8話:雪の口づけ

この日、大阪に雪が降った。
登校の時間帯からどんより分厚い雲に空は覆われとって、驚くくらいの底冷え。

不思議な天気やなぁ、なんて考えとったら、二時間目が始まると同時に、大きなぼたん雪が舞い落ちて。

やから受験一色の中学三年生の私たちですら、授業そっちのけで窓の外に目を奪われてしまう。
先生ですら「よう降るなぁ」なんて、物珍しそうに言うとるねんもん。

そういえば、京都に住んどったときは、毎年一回はドカ雪があったなぁ。

そんなことを思い出して、私は机に頬杖をついた。
朝から結構体力奪われるんよね、あれ。

そうぼんやりしていると、不意に私の机の端にどんっと手が置かれた。
驚いて見上げると、隣の席の男の子が立ち上がって、勢いよく手を上げていた。

「先生! 授業五分だけ中断しましょ!」
「こんな雪、滅多にないですよ!」

先生はため息を吐きながら窓の外を見やって、しゃーなしみたいに「五分だけやで」と告げる。
瞬間、彼が「っしゃ!」と私にハイタッチを求めてきて――けれど、それは代わりに謙也くんの手とぶつかった。

「はいはい、せやな。ラッキーって感じやわ」

むくれ声を上げる謙也くんに、彼はぎょっと見開いて苦笑いをした。同時に私は視線を上げて瞬く。

「げ、謙也」
「謙也くん、何してんの?」

ほぼ同時に私たちは声を上げる。
謙也くんは私の席の後ろに立って、彼を牽制するように見ている。

「ええやん、これくらい。隣の席の奴と分かち合ったって」
「お前の提案はグッジョブやけど、あかん」

しばらく二人は視線を交わしたあと、彼の方がため息交じりに苦笑を漏らした。

「お前、ほんま小鳥遊のことばっかやな」
「……好きに言えや」

そのやり取りに私は呆れつつ、クラスメイトと一緒になって窓の向こうの景色に目を向ける。
外ではぼたん雪が降りしきっとって。

京都でめっちゃ積もったときも、こんな降り方しとったなぁ。
おっきな雪が、次から次へと……。

そこまで考えて、私はふと息を飲む。
――これ、めっちゃ積もるかもしれへん。
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