5話:Two Pianos, One Voice.

関係者入り口の扉を開けて、一歩足を踏み入れた瞬間、静けさが全身を包む。
ホールの客席にはまだ人影はなくて、柔らかい照明が明転と暗転を繰り返していた。
遠くから、ぽつりぽつりとピアノの響きが聞こえてきて、ふっとそちらに視線を向ける。

「調律しとるんよ」

すぐ傍からふわりと降ってくる真優の声。
振り返れば、本番の高揚感に期待を膨らませた表情で俺を見とる。

舞台の方から、この演奏会にかかわる人たちの呼吸や「急げよー!」という張り上げた声が響いて。
人が動くたびに、舞台袖の埃がわずかに舞った。

息を潜めて立っとると、まるでここだけ時間が早巻のように流れとるみたいや。

真優はすれ違うスタッフ一人一人に深々と頭を下げる。

「おはようございます」
「今日はよろしゅうお願いします」

慣れた様子で『小鳥遊真優様』と張り出された楽屋の扉を開け中へ入ると、真優はふぅっと一つ息を吐いた。

「なんや演奏会の裏側ってこんな感じなんやな」

俺は真優の荷物を置きながら、思わず口にする。
そうすれば真優は「結構バタついとるやろ」と、ゆるりと笑った。

今日、俺はピアニスト小鳥遊真優の関係者として付き添っている。
なんでこんなことになっとるかっちゅーと、話は数日前までさかのぼる。
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