2話:いざ、決戦の地へ
謙也くんを探して私はうろうろする。
今朝、学校には来とったからどっかしらにはおるはずやねんけど。
こんな見つからんのなんて珍し。
そんなことを考えながら、中庭を覗いたら――おった。
ベンチに座ってぼんやり空見上げとる。
いっつも速さにこだわっとる癖に。
こんな日にのんびりしてからに。
私はそっと息を吐くと近寄って、彼を覗き込んだ。
「謙也くん」
謙也くんは私を視界に収めると、一瞬驚いたように、びくっと跳ねてから「なんや、真優か」と姿勢を正した。
正した、と言っても空見るのやめて、こっち向き直っただけ。
私はベンチに座ったままの謙也くんを見つめると、うしろ手に手を組んで首を傾げる。
「珍しな。こんな日にぼーっとしとるなんて」
「俺かてぼーっとすることくらいあるっちゅー話や」
「ふぅん。何考えてたん?」
「……明日の天気のこととか」
「嘘やん」
「バレたか」
「バレバレやわ」
私がため息交じりにそう言えば、謙也くんは再び空を見上げて口を開いた。
「……去年の全国のこと、ちょっと思い出しとっただけや」
ぽつりと囁かれた言葉に影が差しとる。
謙也くんのらしくない雰囲気に、触れてええことか分からんで、私は思わず口をつぐんだ。
なんや追求したらあかん気がして、私は咳払いのあと「謙也くん、探しとったんよ」と話を切り替えた。
実際、用事があったのはほんまやさかいな。
謙也くんは不思議そうに目を丸くすると「俺?」と自分を指さす。
私は頷くと左の手首から一粒ダイヤのネックレスを外した。
真夏の太陽の光を受けて、きらりと眩しく光る。
その眩しさに、私は一瞬目を細めると、穏やかな表情になって言葉を紡いだ。
「手ぇ出して」
謙也くんはわけが分からなさそうに手を出す。
素直やな、なんて思いながら私は彼の手のひらにネックレスを乗せた。
「真優、これ……っ!」
「持ってき。うちのお守りや」
そう言って笑って見せても、謙也くんはなかなか手のひらを閉じない。
というより、驚いて私とネックレスを凝視しとる。
まあ、そんな反応になるんも無理ないか、と私はそっと息を吐いた。
謙也くんは――私とこのネックレスの繋がりを唯一知っとる人で。
やからこそ、受け取れないんやと思う。
私の一番大切なものやって、分かってくれとるから。
「うち、このネックレス持ってから負けなしやの」
そっと、このネックレスのジンクスを伝える。
特別な内緒話を告げるように耳元で囁けば、謙也くんの瞳が真っ直ぐに私に向けられた。
間近で目が合って、柔らかにほほ笑む。
「やから――絶対勝たせてくれるよって!」
そう言い切って、私は謙也くんの手のひらを上から包み込むように閉じさせた。
謙也くんの瞳が揺れる。
私を見て、それから閉じられた手のひらに視線落として呟くように言った。
「これ、預かったら負けられへんな……」
なんで今日に限ってそんな弱気なんやろ。
謙也くんの元気のなさの原因が分からへん。
そんな弱っている彼にこんなお願いをするんは心苦しいけど、今日、今このときにしかできへんお願い。
私は真っ直ぐ謙也くんを見つめて――懇願するように言葉を紡いだ。
「うちのことも全国連れてって」
謙也くんにしか頼まれへんお願い。
私は同行できないから、せめてネックレスだけは連れて行ってほしい。
みんなと同じ空気吸って、景色を見て――それで帰ってきてほしい。
「お願い」
言葉を聞いた瞬間、謙也くんは目を見開いた。
それから、少しだけ困ったみたいに目を細めて笑って、ネックレスを持つ手に視線を落とした。
「そんなん言われたら、連れて行かんわけにいかんやん」
謙也くんはネックレスを握った手と反対の手で、私を軽く引き寄せると「任せとき」と満面の笑顔を向けた。
――謙也くんは優しいな。
なんやナーバスになっとるみたいやけど、それでもわがままを聞いてくれる。
改めて思う。
謙也くんはほんまに強い。
人の気持ちまるっと包み込むくらい器が大きい。
多分、謙也くん自身なんか抱え込んどるのに。
それに気付いているのに、私はこの人にいくらでも甘えてしまう。
「ほんま、ありがとうな」
私の言葉が風に乗る。
夏の日差しに導かれて、どこまでも、どこまでも飛んでいけるような気がした。
