4話:手のひらの上で

今日も今日とて、私は謙也くんのお家にお邪魔している。
きっかけは、謙也くんのペットのハヤブサ(イグアナ)が脱皮し始めたから見に来てほしいとかなんとか。

――いや、うち脱皮には興味ないねんけどな。
蛇の抜け殻みたいに金運上昇のご利益があるわけでもなしに。

そう思いつつも、私は忍足家のリビングでハヤブサを撫でている。
まあ、この子は大人しいておりこうさんやから結構可愛ええなとは思う。
……思うんやけど、なんや謙也くんハヤブサにデレデレでちょっとおもんない。

「お前は可愛ええなぁ」

とか、猫なで声やし。
そんなにハヤブサが可愛ええんやったら、ずっと愛でてれば? 

なんて、ほんの少しむっとしながら謙也くんを見る。
そうすれば、謙也くんはふと何かを思い出したように立ち上がってハヤブサをケースに戻した。

それからまじっと私を見て「あのさぁ」と隣に座る。
「なに?」
ちょっとだけハヤブサに嫉妬しとったから声がトゲトゲしてもた。

イグアナに嫉妬するのもおかしな話なんやけどな。
してもうたんやからしゃーないやん。

謙也くんは一瞬、面を食らったように瞬いたけど、それ以上言及することはなく「めちゃくちゃ今更やねんけど」と話し始めた。

私のちっちゃなやきもちは無視?
なんて思ったけれど、続けられた謙也くんの言葉に今度は私が瞬く番やった。

「真優、いっちゃん初めに侑士と話したとき」
「最初からあいつのこと名前で呼んだよな」

……この人、いつのこと言うてるんやろ。
しばらく放心したあと、私はよう分からんみたいに首を傾げて「まあ、そやね?」と返した。
私が謙也くん家に初めてお邪魔したときのことを言うてるんやと思う、多分。

肯定した瞬間、謙也くんの口がへの字に曲がった。

「なんで?」
「なんでって、なんで?」

意味が分からん。
なんや随分前のこと引っ張り出してきたなと思うたら、急にご機嫌斜めになりよる。
謙也くんはわずかに私と距離を詰めると、捲し立てるように口を開いた。

「いや、おかしいやん!?」
「俺んこと名前で呼ぶんは躊躇しまくったくせに!」

あまりの唐突さに、さっきのハヤブサに対するやきもちなんてすっかり忘れて、驚きも通り越して、呆れてしもた。

「ええ……そこ?」
「おん! なんでやねん!?」
「や、謙也くんの従兄弟やん。差別化必要やろ」

普通に考えてそうやん。
この家で私が「忍足くん」なんて呼んだら、謙也くんはおろか弟の翔太くんやって、下手しい謙也くんのお父さんやって振り向く。
そんなカオスな状況になるかもしれん空間で、従兄弟の侑士くんを忍足くんと呼べと?

やけど、謙也くんはむっと口を尖らせると「そうかもしれんけど、なんやむかつく」と拗ねた。
それから、今度は拳を作ってわなわな震えだし「あいつはあいつで……っ」と続ける。

「ノータイムで真優ちゃん、呼ぶし!」

――過去の、しかもどうしようもないことに嫉妬するなんて、可愛ええやん!

途端に笑いが込み上げて来て、私は「あははっ!」と声を上げて笑った。
その横で、謙也くんはおもむろにスマホを取り出す。

「なんや、腹立つから電話したろ……」
「今!?」

謙也くんは侑士くんにテレビ電話をかけ始めた。
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