9話:The Warmth Between Us.

たった数駅。
その短い時間ですら、今の俺と真優にとっては貴重で。
久々の二人きりの時間に胸があたたかくなる。

ふっと、肩に体重が掛かった。
途端に心臓が一拍強く跳ねる。

あんまり動かんように横目で見れば、真優の瞳が安心したように伏せられとって――。
時折、どうにか起きようとまぶたを持ち上げようとしとるけど、すぐにとろんと下がって閉じてしまう。

外寒かったんに、電車ん中ぬくいもんなぁ。
そら眠なるか。

俺は小さく笑うと、真優の腕を引き完全に俺にもたれ掛けさせた。
「寝とってええよ」
そっと囁いて手を握れば、返事をするように小さく握り返された。

――可愛ええやっちゃな。

俺のこと信頼して、身体預けてくれとるんやろ?
そんな嬉しいことないで。

けど……と、寝顔見ながら、ふと思う。
真優のまぶたは、冬の午後みたいに重そうで。

こいつ、最近ちゃんと寝てるんやろか。

夏のコンクール前、真優は睡眠時間削ってピアノの練習しとった。
その結果、部活中にぶっ倒れて――あんときは心臓止まるかと思った。
大袈裟かもしれんけど、真優んこと失うんちゃうかって、怖くてしゃーなかったんよな。

このまま目ぇ覚まさんかったらどないしよう、なんて。

今やから言えるけど、あの出来事は俺ん中で結構なトラウマになってたりする。

ピアノ絡むと自分のこと顧みいへんからなぁ。

ため息が漏れ出る。
まあ、今のところあのときほど濃いクマは刻まれてへんから、ある程度寝てはいるんやろけど。

そんなことを考えているうちに『大阪梅田~』と電車のアナウンスが入る。
俺は繋いだままにしている真優の手をぎゅっぎゅと握り「真優」と呼び掛けた。

「真優、もう着くから起きや!」

真優のまぶたが持ち上がって「……ん」と小さな声がこぼれた。眠そうに目こすっている。
そんな彼女の行動があどけなくて、俺は穏やかな笑みを浮かべると「おはようさん」と、からかい口調で続けた。

「せっかくのデートやのによう寝とったな?」
そう告げれば、真優はへにゃりと笑って俺を覗き込む。
「電車あったかくて……つい」

電車の扉が開く。
冷たい風が一気に車内に吹き込んで――俺はまだ覚醒しきっていない真優の手を引いて、梅田の街に降り立った。
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