2話:いざ、決戦の地へ
準備が完了して、全員がテニスコートに集まった。
このあとはきっと全員で円陣組んで――出発。
そう思いながら、白石くんの諸注意に耳を傾ける。
――それにしても。
私は部員全員を見た。
みんな、全国で戦えること楽しみにしとるんやろうなって顔。
わくわくして、きらきらして。
やのに、謙也くんだけは浮かない顔をして。
つい、心配になってしまう。
やっぱ、ネックレス預けたん重すぎたんかな。
今更になって、自分の行動に後悔していると「真優!」と白石くんから声が掛かった。
驚いて、思わず肩を揺らす。
白石くんを見返せば、彼は「ほんなら」と続けた。
「マネージャー。一つ、激励頼むわ」
思いがけない依頼に、私は声をひっくり返らせて「え!? うちが?」と聞き返す。
そうすれば、白石くんは何言うてんねんみたいな顔をして口を開く。
「当たり前やろ! 一緒に行かれへんねん」
「びしっと決めてもらわな俺ら出発できへんわ」
私は白石くんをまじまじ見て、それからみんなの方を向いた。
揃いも揃って期待しとるって顔で見ている。
そないに期待されてしもたら、しゃーないな。
私はやれやれと口角を上げた。
同行できへん私を受け入れてくれたみんなのために、一肌脱ぐとしますか。
私はみんなに向き直るとゆっくり息を吸い込んで口を開いた。
「まずは、全国出場おめでとう」
「ここまで来れたんは、みんなが毎日頑張ったからやで」
これは心から思っている私の本音。
嘘なんて一つもない。
それに、これから紡ぐ言葉にやって、嘘は一つもあらへん。
「うちらが目指すんは全国の中でも一番上――」
「全国優勝や」
みんなの前でこないに話すのって緊張するな、なんて頭の冷静な部分は考えとって。
でも、気の利いた言葉を考えるより先に、感じたままの言葉が音になって。
「今までの学校よりも強い学校が多いと思うし」
「それが全国っていう舞台の重みやないかな」
私はそこまで言うと、一度言葉を切った。
それから、自分の手元に一瞬視線を落として、再びみんなを見る。
「みんなは、うちのこと『たった一人で勝負しててすごい』とかって言ってくれるやろ?」
たった一人で舞台に上がって、ピアノを弾く。
客席の静寂も、冷たい鍵盤も――誰とも共有できへんで。
「確かに、それはあるんかもしれへん」
「ただ、うちの場合は全部が全部、自己責任や」
成功したら喝采。
失敗したら沈黙。
「失敗しても成功しても自己責任」
「それって実はプレッシャーって考えると、そんなに強いものやないんよ。背負うん自分だけやさかいな」
これはきっと、みんなが気付いていない事実。
たった一人で背負うものなんて、たかが知れている。
「やけど、みんなはちゃうやろ?」
私はそう言うと、部員一人一人に視線を送った。
不意に謙也くんと目が合う。
なんや分からんけど、抱えてはる謙也くん。
あなただけに贈る言葉やないけど、少しでも私の言葉が力になればいい。
「一人で背負う責任より――」
「みんなで背負う責任のほうが何倍も重い」
私は一度目を閉じると、まぶたをゆっくり持ち上げ話し続ける。
「試合で勝ってるときはええで?」
「ノリに乗っていけるさかいに」
「でも、例えば――前二試合、落としてもうた三戦目」
関西大会までの彼らを見とったら、そんなんあんま想像つかんのが正直なところやけど……。
「プレッシャーほんまきついと思う」
一瞬、白石くんと謙也くんがびくりと反応した。
「自分が勝たな負ける。自分が次に繋がなあかん……」
「この辺の重圧はうちには分からん」
「分からんなりに、ものすご重いことだけは想像できる」
にわかに、みんながざわめいた。
特に現二年生以上の子ら。
けど、反対に一年の子らはこのざわめきの正体が分からず、困惑している。
一瞬まずいと思ったけれど、もう言葉は戻らない。
私には話し続ける道しか残されていなかった。
私は息を吸い込むと、満面の笑みを浮かべてはっきりと言い切る。
「やけど『勝ったもん勝ち』や!」
「今のみんなはその状況をひっくり返せる」
「力も技術も、精神面での強さもあるよって」
