4話:手のひらの上で

数コール後、侑士くんが出た。

面倒くさそうな顔しとったのに私も一緒やと分かると、一瞬でよそ行きの顔になって「謙也、それに真優ちゃんも」と言ってくる。

――侑士くんも結構分かりやすいよな。

なんて思いながら「侑士くん久しぶり」と返した。

「ほんまやで。元気やった?」
「それなりに。忙しいけど元気にやっとるよ」
「何よりやわ。謙也がよう真優ちゃんの話しとるから、気になっとってんよ」
「そうなん」

いろんなところで、うちの話してるねんな。
なんて、私は隣の謙也くんを盗み見る。

謙也くんは、ほんの少し頬を赤くしつつも、それでも不機嫌の表情は崩さず画面の向こうの侑士くんをむっと見ている。
「それや……」
呟いたあと、一気に息を吸い込んで声を張った。

「お前、侑士!」
「なんで真優んこといきなり名前で呼んでんねんよ!?」

画面の中でぎょっとする侑士くん。
堪え切れず、吹き出す私。
顔を真っ赤にして憤慨する謙也くん。

侑士くんはなんとなく状況を察したようで、口元に手を添えるとふっと笑い、したり顔になって続けた。

「なんでて……謙也イラつかせたろ思て、呼んでたでぇ」

あ、クリーンヒットや。
謙也くん鳩が豆鉄砲を食ったような顔になっとる。

それから、じわじわと怒りを溜め込んで――一気に嚙みついた。

「は!? なんやねん、それ! あかんやろ! 勝手に!!」
「いや、再会初日にいきなり名前呼ばそうとするお前に言われたないわ」
「あははっ! 侑士くん、レスバ強っ!」
「自分やって、構へんのやろ? 俺が名前で呼んでも」
「うちは全然ええけど……」

笑いすぎて出た涙拭いながら、謙也くんに視線を送る。

「許せへん……っ!」
「許せへんねんて」
「別に謙也に許可とる必要ないねんよ」

侑士くんに言い切られた謙也くんは、ふっと私を真っ直ぐ見る。
その顔に『なんか言い返したれ!』って書いてあるけど。
私はほんの少し頬が熱くなるのを感じながら、ほほ笑み返した。

「謙也くん、素直すぎて可愛すぎやわ」

画面の向こうで侑士くんが笑う。

言い返したいけど言葉が見つからない謙也くんの手を、私はそっと握った。
侑士くんには見えへん画面の下で。

謙也くんの手がピクリと反応して、照れくさそうに顔をしかめる。
それから、私の手を上から包み込むように指絡め、握り直してきた。

指先から伝わる体温が、心臓の奥まで沁みていく。

――こういうとこやで、謙也くん。
あなたの独占欲の強さに、心臓飛び跳ねてしまうよって。

自分から触れたのに、胸の高鳴りにほんの少し後悔する。
電話の画面が光る中、ああ、好きやなぁって。
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