4話:手のひらの上で

侑士くんは「ええように言われとるなぁ、謙也」と笑いを飲み込むと、視線を私に向けた。

「なあ、真優ちゃん近々東京来るタイミングあるん?」

不意にそんなことを尋ねられ、私は数回瞬く。
予定を思い出すように宙を見て「えっと」と続けた。

「来週行くけど、なんで?」

途端に侑士くんがにやりと笑みを深める。
何か企んだような悪戯な顔をして口を開いた。

「ほんなら、俺とデートしよ。謙也の愚痴聞くわ」
「ちょっ!? はああああ!?」
「こんなうるさい奴放っといて、ええカフェとか」
「おまっ……ええ加減にせぇよ! 侑士いぃ!!」

間髪入れずに声を荒げる謙也くんに、私はさすがに笑たらあかんかも、と飲み込むけど。
「んっふ」なんて、飲み込み切れんかった息が漏れ出た。

侑士くん堂々とし過ぎやし、謙也くん怒り過ぎや。
肩を震わす私をしり目に、謙也くんは捲し立てる。

「真優は俺の彼女やって、お前分かってるか!?」
「分かっとるわ」

侑士くんはにやけ顔のまま続けた。

「やから、お前の目の前で誘っとるんやん」
「そうやない! 誘うな言うてんねん! 分からん?」
「ええやん、誘うくらい。俺かて謙也抜きで真優ちゃんと会うてみたいわ」

侑士くんはわざとため息をついて肩をすくめる。

「目の前で誘ってんねん。せめてもの誠意やろ」

侑士くんの言葉に一瞬納得しかけた謙也くんが、スンっと表情を無にして淡々と告げる。

「いや、誘うなや」

侑士くんの視線が呆れに変わる。
同意を求めるように私を一瞬見たかと思えば、すっと謙也くんに向き直った。

「ほんま、お前ちっちゃいな」

すっと空気が冷え込む。
謙也くんの目が点になって「ちっ……ちっちゃ……」と小声で呻いた。

その様子がほんまにショックを受けとるみたいで、ちょっとの風が吹いたら消えそうなろうそくみたいな雰囲気やって。

彼女の目の前で器が小さい、なんて言われたら。
謙也くんにしたら堪ったもんやないよね。

そうは思うけれど、笑いを禁じ得ない。
腹筋がプルプルしとる。

笑ったらあかん、とは思うのに、謙也くんの独占欲や嫉妬心が見え透いて胸の中がくすぐったい。

同時に露骨過ぎる態度が可愛いと思ってしまう私は、自分で思っているよりもずっと謙也くんが好きなんやと思う。
やけど、私の我慢はもう限界で。

「あっはは!……はぁ、ほんまおもろ……」

謙也くんに対し若干の申し訳なさを感じつつ、私は笑い声をあげた。じわりと笑い泣きの涙が滲む。

ひとしきり笑い終えてから、私は侑士くんを見て「ええよ」と続けた。

「侑士くん、今度東京行ったときごはん行こ」

私がオッケーを出すなんて全く思ってなかった謙也くんは、今度こそ本当に消えそうな声で「ま、真優……?」と唖然としている。
私は謙也くんを見て、それから侑士くんに向き直って柔らかくほほ笑んだ。

「謙也くんの惚気聞いて!」

告げた瞬間、侑士くんは目を丸くして私を凝視する。
それから、数秒もしないうちに口元に手を寄せてふっと笑った。
同時に謙也くんの表情がぱっと明るくなる。

「真優!!」

その態度の豹変ぶりに私は自然と口角を上げた。

――謙也くん、頭の上にお花咲いてるみたい。

「惚気話やったらしゃーないな」とか言うてるし。
どちらともなく侑士くんと目配せを送り合う。
多分言いたいことは一緒。

「ほんま自分、分かりやす……」

ぽつりとこぼされた侑士くんの言葉に、私はふふっと笑った。

「な? 可愛ええやろ?」
「自分も上手いこと謙也手のひらで転がしとるな」
「あはは」

転がしとるつもりはないけど、謙也くんが分かりやすいんはほんま。
私の行動とか、言動とか。
そういうの一つでコロコロ表情が変わって。

私が嬉しいときは、一緒に喜んでくれるし、楽しいときは笑ってくれる。
悲しいときは寄り添ってくれて、なんだったら私の代わりに怒ってくれたりもする。

私は穏やかに目を細め、はっきり言い切った。

「うち、謙也くん大好きやさかい!」

言い切った瞬間、繋いだ手を謙也くんが強く握った。
返事はそれだけで十分やった。
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