たった数ヶ月。
学校も休みがちで、部活の参加率やって低い私が言うても信憑性なんてないかもしれへん。
でも、みんなの練習を間近で見てきた。
みんなの血の滲むような努力も、悔しさに打ちひしがれる姿も。
全部、全部、この目で見てきた。
「うちが保証したる!」
言い切った瞬間、謙也くんの目が見開かれた。
瞳がハッと何かに気が付いたように輝く。
さっきまでの、辛気臭い雰囲気は跡形もなくどこかへ飛んで行って。
ただ闘志が燃えている。
私はそっと胸をなでおろすと、続ける。
「そんだけ頑張ってきたんや!」
「自信もって全国行っておいでな!!」
どう言いあらわせば一番みんなにエールが届くんやろうと考えて出た言葉は、とても単純で。
それでも、これ以外には思いつかなくて。
「みんな、お気張りやす!!」
拳を高く上げれば、みんなも負けじと拳を高く上げた。
各々「頑張るで!」「やったる!」「今年こそ全国優勝や!」と口にしたかと思えば、次第に拍手が沸き起こった。
私は拍手の中、激励ってこんな感じでええかしら……と白石くんを覗き見た。
そしたら、ものすごくええ顔しとって。
ああ、これでよかったんや、って、ようやく肩の荷が下りた。
――あとは、みんなが頑張る番やで。
白石くんは適当なところで拍手を切り上げると「ほな、円陣組もか!」と声を掛ける。
部員全員――レギュラーもマネージャーもそうじゃない子らも関係なく大きな円陣を組む。
ぐっと近付いた視界の中で、白石くんが「ええか?」と声を上げた。
「俺らは去年、準決勝で負けてもうた」
「みんなめっちゃ悔しい思いをした」
転校初日に、白石くんが「全国ベスト4やった」と話していたのを不意に思い出した。
「やからこそ、俺らはその悔しさバネにして、毎日、毎日練習して努力を重ねてきたんや!」
白石くんの視線が円陣を組んだ全員をぐるりと見渡した。
「勝つで! 今年こそ!」
円陣を組んだ手に力が入る。
「勝ったもん勝ちや!」
白石くんの言葉をきっかけに全員が復唱した。
「勝ったもん勝ちやっ!!」
全員の闘志が校舎の窓ガラスを震わせた。
このあとはきっと全員で円陣組んで――出発。
そう思いながら、白石くんの諸注意に耳を傾ける。
――それにしても。
私は部員全員を見た。
みんな、全国で戦えること楽しみにしとるんやろうなって顔。
わくわくして、きらきらして。
やのに、謙也くんだけは浮かない顔をして。
つい、心配になってしまう。
やっぱ、ネックレス預けたん重すぎたんかな。
今更になって、自分の行動に後悔していると「真優!」と白石くんから声が掛かった。
驚いて、思わず肩を揺らす。
白石くんを見返せば、彼は「ほんなら」と続けた。
「マネージャー。一つ、激励頼むわ」
思いがけない依頼に、私は声をひっくり返らせて「え!? うちが?」と聞き返す。
そうすれば、白石くんは何言うてんねんみたいな顔をして口を開く。
「当たり前やろ! 一緒に行かれへんねん」
「びしっと決めてもらわな俺ら出発できへんわ」
私は白石くんをまじまじ見て、それからみんなの方を向いた。
揃いも揃って期待しとるって顔で見ている。
そないに期待されてしもたら、しゃーないな。
私はやれやれと口角を上げた。
同行できへん私を受け入れてくれたみんなのために、一肌脱ぐとしますか。
私はみんなに向き直るとゆっくり息を吸い込んで口を開いた。
「まずは、全国出場おめでとう」
「ここまで来れたんは、みんなが毎日頑張ったからやで」
これは心から思っている私の本音。
嘘なんて一つもない。
それに、これから紡ぐ言葉にやって、嘘は一つもあらへん。
「うちらが目指すんは全国の中でも一番上――」
「全国優勝や」
みんなの前でこないに話すのって緊張するな、なんて頭の冷静な部分は考えとって。
でも、気の利いた言葉を考えるより先に、感じたままの言葉が音になって。
「今までの学校よりも強い学校が多いと思うし」
「それが全国っていう舞台の重みやないかな」
私はそこまで言うと、一度言葉を切った。
それから、自分の手元に一瞬視線を落として、再びみんなを見る。
