8話:雪の口づけ

なんの苦もなく身体を起こす謙也くんに、私はいつの間にか足の間に座らされていた。
謙也くんはなんてことなさそうに、あちこちに積もった雪を丁寧に払ってくれとる。

……なんやの。
そんな簡単に起き上がれたん。

そんな考えが顔に出ていたのか、謙也くんは小さく笑って言った。
「部活は引退したけど、そんなやわやないっちゅー話や」
「ほんなら、すぐ起きてくれてもよかったやん」
「んー? そら無理」
「……なんで」

口を尖らせながら、私は謙也くんの頭に降り積もった雪を払いのける。
謙也くんはくすぐったそうに笑って、耳元で囁いた。

「あんな赤なった真優、なかなか見られへんからな」

その一言に、私は再び顔を真っ赤にして耳を押さえる。
目を白黒させる私を横目に、謙也くんは立ち上がり、手を差し出した。

「もう、ふざけたらあかんで」

謙也くんはそう言うけれど。
私は彼の手を取って立ち上がると、むうっと頬を膨らませた。

「先にふざけ始めたん謙也くんやん」
「ま、こんだけ雪降ったらはしゃぎたくなるよなぁ」
「言うてること矛盾しとるけど?」
「ええやん。こういうんは思い切りやるんが一番楽しい」
「……あっそ」

お互い笑いながら、制服の雪を払い落とす。
寒いはずやのに、心はあたたかくて。

謙也くんの手を取った。
謙也くんの優しい笑顔と共に、その手がそっと私の手を包み込む。

――こんな雪の日も悪くない。
そう思わせてくれる謙也くんが、やっぱり大好きや。
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