4話:手のひらの上で
後日、東京にて。
東京公演を終えた私は、侑士くんとちょっとおしゃれなカフェにいた。
あの電話のあと、どうにか謙也くんを説得して、侑士くんの連絡先を教えてもらったのが昨日のことみたい。
実際会うてみると、侑士くんの方が、落ち着きがあってスマートではある。
同じ学校にいたら、多分侑士くんのほうがモテるな。
「なあ、侑士くん」
私は食べ物を咀嚼し終えると、対面に座る侑士くんに呼び掛けた。
「どないしたん?」
侑士くんの瞳が私を捕らえる。
瞳に映り込んだ私は、なんとなく怪訝そうな表情を浮かべていて、侑士くんもそれは、それは不思議そうに私を見ている。
なんやねん? って声が聞こえてくるみたい。
私は少しだけ口を尖らせて話し始める。
「こないだテレビ通話したやん?」
「せやな」
「あのとき、なんて言われてお家遊びに行ったと思う?」
「さあ。なんや普通に『遊びきいや』とかちゃうん?」
侑士くんは一瞬宙を仰いだあと、これ以外ありえへんやろ、と息を吐きながら当たり前みたいに問い返した。
――やっぱ、普通の感覚ってそうやんな!
心の中でそんなことを思いつつ、私は遠い目をして言葉を紡いだ。
「『ハヤブサの脱皮見に来い』言われてお邪魔してんよ」
途端に、侑士くんは飲んでいた水を吹き出した。
慌てて「すまん!」って言われたけど。
まあ、そういう反応になるやんな。
うちも何も知らんと今の聞かされたらそうなる。
私は少しだけ濡れてしまったテーブルの上を、侑士くんと一緒になって拭く。
やけど、ずっと侑士くんの肩が震えとって。
多分、めっちゃ笑いたいの堪えとるんやと思う。
「笑い過ぎちゃう?」
「いや、あいつあほ過ぎやろ」
「やっぱ、あほの子やんなぁ」
周囲が整ってようやく息を吐く。
新しいお水をもらってから、私はおもむろに口を開く。
「別に理由つけんでも『おいで』言われたら行くやん?」
「せやな」
「うちそこまでハヤブサの脱皮に興味ないし」
「やろな」
相槌を打つ侑士くんは笑いを堪えるのに必死って感じで、口元を手で隠している。
いや、笑うてくれてもええで。
改めて言葉にしとる私やっておもろいもん。
ほんま、あほやなって。
まあ、ここまでは前置きの話。
私はあの日のことを思い出して、少しだけ熱くなった頬に気が付かないふりをしながら、頬杖をついて侑士くんから視線を逸らす。
「……それに謙也くんデレデレやん?」
私のむくれた声が、カフェのBGMにかき消される。
侑士くんは、はたっと笑うのを止めると「ん?」と声を上げた。
「ああ、イグアナに?」
侑士くんの確認まがいの問い掛けに私は「そう」とぶっきらぼうに返す。
彼は感情を探るように私を見たあと、やれやれと口を開く。
「まあ、気持ち悪い猫なで声で愛でとるときはあるな……」
今度は私が吹き出す番やった。
「気持ち悪いって」
今しがたのむくれも、不貞腐れ具合も、どこかに飛んで行ってしまうくらいの破壊力があるワードに、お腹を抱えて笑ってしまう。
私の爆笑に気をよくしたのか、侑士くんは小さく咳払いすると、にやりと口角を上げた。
「『お前は可愛ええなぁ』みたいな」
侑士くんの口から謙也くんを模した声が出る。
それも気色悪さ増し増しにした、悪意マックスの声真似。
ひぃひぃ笑い転げる私に向かって侑士くんは、ため息交じりに頬杖をついた。
「お前どっからその声出してんねん? ってな」
「ゆ、侑士くんもな……っふ、あはは!」
侑士くんは私のちょっとしたやきもちを見抜いたんやと思う。
やから、あえて笑わせてくれたんちゃうかな?
侑士くんは、小さく息を吐き出すと改めて「ほんで?」と聞いてきた。
「自分は何にそんなご機嫌斜めになっとったん?」
「なんや気に食わんやん? うちとおるときまで、デレデレせんでよくない?」
私は肩の力を抜くと、ほんのちょっとむくれた表情をわざと作って、侑士くんをじぃっと見た。
そうすれば、侑士くんはふっと吹き出して柔らかな視線を向けてくる。
「なんや、随分可愛らしい嫉妬やな」
「……やろ? うち可愛いねん」
侑士くんに謙也くんの惚気話聞かせるって変な感じ!