「みんなは、うちのこと『たった一人で勝負しててすごい』とかって言ってくれるやろ?」
たった一人で舞台に上がって、ピアノを弾く。
客席の静寂も、冷たい鍵盤も――誰とも共有できへんで。
「確かに、それはあるんかもしれへん」
「ただ、うちの場合は全部が全部、自己責任や」
成功したら喝采。
失敗したら沈黙。
「失敗しても成功しても自己責任」
「それって実はプレッシャーって考えると、そんなに強いものやないんよ。背負うん自分だけやさかいな」
これはきっと、みんなが気付いていない事実。
たった一人で背負うものなんて、たかが知れている。
「やけど、みんなはちゃうやろ?」
私はそう言うと、部員一人一人に視線を送った。
不意に謙也くんと目が合う。
なんや分からんけど、抱えてはる謙也くん。
あなただけに贈る言葉やないけど、少しでも私の言葉が力になればいい。
「一人で背負う責任より――」
「みんなで背負う責任のほうが何倍も重い」
私は一度目を閉じると、まぶたをゆっくり持ち上げ話し続ける。
「試合で勝ってるときはええで?」
「ノリに乗っていけるさかいに」
「でも、例えば――前二試合、落としてもうた三戦目」
関西大会までの彼らを見とったら、そんなんあんま想像つかんのが正直なところやけど……。
「プレッシャーほんまきついと思う」
一瞬、白石くんと謙也くんがびくりと反応した。
「自分が勝たな負ける。自分が次に繋がなあかん……」
「この辺の重圧はうちには分からん」
「分からんなりに、ものすご重いことだけは想像できる」
にわかに、みんながざわめいた。
特に現二年生以上の子ら。
けど、反対に一年の子らはこのざわめきの正体が分からず、困惑している。
一瞬まずいと思ったけれど、もう言葉は戻らない。
私には話し続ける道しか残されていなかった。
私は息を吸い込むと、満面の笑みを浮かべてはっきりと言い切る。
「やけど『勝ったもん勝ち』や!」
「今のみんなはその状況をひっくり返せる」
「力も技術も、精神面での強さもあるよって」
たった数ヶ月。
学校も休みがちで、部活の参加率やって低い私が言うても信憑性なんてないかもしれへん。
でも、みんなの練習を間近で見てきた。
みんなの血の滲むような努力も、悔しさに打ちひしがれる姿も。
全部、全部、この目で見てきた。
「うちが保証したる!」
言い切った瞬間、謙也くんの目が見開かれた。
瞳がハッと何かに気が付いたように輝く。
さっきまでの、辛気臭い雰囲気は跡形もなくどこかへ飛んで行って。
ただ闘志が燃えている。
私はそっと胸をなでおろすと、続ける。
「そんだけ頑張ってきたんや!」
「自信もって全国行っておいでな!!」
どう言いあらわせば一番みんなにエールが届くんやろうと考えて出た言葉は、とても単純で。
それでも、これ以外には思いつかなくて。
「みんな、お気張りやす!!」
拳を高く上げれば、みんなも負けじと拳を高く上げた。
各々「頑張るで!」「やったる!」「今年こそ全国優勝や!」と口にしたかと思えば、次第に拍手が沸き起こった。
私は拍手の中、激励ってこんな感じでええかしら……と白石くんを覗き見た。
そしたら、ものすごくええ顔しとって。
ああ、これでよかったんや、って、ようやく肩の荷が下りた。
――あとは、みんなが頑張る番やで。
白石くんは適当なところで拍手を切り上げると「ほな、円陣組もか!」と声を掛ける。
部員全員――レギュラーもマネージャーもそうじゃない子らも関係なく大きな円陣を組む。
ぐっと近付いた視界の中で、白石くんが「ええか?」と声を上げた。
「俺らは去年、準決勝で負けてもうた」
「みんなめっちゃ悔しい思いをした」
転校初日に、白石くんが「全国ベスト4やった」と話していたのを不意に思い出した。
「やからこそ、俺らはその悔しさバネにして、毎日、毎日練習して努力を重ねてきたんや!」
白石くんの視線が円陣を組んだ全員をぐるりと見渡した。
「勝つで! 今年こそ!」
円陣を組んだ手に力が入る。
「勝ったもん勝ちや!」
白石くんの言葉をきっかけに全員が復唱した。
「勝ったもん勝ちやっ!!」
全員の闘志が校舎の窓ガラスを震わせた。