7話:冬空に手を繋ぐ

「塾、どんな感じなん?」
道すがらふと気になって尋ねてみる。
そうすれば謙也くんは宙を見上げたあと「うーん、学校の延長っちゅー感じ」と続けた。

「ほんまもう一個の学校みたいな」
「なんや学校のあとに学校って変な感じやな」
「まあなぁ。ただ、こんな受験直前に塾入る奴なんて珍しいから『なんでなん?』とか『どこ受けるん?』とかって尋問されとるわ」
「……難儀やな」

私は思わず眉間に皺を寄せる。
そら、こんな時期から進学塾に行き出すなんて珍しいかもしれへんけど。
謙也くんU-17日本代表候補合宿にお呼びがかかるすごい選手やねんもん。しゃーないやん。

そんな考えが顔に出ていたのか、謙也くんは小さく笑うと「なに?」とからかい口調で続ける。

「心配してくれとんの?」
「そういうわけやないけど」

あんまりにも愉快そうに聞いてくるもんやから、思わず否定してしもた。

ほんまは心配しとるのに。

ただ、謙也くんはお見通しなんやろな。
穏やかにほほ笑んで私の頭を数回撫でる。
「おおきにな」
思わず頬を染め俯いたとき、不意に「忍足やん」と声が掛かった。

謙也くんはその声の方を振り返ると、何てことなさそうに「おー、お疲れ」と告げる。
同じように振り返ってそちらを見れば、ブレザーにマフラーを巻いた男の子が立っとった。目がぱっちりした、いかにも人懐っこい顔の子。
謙也くんに視線を送れば「塾の奴」と端的な返事。

「は? 隣の子は?」

その子は私を視界に納めると、目を丸くして謙也くんに問う。
謙也くんは当たり前と言った口調で「彼女」と短く答えた。

「マジで? 忍足のくせに?」
「いや、どういう意味やねんそれ。意味分からんわ」
「やって忍足やで? えっ?」
「お前、マジで失礼よなぁ……」

謙也くんは呆れ口調で頭を掻く。

その子は首を傾げるとふっと視線を私に向けて「名前なんて言うん?」と聞いてきた。

私は数回瞬いてから「小鳥遊、真優言います」と告げる。
瞬間、その子は大きな声を上げた。

「はああ!? 声まで可愛ええ! なんでやねん!?」

あまりに大きな声に思わず肩を揺らしてしもた。

「忍足にこんな可愛ええ彼女いるとか知らんやん!」
「彼女おることは言うとったやん」
「いや、可愛ええまで必要やろ! くっそ、なんや負けた気分やわ……」

ほんま学校みたいな掛け合いやな。

私は小さく吹き出す。
「相変わらずやな」
おかしくなってきて――ただ、塾の友人の手前大きく笑うことも憚られて。

私は謙也くんの腕に隠れるようにして肩を震わせる。
そうすれば、頭上から謙也くんのため息が降って来た。

「……やから、彼女可愛ええって言うん嫌やったんよ」

小さな声でぽつりと呟かれた言葉の意味を計りかねて、私は「ええ?」と謙也くんを見上げる。

視線の先の謙也くんは、厄介そうな表情で塾の友人を見ている。
よう分からんなと、その子を見れば、なんでか頬をほんの少し染めて、私を見ていた。
私が訝しげに小首を傾げれば、その子の頬がさらに赤くなる。

いや、どっちも意味分からんのやけど。

謙也くんは私の手をきつく握り直し、やれやれと告げる。

「俺の彼女可愛ええから、軽率にときめく奴出てくんねんよ。そういうん嫌で言うてへんかったんや」

吐き捨てるように謙也くんは続けた。
「ほんなら、俺らもう行くな!」

足早にその場を去ろうとする謙也くんに私は小声で「ええの?」と訊ねた。
そうすれば、謙也くんの視線が向けられて「ええの」とほんの少し拗ねた声が返ってくる。

「久々のデートなんやから、時間大切にしたいやん」

当然のように告げられる言葉に胸の内があたたかくなる。

――なんや。
謙也くんも楽しみにしてくれとってんな。

私は柔らかにほほ笑むと「そやね」と謙也くんの腕にすり寄った。
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