そう思うけれど侑士くん、嫌な顔せんと聞いてくれるから、本当は隠したい小さな嫉妬まで口にしてしもた。
向けられた侑士くんの瞳に、わずかに謙也くんと同じ色が乗る。
――あ、やっぱ従兄弟なんやな。
そんな気付きが秋風に乗った。
東京公演を終えた私は、侑士くんとちょっとおしゃれなカフェにいた。
あの電話のあと、どうにか謙也くんを説得して、侑士くんの連絡先を教えてもらったのが昨日のことみたい。
実際会うてみると、侑士くんの方が、落ち着きがあってスマートではある。
同じ学校にいたら、多分侑士くんのほうがモテるな。
「なあ、侑士くん」
私は食べ物を咀嚼し終えると、対面に座る侑士くんに呼び掛けた。
「どないしたん?」
侑士くんの瞳が私を捕らえる。
瞳に映り込んだ私は、なんとなく怪訝そうな表情を浮かべていて、侑士くんもそれは、それは不思議そうに私を見ている。
なんやねん? って声が聞こえてくるみたい。
私は少しだけ口を尖らせて話し始める。
「こないだテレビ通話したやん?」
「せやな」
「あのとき、なんて言われてお家遊びに行ったと思う?」
「さあ。なんや普通に『遊びきいや』とかちゃうん?」
侑士くんは一瞬宙を仰いだあと、これ以外ありえへんやろ、と息を吐きながら当たり前みたいに問い返した。
――やっぱ、普通の感覚ってそうやんな!
心の中でそんなことを思いつつ、私は遠い目をして言葉を紡いだ。
「『ハヤブサの脱皮見に来い』言われてお邪魔してんよ」
途端に、侑士くんは飲んでいた水を吹き出した。
慌てて「すまん!」って言われたけど。
まあ、そういう反応になるやんな。
うちも何も知らんと今の聞かされたらそうなる。
私は少しだけ濡れてしまったテーブルの上を、侑士くんと一緒になって拭く。
やけど、ずっと侑士くんの肩が震えとって。
多分、めっちゃ笑いたいの堪えとるんやと思う。
「笑い過ぎちゃう?」
「いや、あいつあほ過ぎやろ」
「やっぱ、あほの子やんなぁ」
周囲が整ってようやく息を吐く。
新しいお水をもらってから、私はおもむろに口を開く。
「別に理由つけんでも『おいで』言われたら行くやん?」
「せやな」
「うちそこまでハヤブサの脱皮に興味ないし」
「やろな」
相槌を打つ侑士くんは笑いを堪えるのに必死って感じで、口元を手で隠している。
いや、笑うてくれてもええで。
改めて言葉にしとる私やっておもろいもん。
ほんま、あほやなって。
まあ、ここまでは前置きの話。
私はあの日のことを思い出して、少しだけ熱くなった頬に気が付かないふりをしながら、頬杖をついて侑士くんから視線を逸らす。
「……それに謙也くんデレデレやん?」
私のむくれた声が、カフェのBGMにかき消される。
侑士くんは、はたっと笑うのを止めると「ん?」と声を上げた。
「ああ、イグアナに?」
侑士くんの確認まがいの問い掛けに私は「そう」とぶっきらぼうに返す。
彼は感情を探るように私を見たあと、やれやれと口を開く。
「まあ、気持ち悪い猫なで声で愛でとるときはあるな……」
今度は私が吹き出す番やった。
「気持ち悪いって」
今しがたのむくれも、不貞腐れ具合も、どこかに飛んで行ってしまうくらいの破壊力があるワードに、お腹を抱えて笑ってしまう。
私の爆笑に気をよくしたのか、侑士くんは小さく咳払いすると、にやりと口角を上げた。
「『お前は可愛ええなぁ』みたいな」
侑士くんの口から謙也くんを模した声が出る。
それも気色悪さ増し増しにした、悪意マックスの声真似。
ひぃひぃ笑い転げる私に向かって侑士くんは、ため息交じりに頬杖をついた。
「お前どっからその声出してんねん? ってな」
「ゆ、侑士くんもな……っふ、あはは!」
侑士くんは私のちょっとしたやきもちを見抜いたんやと思う。
やから、あえて笑わせてくれたんちゃうかな?
侑士くんは、小さく息を吐き出すと改めて「ほんで?」と聞いてきた。
「自分は何にそんなご機嫌斜めになっとったん?」
「なんや気に食わんやん? うちとおるときまで、デレデレせんでよくない?」
私は肩の力を抜くと、ほんのちょっとむくれた表情をわざと作って、侑士くんをじぃっと見た。
そうすれば、侑士くんはふっと吹き出して柔らかな視線を向けてくる。
「なんや、随分可愛らしい嫉妬やな」
「……やろ? うち可愛いねん」
侑士くんに謙也くんの惚気話聞かせるって変な感じ!
そう思うけれど侑士くん、嫌な顔せんと聞いてくれるから、本当は隠したい小さな嫉妬まで口にしてしもた。
向けられた侑士くんの瞳に、わずかに謙也くんと同じ色が乗る。
――あ、やっぱ従兄弟なんやな。
そんな気付きが秋風に乗った。