――大丈夫や。みんなは絶対負けへん。
今朝、学校には来とったからどっかしらにはおるはずやねんけど。
こんな見つからんのなんて珍し。
そんなことを考えながら、中庭を覗いたら――おった。
ベンチに座ってぼんやり空見上げとる。
いっつも速さにこだわっとる癖に。
こんな日にのんびりしてからに。
私はそっと息を吐くと近寄って、彼を覗き込んだ。
「謙也くん」
謙也くんは私を視界に収めると、一瞬驚いたように、びくっと跳ねてから「なんや、真優か」と姿勢を正した。
正した、と言っても空見るのやめて、こっち向き直っただけ。
私はベンチに座ったままの謙也くんを見つめると、うしろ手に手を組んで首を傾げる。
「珍しな。こんな日にぼーっとしとるなんて」
「俺かてぼーっとすることくらいあるっちゅー話や」
「ふぅん。何考えてたん?」
「……明日の天気のこととか」
「嘘やん」
「バレたか」
「バレバレやわ」
私がため息交じりにそう言えば、謙也くんは再び空を見上げて口を開いた。
「……去年の全国のこと、ちょっと思い出しとっただけや」
ぽつりと囁かれた言葉に影が差しとる。
謙也くんのらしくない雰囲気に、触れてええことか分からんで、私は思わず口をつぐんだ。
なんや追求したらあかん気がして、私は咳払いのあと「謙也くん、探しとったんよ」と話を切り替えた。
実際、用事があったのはほんまやさかいな。
謙也くんは不思議そうに目を丸くすると「俺?」と自分を指さす。
私は頷くと左の手首から一粒ダイヤのネックレスを外した。
真夏の太陽の光を受けて、きらりと眩しく光る。
その眩しさに、私は一瞬目を細めると、穏やかな表情になって言葉を紡いだ。
「手ぇ出して」
謙也くんはわけが分からなさそうに手を出す。
素直やな、なんて思いながら私は彼の手のひらにネックレスを乗せた。
「真優、これ……っ!」
「持ってき。うちのお守りや」
そう言って笑って見せても、謙也くんはなかなか手のひらを閉じない。
というより、驚いて私とネックレスを凝視しとる。
まあ、そんな反応になるんも無理ないか、と私はそっと息を吐いた。
謙也くんは――私とこのネックレスの繋がりを唯一知っとる人で。
やからこそ、受け取れないんやと思う。
私の一番大切なものやって、分かってくれとるから。
「うち、このネックレス持ってから負けなしやの」
そっと、このネックレスのジンクスを伝える。
特別な内緒話を告げるように耳元で囁けば、謙也くんの瞳が真っ直ぐに私に向けられた。
間近で目が合って、柔らかにほほ笑む。
「やから――絶対勝たせてくれるよって!」
そう言い切って、私は謙也くんの手のひらを上から包み込むように閉じさせた。
謙也くんの瞳が揺れる。
私を見て、それから閉じられた手のひらに視線落として呟くように言った。
「これ、預かったら負けられへんな……」
なんで今日に限ってそんな弱気なんやろ。
謙也くんの元気のなさの原因が分からへん。
そんな弱っている彼にこんなお願いをするんは心苦しいけど、今日、今このときにしかできへんお願い。
私は真っ直ぐ謙也くんを見つめて――懇願するように言葉を紡いだ。
「うちのことも全国連れてって」
謙也くんにしか頼まれへんお願い。
私は同行できないから、せめてネックレスだけは連れて行ってほしい。
みんなと同じ空気吸って、景色を見て――それで帰ってきてほしい。
「お願い」
言葉を聞いた瞬間、謙也くんは目を見開いた。
それから、少しだけ困ったみたいに目を細めて笑って、ネックレスを持つ手に視線を落とした。
「そんなん言われたら、連れて行かんわけにいかんやん」
謙也くんはネックレスを握った手と反対の手で、私を軽く引き寄せると「任せとき」と満面の笑顔を向けた。
――謙也くんは優しいな。
なんやナーバスになっとるみたいやけど、それでもわがままを聞いてくれる。
改めて思う。
謙也くんはほんまに強い。
人の気持ちまるっと包み込むくらい器が大きい。
多分、謙也くん自身なんか抱え込んどるのに。
それに気付いているのに、私はこの人にいくらでも甘えてしまう。
「ほんま、ありがとうな」
私の言葉が風に乗る。
夏の日差しに導かれて、どこまでも、どこまでも飛んでいけるような気がした。
――大丈夫や。みんなは絶対負けへん。