6話:雨に染まる吐息

真優は「や、ごめん」と小さく鼻をすする。
「ちょお冷えてもただけ」

よう見たら鳥肌立っとるし。
秋の終わりに髪の毛絞れるくらい濡れて、ってしたらそら寒いやんな。
特に女子の制服なんてスカートやし。
俺は学ランを脱いで渡す。

「俺ので悪いけど、ないよりマシやろ」

幸いにも内側は濡れとらんし、雨が止むまで上に羽織っとく分には問題ないはず。

真優は俺と学ランを交互に見て、数回瞬く。
それから「ありがとう」と受け取り――それでも、少し申し訳なさそうに眉根を寄せる。

「……着たら、内側濡れてまうけど」
「そんなん構へんよ。真優が風邪ひかん方が大事」
「そお?」

俺はふはっと吹き出した。

「せやせや。学ランは乾かせばええだけの話やろ」

真優の不安を笑い飛ばせば、彼女は今度こそ口角を上げて「ありがとう」と、学ランに袖を通した。

しょーもないこと気にして、ほんまあほやな。
なんて考えつつ、にしても雨止まんな、と軒先の雨を睨みつける。

しばらくすると、ふっと隣から笑い声が聞こえてきた。
なんやおもろいことでもあったんか、と視線を真優に向けた瞬間、俺の心臓が一拍、強く脈打った。

真優が俺の学ランを着ている――おかげで、制服の張り付きが隠されて、目のやり場に困ることはなくなった。
やけど――。

「うわぁ、おっきいなぁ!」

たかが上着の学ランがでかい。でか過ぎる。
そら当たり前に肩幅違うし、体格もちゃうって分かっとったけど。

袖から手は出えへん。
裾やってギリギリ女子制服のスカートが下に覗く程度。

いや、そら……。
小さいのは分かっとったけど、こんな違う?

否応なしに体格差を意識させられてしまって、俺は口を真一文字に結んで固まった。

それだけやない。
学ラン着たからって真っ直ぐ真優を見たのが、間違いやった。

雨に濡れて頬に張り付いた髪の毛。
冷えて白さを増した肌。
淡い水色の瞳を囲む長いまつげが潤んで――。

――綺麗や。

偶然の賜物っちゅー色香に心を持っていかれそうになる。

真優はそんな俺の心情に気付くわけもなく、無言で固まる俺に笑い掛ける。
それから、シャツの裾をちょいちょいと引っ張って、そっと耳打ちした。


「うち、学ラン借りるんなら謙也くんの以外嫌やわ」


その言葉で、完全に抑えが効かんくなった。

そんなん言われたら、止まれんやろ。
俺は衝動のまま真優を抱き寄せ、腕の中に閉じ込める。

「うわっ!」
「~っ! お前なぁっ! そういうの、簡単に口にすな!」

頬に手を添え、勢いのまま唇を重ねた。
触れた瞬間、真優が小さく「え?」と呟いた気がしたけど、その声が震えて、俺の理性がかき消された。

唇の温度、胸に添えられる手、頬に差す赤み――全部が愛おしい。
何度も角度を変えながら口付けを落とすたびに、もっと、もっとと真優を求めてしまう。

――ああ、ほんま可愛ええ……。

あまりの愛らしさにキスの合間に吐息がこぼれる。

吐息の合間に潤んだ瞳と目が合った。
息を呑む音が、雨音にまぎれて消えていく。

俺は真優の髪を梳くと、今度は深く口付けた。
瞬間、真優の手が驚いたように俺のシャツを掴んで――。

真優がどんな表情しとるか確認したくて、そっと薄目を開ける。

まぶたを伏せ俺の衝動を受け入れる真優が目に入った。
頬が赤くて、目じりに生理的に浮かんだ涙が滲んどって。
舌を絡ませれば、たどたどしく応えようとしてくる姿がいじらしい。

「……んっ」

不意にこぼれた声に心臓が爆ぜて、もっと欲しくなってしまう。

――真優を独占したい。

そう心では願うけれど、これ以上はあかんと、どっかに行っとった理性が俺に訴えかける。
このまま続けとったらほんまに止まれん。

俺は理性を総動員して唇を離した。
途端にもたれかかってきた真優は、頬を赤くしたまま、息絶え絶えに悪態をつく。

「……あほちゃう?」

その言葉に力はなくて、むっと睨む顔も、小動物の威嚇にしか見えんで。
「煽った自分のせいやで」

そう囁いて頭を撫でると、真優は「もう知らん!」と顔をうずめてくる。

――ほんまこいつ、愛らしいて敵わん!
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