くして――それから、申し訳なさそうに眉根を寄せる。

「えっと……怒ってる?」

不安げな彼女に俺はふはっと吹き出した。「全然!」

「ただ、マイペースやなぁって思っとるだけ」

実際、そのマイペースさに救われとったりする。

俺、どうしても速さにこだわってまうからさ。
受験勉強も速く、速くって思うてしまうねんよ。
やけど、こういうのって結局コツコツやらな力にならんやん?

ピアノに向き合う真優見とったら、ほんまにそう思う。
毎日コツコツ小さなこと積み上げて、ピアニストの小鳥遊真優が出来上がっとるんやなって。

やから、俺も。
速さに全くこだわらんことはできへんけど、じっくり頑張ろうって。

「ごめんて」
俺がそんなこと考えとるなんて思いもせえへんのやろな。
真優は口では謝罪しつつも、鞄の中がさごそと探っとる。

大方、寒いから手袋でもしよー、とかそんな感じやろ?
ほんま、自分のペースで物事動いとるな……。

真優が首を傾げた。
「あれ?」っちゅー小さな声つき。
俺は真優を見ると「ないん? 手袋」と聞いてみた。

「朝はいたんやけど……お出掛けしてもうたみたい」

お出掛け、なぁ。
その言葉のチョイスが真優らしい。
意地でも『落とした』って言わん当たり、徹底した受験生しとるな、なんて心ん中がくすぐったくなってくる。

それでも、気に入りの手袋だったのか、口を尖らせしょんぼりと顔を曇らせる真優に、俺は「しゃーないな」と、手袋を片方渡した。

「! これ謙也くんのやん」
「真優手ぇ冷たそうやし。ないよりマシやろ?」
「ありがとうな」

そう受け取って手にはめた俺の手袋は真優には大きくて。

「あはっ! 大きいなぁ」
「まあ、俺のやしな」
「そやね。ふふっ、半分こ?」
「俺かてなんもないんはさぶい。やから残りはこっち」

俺はそう言うなり、手袋をしてない方の手を取ってぎゅっと繋いだまま、自分のジャケットのポケットに入れた。
瞬間、真優の目が見開かれた。かと思えば、俺から目逸らして頬を赤く染めて。

「……こういうん、少女漫画とかで見たことある」

多分照れ隠しの軽口。
その様子に、俺は思わず笑って「俺も見たことあるわ」と返した。

「……っちゅーか、真優ほんま指冷たっ」
「冷え性やの」

真優が肩をすくめる。
俺は真優の手、包み込むように握り直した。

「この方がぬくい?」
「そやね。あったかい」
「俺、体温高めやからなぁ」
「謙也くん、人間湯たんぽや!」

そんなしょーもないこと話しとったら、さっきまでむっちゃ寒かったんに、なんや心がホカホカしてきよった。
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